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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第27話 明かされる未知の魔法

「ふう……間に合ってよかったです」


 胸に手を当て、安堵の息を漏らした女性が振り返ると、呆然と立ち尽くすメイと芹澤の姿があった。


「どうかなさいました? そんな驚いた顔で固まって……」


 二人に声を掛けると、我に返った芹澤が話しかけてきた。


「そ、そうだ! フェイはどうなってしまったのでしょうか? いや、そんなことよりも響さんとクロノスは?」


 困惑した様子で質問する芹澤に対し、まっすぐ見つめたまま女性は静かに話し出す。


「そうですね……どこから説明したほうがいいでしょうか……」


 女性が頭をかき、困ったように笑うとすかさず芹澤が畳み掛けた。


「どう考えても普通の魔法ではありませんでした……空中に空いた謎の大穴、拘束した鎖、なによりもフェイの妖力を封じることなどできるわけがない!」

「なるほど、あなたの考えはわかりました。それではお聞きしましょう……どれが不可能だと思ったのでしょうか?」

「全部に決まっているじゃないですか! ちゃんと説明していただけないでしょうか? このプロフェッサーが理解できないことが許せないんです!」

「ふふ、本当に翔太郎の息子なんだな……そっくりな反応をするってレアが言っていたけど、本当ね」


 興奮した様子で前のめりになりながら聞き返す芹澤を見て、女性から笑い声が漏れる。その様子を見ていたメイが、不思議そうな顔で話しかけた。


「すみません、お話の途中で申し訳ないのですが……レアさんとお会いされたことがあるのでしょうか? さっき呟かれていたのが聞こえて……」

「あら? 聞こえてましたか……」


 メイの質問を聞いて驚いたように顔を上げた女性だが、すぐにうつむいて寂しそうに話しはじめる。


「そうですね……彼女とは古い友人だったとでも申し上げましょうか。もう何年も会えていないのですが……」

「あ、変なこと聞いてごめんなさい……そんなつもりじゃなかったのですが……」

「大丈夫ですよ。ちょっと事情があってなかなか会えないのですが、彼女のことはちゃんと見守っていますから」


 申し訳なさそうに悲しげな表情を浮かべるメイに対し、優しく声を掛ける。


「ありがとうございます! きっと近いうちに再会できると思います!」

「ふふ、そうですね。もし再会できたらゆっくり話をしたいですね」


 一気にメイの表情が明るくなり、笑顔で話す様子を見ると女性もつられて笑みがこぼれる。そして芹澤に向き直り、落ち着いた声で話しはじめた。


「ごめんなさい、話が逸れましたね。続きをどうぞ?」

「こちらこそ申し訳ない。それでは一つ一つ伺っていきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

「構いませんよ」


 女性から聞き返されて右手を顎に当て、少し考え込む芹澤。ほんの僅か間が空いた後、意を決したように口を開く。


「それではまず初めに、フェイが飲み込まれていった空中に空いた大きな黒い穴について聞いてもよろしいでしょうか? 私が経験したことのある転移魔法とは明らかに違うものだと感じましたが、いかがでしょうか?」

「転移魔法をご存知ということは、学園長の使う次元回廊ディメンションズ・ゲートのことでしょうか?」

「そのとおりです。やはりご存知でしたか……」

「もちろんですよ。時空を超えるという原理は同じようなものですが、私が使ったものは一方的に追い返す魔法です。魔力消費量が半端ではないので、何度も使えるような代物ではありませんが……」

「そ、そんな魔法が存在するなんて……」


 女性が淡々と説明を続けると芹澤は目を見開き、言葉を失った。そんな彼の様子を気にも留めず、彼女は語り続ける。


「普通の魔力量では、穴を開くだけで枯渇してしまう。それほど、世界の理から外れた魔法なんですよ」

「世界の理から外れた魔法……ですか?」

「ええ。詳細を話すことはできませんが、古に封印された魔法とでもいいましょうか。何度も使えるような代物ではありませんから、切り札の一つですね」

「た、たしかに……」


 告げられた事実に、芹澤の思考が一瞬止まる。すると助け舟を出すようにメイが女性に話しかけた。


「すごいですね! そんな貴重な魔法を見せてもらえるなんて……フェイさんの動きを封じた黒い鎖も同じなんですか?」

「ええ、同じ属性の魔法よ。彼の場合、結構無鉄砲に動くことがあるから動きを封じないと危ないのよね……」

「そうなんですか。もしかしたら私たちも巻き込まれていたかもしれないですね。本当に守っていただいてありがとうございます。あ! そういえば身動きが取れなくて大変そうでしたが、大丈夫でしょうか?」


 心配そうな顔で真剣に問いかけるメイに対し、女性は呆気にとられてしまう。


(自分と敵対している妖精の心配をするなんて……やっぱり光属性、いや巫女の末裔という話は本当みたいね……)

「もちろん大丈夫よ。彼があの程度で怪我をするようなことはないし、また近いうちに現れると思います……相当な恨みを買うようなことを冬夜がしたようで……」


 女性が向けた視線の先では、冬夜が静かに眠っていた。優しさと寂しさの入り混じった光が、彼を見つめる目に宿っていた。


「そうですね……いつか仲直りできるとよいのですが……」

「ふふ、そうね。あなたの言うようにそんな日が来たら面白いわね」


 顔を上げた女性とメイの視線が交わると、どちらともなく笑みがこぼれた。

 この直後──たった一つの問いが、すべてを覆すことになるとも知らず……

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