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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第25話 新たな魔法と決着の時

 煙に包まれた空で、フェイは先程の女性の気配を必死に探っていた。


「クソッ……人間風情がどこまでも邪魔しやがって……どこに消えた!」


 必死に周囲を見渡すが目的の人物を見つけることはできず、焦りだけが積もっていった。そんな時、フェイの耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「随分焦っていらっしゃいますが、どうされたのでしょうか?」

「ふ、ふん! この僕が焦っているだと? 下等な人間の分際でふざけたことを言うな!」


 痛いところを突かれたフェイが右手を掲げて妖力を集約しようとしたときだった。


「な……なぜ力が集まらない? そんなバカな!」


 何度も右手を掲げて左右に振ってみるが、何の反応も示さなかった。なんとかして魔法を使おうと試みていた時、ある異変に気がつく。


「どういうことだ? ただの煙のはずなのに……」


 魔法が激突してフェイの周囲が煙に包まれてから、かなりの時間が経過しているのに一向に煙が薄くならない。それどころかどんどん濃さが増してきて、数メートル先の視界すら完全に失われていた。


「な、なんで煙が濃くなるんだ! クソっ、人間風情が僕に歯向かうなんてありえないんだよ!」

「おやおや? 先程までの余裕の態度はどこに消えたのでしょうか? あまりに焦りすぎて、冷静に状況把握すらできていませんね……」

「何を言っているんだ! 僕は妖精なんだ……人間が作り出した煙なんか関係ないんだよ!」


 フェイが怒号とともに妖力をぶつけると、渦巻くように煙が裂けた。


「ふはは! 見ているか人間め! 僕が本気を出せば、こんな煙なんかひとたまりもなく――」


 先程までとは打って変わり、高笑いが止まらないフェイ。その様子を見た女性が大きなため息を吐くと、諭すような口調で話しかける。


「はぁ……まだご自身が()()()()()()()()に気がついていないとは……随分間抜けなんですね、妖精さんは」

「は? まだ力の差がわかっていないようだな! さあ、泣き叫んで許しを請う無様な姿を見せてみろ!」

「そのセリフを、そのままそっくりお返ししますよ」


 高笑いの止まらないフェイに対し、呆れたように女性が声を発した直後だった。


「ちょっと待て……なんで僕の周りだけ煙がない? それにこの身体が引っ張られるような感覚は一体なんだ?」


 違和感を覚えたフェイが何かに気づき、見上げたときだった。はるか上空に、手のひらサイズの黒い影のようなものが出現していた。


「な……何だあの黒い穴のような物体は?」


 戸惑いをながら見上げていると、拳ほどの黒い影がいつの間にか数メートルを超える大きさまで成長した。穴の周囲には電流が走り、すべてを飲み込んでしまうような錯覚を覚えた。


「ちょっと待て……さっきよりも引っ張られる力が強くなってないか? ま、まさか、あの黒い穴の吸い込む力が増しているのか?」


 少しずつローブを引っ張られる感覚が強くなりはじめ、先程までの余裕が消えはじめる。その様子を見逃さず、女性が煽るような口調で話しかける。


「ずいぶん余裕が無さそうに見受けられますが? 自分よりも下位の存在と見下していた()()()()()()()()()()感覚はどんな気持ちでしょうか?」

「う、うるさい! 僕が焦っているだと? 笑わせるな!」

「そうですか。では――いつまで抵抗できるのか、見せていただきましょうか。闇よ――原初(はじまり)より来たりし虚無(ナダ)の鼓動。我が詠を導とし、(そら)を裂き、星を呑め。光を拒み、秩序を崩せ――虚空(アビス・)創星(ジェネシス)!」


 女性の声が響き渡ると、フェイを吸い上げようとする力が一気に跳ね上がる。身にまとったローブは勢いよく上空へ引っ張られ、彼の身体もジリジリと引きずられはじめる。


「クソっ……妖力さえ戻れば、こんな力なんて!」

「見苦しいですね。昔から全く成長しておられなくて、がっかりしましたよ」

「何のことだ? 戦ったことがあるだ……と?」


 必死に吸い込まれないように抵抗しながら耐えているフェイだったが、女性が放った一言に思わず顔をしかめる。


「ええ、人間のことなど覚えていらっしゃらないと思いますが。()()()()()()()()()()()()も、冷静さを失って自爆されましたもんね?」

「な、なぜそのことを知っている?」

「足りない頭で思い出してみてはいかがでしょうか? 闇の魔力を持つ人間に何度も負ける理由が見えるかもしれませんよ」

「わ、わかったぞ! お前の正体が!」

「そうですか。私の出番はここまでです。後のことは冬夜に任せましょう。それでは、またいつかお会いできたらいいですね」

「ふざけるな! 今すぐこの手で決着をつけてやる!」


 怒りが頂点に達し、顔を真っ赤にしたフェイが吸い込まれる力を振り切ろうと身体をよじらせたときだった。ほんの一瞬顔を背けた隙を見逃さず、女性がトドメの一撃を放つ。


「お別れです! 沈黙(しじま)に縛られろ――黒天(オブリヴィオン)(・チェイン)!」


 短く詠唱を唱えると同時に、フェイの体に漆黒の鎖が巻き付く。


「この恨みは忘れないからな!」


 抵抗する術を失ったフェイの声が虚空に吸い込まれていく中、黒い穴はまるで世界が目を閉じるようにゆっくりと消えた。


「なんとかなりましたか……」


 雲一つない青空が現れ、自らに言い聞かせるように呟く女性。その様子を目の当たりにし、呆然と立ち尽くす人物がいた。


「な、何が起こったんだ……」


 目の前で起こったことが理解できず、言葉を失ってしまう。

 鎖に繋がれ、謎の黒穴へ吸い込まれたフェイは――どこへ消えたのか?

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