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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第25話 底しれぬ女性の実力

 空を見上げて呆然と立ち尽くしているメイと芹澤の様子に気づき、ゆっくリ降り立つ女性。ぐったりとした体を肩から下ろし、慎重に正面へと抱きかかえると二人に声を掛ける。


「なんとか間に合いましたね。二人とも怪我はありませんか?」

「えっ、あ、は、はいっ!」


 突然声をかけられ、頭の中が真っ白になって言葉がうまく出てこないメイ。その様子を見た芹澤が素早く彼女の前に出て、言葉を選びながら答えはじめる。


「お気遣いありがとうございます。幸いなことに、急を要するようなことは一切ございません」

「そうですか……二人を巻き込まずに済んで良かったです」


 怪我がないことを確認すると、女性が纏う空気は緩んだように見えた。その雰囲気を察知した芹澤がすかさず問いかける。


「ええ、我々は無事でしたが……フェイと交戦していた冬夜くんの容態が心配です。自分の見立てでは、気を失っているように思えますが?」

「そうでした。あなたのおっしゃるように気を失っておりますね」

「やはり……そうなると早く病院なりに運んだほうが良いのではないでしょうか?」

「その必要はありません。目立った外傷もありませんし、深刻なダメージも受けていないと思われます。至近距離で高出力の魔法を受けたことにより、一時的に魔力がオーバーヒートしただけですから……」


 腕の中で力なく横たわっている冬夜を見ると、すぐ二人に視線を動かして安心させるように話しはじめる。


「心配はいりませんよ。オーバーヒートしたからといって命に関わるようなことはありませんし、いずれ目を覚ますと思います」

「そうですか……あれだけの魔法戦に巻き込まれて()()というのも、奇跡に近いと思いますが……」

「そうですね。普通の人であれば無傷では済まない……いえ、運が良くて数か所の骨折。最悪の事態も覚悟しなければなりません。私が()()()()()()()()()()とはいえ、あなたの見立ては間違っていませんよ」


 女性の言葉を聞いた芹澤の目が細くなる。


(瞬間的に結界を張っただと? あの状況でそんなことができるのか?)

「ふふふ……表情に疑問が出ていますよ? きっとこう考えていたのではないですか? 『フェイとの戦闘中に第三者に気を使う余裕がどこにあったのか?』と」

「お見通しでしたか。戦闘に割って入っただけでなく、暴走気味のフェイを抑えながら第三者を守るなんて芸当ができるのでしょうか?」


 芹澤が射抜くような視線とともに言葉をぶつけ、相手の反応を伺う。しかし、女性は一切動じずに話を続ける。


「普通に考えれば不可能だと思いますよ。誰かをかばうために魔力を分散させた状態で妖精と戦うなんて自殺行為です。しかし、起こるであろう事象を()()()()()()()()()()問題ありませんよね?」

「な……いくらなんでも、そんなことができるはずが……」

「できますよ、彼の行動パターンはよく知っていますから」

「しかし、知っていてもそのとおりに行動するとは限りませんよね?」

「言っていることはわかりますよ。しかし、あらかじめ用意した防御結界へ(冬夜)を誘導し、わざと気絶するように仕向けるのは簡単ですよね? すべて先読みできているのですから」

(そんな理屈が通用するはずがない! パターンがわかっていたとしても、寸分の狂いなく誘導するなど……しかし……)


 何度考えても成功する理論にはたどり着かないが、彼女は眼の前でやってみせた。何が足りていないのかわからず、質問したくても言葉が出てこない。すると、隣で黙って聞いていたメイが遠慮気味に口を開く。


「あの……冬夜くんを助けていただいてありがとうございます。すごく言いづらいのですが……聞いてもよろしいでしょうか?」

「ふふふ、遠慮する必要なんてないわ。何でも聞いてくれていいのよ、メイさん?」

「え?」


 女性から自分の名前を呼ばれ、思考が一瞬止まってしまうメイ。


(え? なんで私の名前を知っているの? 初めてお会いしたはずなのに…)

「びっくりしたでしょ? 詳しいことはまだ明かすことができないけど……あなたのことはよく知っているわよ」

「そうなんですか? 知っていただけていて嬉しいです!」


 笑顔で語りかけるメイの姿を見て、女性の纏っていた空気も一瞬柔らかくなる。


「あ! すいません、お話の途中だったのに……」

「いいのよ。ところで、メイさんが私に聞きたいことって何かしら?」


 穏やかな口調で女性が聞き返すと、笑顔だったメイの表情が真剣なものに変わる。


「私たちがプロフェッサーさんの元に駆けつけた時、冬夜くんのお父さんが気を失った状態で捕まっていたんです。それからすぐクロノスさんとの戦いが始まったんですが、もしかして怪我とかしているんじゃないかと……」


 話を聞いた女性は、顎に手を当てて俯いてしまう。普通であれば回避するだけで精一杯な状況なのに、他人の動きを見られる視野の広さ、さらに置かれている状況を正確に把握しようとする分析力――健気に話す彼女の雰囲気からは考えられなかった。


(なかなかすごい洞察力をしているわね。自分自身が戦闘に巻き込まれる危険がある中で、全体を把握しているなんて……)

「あれ? もしかして私、すごく変なことを言ってしまいましたか?」

「え? あ、そんなことないわ。そうね、たしかに心配になるわよね」

「そうなんです! もし大怪我をしていたらと思うと……」


 青ざめた顔で声を震わせるメイ。その様子を見た女性はゆっくり彼女に近づくと、安心させるように語りかける。


「優しいのですね。メイさん、その心配は杞憂に終わりますよ」

「そうなんですか? でも……」

「すぐに分かります。それより……私に残された時間がもう長くはありません。二人にお願いがあります。冬夜が目を覚ましたら、伝えてほしいのです。『近いうちにまた会いましょう』と……」


 言い終えると、女性は地面の上に優しく冬夜を寝かせ、未だ煙が視界を遮る空を睨みつける。


「さあ……時間切れです。さっさとお帰りいただきましょうか」


 右手を頭上に掲げると女性の声が静寂を切り裂く。すると風の音が止み、世界が一瞬止まったような錯覚が広がった。

 彼女が言い放った言葉の意味とは――?

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― 新着の感想 ―
かなり長編に渡っているようでしたので、最初数話と人物紹介、最新の数話を一先ず読ませていただきました。 会話のテンポが良く、キャラも立っていて読みやすかったです。 世界観も分かりやすく、入り込みやすい作…
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