第23話 謎の女性とフェイの暴走
突然聞こえた声にメイが困惑する中、それぞれが武器を手にしたままフェイと冬夜のにらみ合いが続いていた。
「ほう……良いでしょう。接近戦を選ぶとは、よほど叩きのめされたいようですね」
「どこまで大口を叩いていられるか、見ものだな」
「いちいち癪に障る言い方ですね……」
「そのセリフはそのままお返しするぜ。少しは痛い目を見ないとわからないらしい」
「ふん、威勢の良さだけは認めてあげましょう」
言い争いが加速し、空中で火花が散っているかのように視線がぶつかり合う。ほんの数秒だが、睨み合っていた二人が同時に叫んだ。
「今日が貴様の命日だ!」
「今日こそお前との決着をつけてやる!」
吐き捨てるように言い放った直後、二人の姿が揺らぎ、閃光が走った――その時だった。
「この勝負は、私が預かりましょう」
光が激突する寸前、金属が打ち鳴らされるような音と共に女性の声が響く。見えない壁に阻まれ、武器を振り下ろそうとしていた二人の体が空中で止まる。
「くっ……誰だ! 勝負の邪魔をするなんて非常識だ!」
「う、動けない……誰か知らないが、その場をどいてくれ!」
力ずくで押し切ろうとする二人の間に立っていたのは真っ白な着物をまとい、狐面で顔を隠した女性だった。両手を広げたまま微動だにしない。
「急いで駆けつけてみれば、こんな事になっているとは……あまり手荒な真似はしたくありませんでしたが、仕方ありませんね」
女性が小さくため息をつくと、掌に淡い光が集まり始める。
「な、何をするつもりだ! この僕を誰だと思って……」
「ええ、もちろん存じていますよ。三大妖精のフェイくん。……いつまでおふざけを続けるつもりですか?」
「は? お前は何を言っているんだ? 僕のことを知っていてコケにするとは……ふざけるのも大概にしろ!」
フェイの顔が真っ赤になり、槍を持つ手に青白い光が走る。服の上を細かな稲妻が踊り、雷雲をまとったかのように輝きが増していく。
「高貴なる妖精をバカにした罪は重い! 後悔しても遅いからな!」
「やれやれ……私の忠告は聞いていただけないようですね」
「はっ、なんで僕がお前のような得体のしれないヤツの忠告を聞く必要がある? 寝言は寝てから言え!」
挑発されたフェイの目が血走り、理性が崩れ落ちていくのが誰の目にも明らかだった。
「やれやれ……仕方ありません。もう少し穏便に進めたかったのですが、話を聞いてもらえる様子ではないですね」
女性はわざとらしくため息を吐き、今度は冬夜の方へ顔を向けてはっきりと告げた。
「冬夜、巻き込まれたくないのなら、私の合図とともに後ろへ飛び退きなさい。被害は最小限で済むでしょう」
「え? なんで俺の名前を知っているんだ?」
突然名指しされ、冬夜が戸惑う。ほんの一瞬、刀を握る手の力が緩む。その隙を彼女は見逃さなかった。
「この程度で動揺していては、まだまだですね。一瞬の隙が命取りになりますよ……さて、あちらも限界が近いようですし、準備はいいですね?」
「あ、ああ……で、でもまだ下にメイと副会長が!」
「心配いりません。すぐ意味がわかりますよ」
「は? どういうことなのか、さっぱり……」
動揺する冬夜を見て、女性の雰囲気がわずかに柔らかくなる。
(ふふふ、以前よりは冷静さも身についていますが……まだまだ経験が足りませんね。これは少し荒療治が必要です)
彼女は小さく首を振り、天を仰ぐ。
「さて……不毛な争いには早々に決着をつけましょう。あなたの考えなど、すべてお見通しですよ、フェイ」
「この期に及んで何を言っているのか、理解に苦しむな……僕をバカにした罪の重さを思い知れ!」
青白い光を全身にまとったフェイが後ろへ跳び、槍を天へ掲げる。雲ひとつない青空に突然、雷が落ちた。槍は黄金色に輝き、空間全体が妖力で満たされる。
「冬夜、今すぐ後ろへ飛びなさい! できる限り遠くに!」
「え、あ、はい!」
女性の怒号と同時に冬夜が刀を軸にして後ろへ飛ぶ。
「すべて消し去ってやる! 天に坐す雷神よ、我が右手に槍を与え給え──罪深き者に、神罰の雷を突き立てん! 神罰雷槍!」
振りかぶったフェイが槍を投げ放つ。
「やはりそう来ましたか……仕方ありませんね、受けて立ちましょう! 黄泉の門よ、今開かれよ──亡者の嘆きと共に、すべてを葬る終焉の旋律を奏でろ! 黒葬ノ終曲!」
女性が右手を差し出すと漆黒の球体が生まれ、槍と衝突した瞬間、空中で大爆発が起きた。閃光と轟音が走り、爆風と熱波が吹き荒れる。後方に退いた冬夜も巻き込まれてしまう。
「と、冬夜くん!」
悲痛な叫びを上げるメイの声も、爆音にかき消された。
「こ、これはいかん……メイくん、伏せるんだ!」
芹澤の声も虚しく、全員の視界が白い光に覆われた。
――巻き込まれた冬夜たちは無事なのか?
突然現れた女性の正体と、フェイとの決着は……




