第22話 異変の始まりと謎の乱入者
冬夜とメイの魔力が乗った矢が直撃し、空中で大爆発が起きる。
「光と闇の魔力が融合した技だと……しかも、椿家で見たものとは比べ物にならない威力だ。実に面白い研究対象が現れたな」
二人の融合魔法を目の当たりにした芹澤が笑みを浮かべていると、冬夜とメイの声が聞こえてきた。
「ちょっと派手にやりすぎたかな?」
「思ったより威力が出たね、驚いちゃったよ」
「まさか……ここまで大きな爆発になるとは思ってなかった。少し前に言乃花の家で使ったときとは別物だ」
「そうなんだ。でも、クロノスさん大丈夫かな?」
「心配する必要はないと思うぞ。この程度でどうにかなるようなヤツじゃないからさ」
煙の中を探り探り進む二人の様子を見た芹澤は小さく息を吐く。
(メイくんはさすがだ……冬夜くんの魔力をうまくコントロールしている。だが、敵の安否を気にするあたりはいつも通りか……さて、後輩たちを迎えに行くとするか)
歩いている二人に声をかけようとした時、異変に気づいた芹澤が大声で叫ぶ。
「冬夜くん、メイくん! 今すぐその場に伏せろ!」
「え?」
芹澤の声に驚きながら、二人は揃ってしゃがみ込んだ。次の瞬間、冬夜の頭上を何かがかすめ、数メートル後方で爆発が起きる。
「な……急に爆発した? なんで?」
「冬夜くん、大丈夫?」
「ああ、副会長の声が聞こえなかったら直撃していたかもしれない……」
頭を伏せたまま会話する二人だったが、頭上から聞き覚えのある声が響いた。
「ちょっと様子を見に来たら……クロノスも油断しすぎだよ」
「こ、この声は……なんでお前がいるんだ、フェイ!」
冬夜が勢いよく立ち上がり、まだ煙が立ち込める空を睨みつけて叫ぶ。
「おや? 誰かと思えば……こんなところで何をしているのでしょうか?」
「それはこっちのセリフだ!」
フェイの声を聞いた冬夜が頭上に右手を掲げ、魔力を集約させる。空中を覆っていた煙が渦を巻き始め、徐々に晴れていく。
「そこだ! 穿て、陰陽の一輪花!」
冬夜が叫ぶと同時に右手から光の帯を纏った矢が、煙を切り裂くように一直線に飛んでいく。
「ふん、二度も同じ攻撃が通ると思うな。相殺!」
フェイが短く詠唱すると、冬夜の放った矢が空中で急停止した。
「先ほどと比べて威力も何もかもが不足している……こんな子供だましが僕に通用するわけがない。消失!」
詠唱が響くと矢の先端から粒子が霧散するように消えていく。同時に空を覆っていた煙が完全に晴れ、フェイの姿があらわになる。見慣れた濃い緑のローブに身を包み、黄色い髪が風に揺れていた。冬夜たちを見下ろす表情には笑みが宿り、周囲には意識を失ったクロノスと響の姿も浮かんでいる。
「お、親父……それにクロノスまで?」
「バレてしまいましたか。ご安心ください、二人とも命に別状はありません。起きていられると面倒なので、少し眠っていただいているだけですよ」
「……なんだと? それなら話が早い。親父には聞きたいことが山ほどある……ここでお前を倒して、親父を奪い取ればいいだけだ!」
響の姿を見た冬夜の全身が小刻みに震え、足元から黒い魔力が燃え広がるように円形に広がっていく。
「冬夜くん、ダメ! 落ち着いて!」
「メイ、口出しは無用だ。アイツとはいつか決着を付けなければならないんだ……」
メイが止めに入ろうとするが、冬夜の耳には届かない。魔力はさらに勢いを増し、近づく者を拒むほどの圧を放ち始める。
「ふふふ……面白いですね。お会いするたびにどんどん強くなる……そうでなくては意味がない! お前に刻まれた屈辱は忘れていませんよ……さあ、僕を楽しませてくれ!」
「望むところだ! 副会長、今回は邪魔しないでくださいよ」
冬夜が視線を横に動かすと、芹澤に釘を刺すように言った。
「前回のことを含めて相当恨まれているみたいだな……だが、こんな貴重なデータが集まる機会をプロフェッサーが止めると思うか? 答えはノーだ! 存分に暴れるがいい!」
「その言葉を聞いて安心しましたよ。以前のようなヘマはしませんから……」
「ふふふ……頼もしい限りだ! メイくん、近くにいては危険だ。これから起きる事象に巻き込まれたらひとたまりもないぞ」
「は、はい……プロフェッサーさん、大丈夫なんでしょうか?」
芹澤の指示に従い駆け寄ったメイが心配そうに問いかける。
「何も心配するな。口で説明するより、見ていればわかる。すぐに理解できるはずだ」
意味が呑み込めず首を傾げるメイの足元で、地面が唸るように震え始める。
「今日こそお前に引導を渡してやる、フェイ!」
「望むところです! さあ、私を楽しませてください!」
フェイが右手を掲げると稲妻が十字に走り、三つ又の槍のような形に整えられていく。その様子を見た冬夜は笑みを浮かべ、両手を体の前に突き出して魔力を集め始める。黒く輝く日本刀のような武器が姿を現した。
「……一歩遅かった? いや、まだ間に合いそうですね」
「え? 誰?」
地上で見上げていたメイの耳に、聞き覚えのない声が届いた。
誰が介入しようとしているのか……?




