表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

211/219

第20話 クロノスの偽物?

「ふふふ……彼の監視を続けておいてよかったです。ちょっと予定は狂いましたが、まだ修正可能なので問題ないでしょう」


 響を脇に抱えたまま、空中から芹澤を見下ろすクロノス。口元には薄ら笑いを浮かべていたが、向けられる視線は冷たい。


「わざわざリスクを犯してまで介入してくるということは……よほど()()()()()()()()()があるようだな、クロノス?」

「どうでしょうか? あなたには関係のないことです」


 芹澤の言葉に、クロノスの態度が徐々に変化していく。


「あなたが知ったところで何ができるというのでしょう? 余計なことに首を突っ込まないほうが賢明な判断だと思いますよ」

「そうだな。お前たちと関わると、ろくなことがないからな……」

「よくご理解いただけて助かります。人間ごときが、我々のような上位存在――妖精の考えを理解しようとすること自体、不可能なんですよ」


 珍しく芹澤が一歩引いた態度を見せたことで、クロノスは上機嫌に話しはじめる。


「妖精様の考えることを理解できるはずがない……か。ふん、滑稽な話だな」

「何だと……」


 思わぬ反撃にクロノスの瞳がわずかに揺れた。芹澤は僅かな動揺を見逃さず、さらに畳みかける。


「どうした? 図星を突かれて言葉が詰まったか? “上位の存在”を名乗りながら、たった一人の人間に頼らなければ破綻してしまう計画とはな!」

「……っ!」


 クロノスの表情から血の気が引き、代わりに冷たい怒気が満ちていく。


「おや、どうした? 随分余裕がないように見えるぞ?」

「何を言っているのかわかりませんね……」

「そうか。もっとわかりやすく説明してやろう。お前が企んでいる計画に必要なのは、『響さんの力そのものではない』ということだろ?」


 芹澤が人差し指を突きつけると、クロノスの表情から感情が消えた。能面のような無機質な顔に変わり、短く舌打ちして悪態をつく。


「チッ……あなたのような勘のいい人間は嫌いですよ」

「最高の褒め言葉として受け取っておこう」


 芹澤の嫌味たっぷりな言葉が引き金となり、クロノスの表情から余裕が完全に消える。周囲の空間が歪むほどの怒りのオーラが溢れはじめた。


「やはりもっと早く手を打つべきだったか……仕方がない。今ここですべてを終わらせれば問題ない」


 クロノスが右手を掲げると、周囲の空間に電流が走り、渦を巻くように歪みが広がっていく。


(さすがに煽りすぎたか……まずい、状況は思ったより深刻だ)


 芹澤の頬を一筋の汗が伝う。今までとは次元の違う魔法が発動しようとしているのは明白だった。覚悟を決め、相打ち覚悟で両手に魔力を溜めた時……アーチを登ってくる人影が視界に入った。慌てて声をかける。


「冬夜くん、メイくん、こっちに来てはダメだ!」

「え、副会長? いったいどうされ……な、なんでクロノスが?」


 アーチを上がった冬夜たちの目に飛び込んできたのは、クロノスと対峙する芹澤の姿だった。


「メイ、この状況はマズい。いつ戦闘になるかわからないから俺の後ろにいてくれ」

「うん……冬夜くん、お父さんがあの人に抱えられてるよ!」


 空を見上げたメイが、クロノスに抱えられた響を見つけて慌てた声を上げる。冬夜も視線を上げ、ある違和感に気づく。


「たしかにメイの言うとおり親父が抱えられてる……でも、あれは本当にクロノスか? 何だ、この違和感……」


 怪訝な顔で空を見上げる冬夜に、芹澤が叫ぶ。


「何をボサッとしている! 早くメイくんを連れて離れろ!」

「副会長……空にいるのは本当に()()()()ですか?」

「は? 一体何を言っている?」


 芹澤が驚いて聞き返すが、冬夜は構わず続ける。


「いえ……勘違いかもしれませんが、アイツから感じる妖力が以前と別物のように思えるんです」

「なんだと……?」

「確信はありませんが……やらせてください。副会長はクロノスの気を引いていてください」

「あ、ああ……わかった」


 冬夜の言葉に芹澤は驚きつつも即座に頷く。


(対峙している相手がクロノスじゃない? そんなはずは……いや、響さんが消えたとき、確かに時が止まったはず。だが今は、誰であろうと冬夜くんのサポートが先決だ)


 混乱する頭を振り払い、芹澤は魔力をさらに高めてクロノスの注意を自分に引きつける。


「覚悟が決まったようですね? 人間ごときが私に楯突いたことを後悔するがいい!」

「負ける覚悟は決めていないがな。それよりずいぶん焦っているように見えるぞ? 何か都合が悪いのか?」

「都合が悪い? この私が? 面白いことを言いますね……」


 クロノスが笑みを浮かべ、僅かな隙ができた時だった。


「今だ! メイ、力を貸してくれ!」

「うん、冬夜くん! 私も一緒に戦う!」


 冬夜の右手をメイの両手が優しく包むと、黒い魔力と輝かしい光が融合し、虹色のオーラが二人を包む。


「「穿け、陰陽の(インシュレット・)一輪花(ブレイク)!」」


 二人の声が重なった瞬間、光の帯をまとった黒い矢がクロノスめがけて駆け抜ける。


「な……しまった!」


 クロノスが慌てて防御を試みるが、すでに遅かった。

 巻き込まれた響は無事なのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ