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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第18話 芹澤の思惑と近づく影

「どうして巫女の力が開放されていない? なぜだ……封印が解かれるのは()()()のはずだ! どういうことだ?」


 空中から冬夜たちの様子を見下ろしていた響が、頭を抱えて困惑し始めていた。地上から様子を見ていた芹澤は呆気にとられ、その場から動くことができなかった。


(は? 響さんはどうしたんだ……メイくんが夢幻の巫女? 封印が解かれずに幽閉されているはずだと? じゃあ、目の前にいる彼女は……いや、そんなことよりも今がチャンスだ!)


 頭を左右に振って余計な雑念を振り払おうとする芹澤。両手で頬を叩き、気持ちを切り替えると、空中でなお苦しんでいる響へと向き直る。そのまま右手を頭上に掲げ、魔力を集約して次の一撃に備えようとしたときだった。


「あ、頭が割れ……あああ!」


 空中にいた響が頭を抱えたまま、突然悲鳴を上げはじめた。


「響さん、どうしたんですか?」

「あ、頭が……俺は……」


 響が何か言葉を発しようとしたとき、頭を抱えたまま地面に向かって落下しはじめた。


「ま、まずい!」


 落下地点を見た芹澤の視線の先には、整然と並ぶ墓石の一つがあった。そのままの勢いでぶつかれば大怪我どころでは済まないことは明白だ。とっさに冬夜の方を見るが、まだメイが力を解放している最中であり、助けを求めることはできそうにない。


「クソッ……間に合ってくれ!」


 地面を蹴り、落下地点に先回りしようと走り出す芹澤。しかし、響の落下速度が思いのほか早く、このままでは間に合いそうになかった。


「チッ、あまり使いたくない手だが……背に腹は変えられん!」


 右手を突き出すと、手のひらに魔力が集約されていく。そのまま横へ薙ぎ払うと、墓石の上に土でできたアーチのようなものが出来上がった。完成すると同時に、頂上部分に響が落下し土埃が舞い上がる。


「ま、間に合ったな……本来であればもう少しクッション性を高めるのだが……直撃を免れただけでも良しとするか」


 芹澤が安堵の表情を浮かべていると、響が落ちた衝撃と音で冬夜が正気を取り戻した。


「あれ? 俺は一体何をしていたんだ?」

「冬夜くん、大丈夫? 本当に大丈夫?」


 声をかけられた冬夜が両腕を動かして体に異常がないことを確かめていたときだった。涙を溜めたメイが突然抱きついて来た。


「ああ、特におかしな感覚もないし……って、メ、メイ?」

「良かった……冬夜くんが正気に戻ってくれて」

「あ、ああ……心配かけてごめん……もう大丈夫だ」


 顔を埋めて泣きじゃくるメイの頭を優しく撫でる冬夜。二人の世界になりかけていると、聞き覚えのある声が響く。


「いい雰囲気のところ申し訳ない! まずは、後遺症もなさそうで良かったな!」


 芹澤の声を聞いた冬夜とメイが顔を見合わせると、ゆでダコのように真っ赤な顔になり、同時に後ろへ飛び退く。そして、必死に弁明をし始める。


「プロフェッサーさん、これは……その……」

「ふ、副会長! いや、この件については事情があってですね……って、どこから声が聞こえてるんだ?」


 冬夜が辺りを見回すと、自分たちの周りが何やら巨大な影で日差しが遮られていることに気がつく。顔を上げると、先程まではなかった土のアーチが目の前に出現していた。


「な……さっきまでこんな物は無かった……じゃなくて、いつの間にできたんだよ!」

「それだけ元気があれば大丈夫だな! 何だ? プロフェッサーの魔法と想像力に驚いているのか?」


 頭上から響き渡る声に顔を向けると、アーチの上で腕を組み、見下ろしている芹澤と目が合った。


「な……なんでそんなところにいるんですか? いや、このアーチはいったい……」

「ふむ、何故と言われたら説明をしなければならないが……今はやることがあるのでな!」

「やること……そういえば親父は? たしか空中に現れた気がするんだけど……」


 額に右手を当てた冬夜が必死に記憶を手繰り寄せようとした時、再び頭上から声が響き渡る。


「そこまでしっかり覚えているのであれば問題ないな! その件については本人から直接聞いたほうが良いだろう。落ち着いたらこのアーチの上に来るがよい!」


 芹澤の高笑いが響き渡ると、アーチの上を歩いていく音が聞こえてきた。


「冬夜くん、落ち着いたら私たちも行ってみようよ」

「そうだな……親父には聞きたいことが山ほどあるし、副会長を追いかけよう」


 冬夜とメイは顔を見合わせて頷くと、立ち上がってアーチの上を目指して歩き出した。


「さて……響さんが落ちたのはこの辺りだったはずだ」


 冬夜たちが動き始めた頃、芹澤はアーチの上をゆっくり歩いていた。空中から落ちてきた響の状態を確認するため、慎重に周囲を見渡す。ちょうど頂上付近に差し掛かろうとした時、土と同化するようにめり込んでいた茶色いローブを発見する。


「響さん、しっかりしてください!」


 響の姿を見つけた芹澤が駆け寄り、慌てて声を掛けると僅かに体が動いた。


「息はあるし、特に大きな怪我があるようには見えないな」


 レア譲りの手際の良さで呼吸を確認し、脈を取る芹澤。同時に落下地点のアーチにダメージがないことも分析していた。


「ふむ……即席ではあったが、予想地点の地表をクッション性の高いものにしておいて正解だったな。入院していたおかげで腕が鈍ったことを危惧していたが、そんなこともなかったようだ!」


 自らの魔法コントロールを絶賛していると、倒れていた響の体がかすかに動く。


「おやおや……()()()()はあまりよろしくないですね」


 四人の様子をはるか上空から監視している影があった。

 様々な思惑が交差し始める中、真実はどこにあるのだろうか……

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