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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第17話 響の襲来と冬夜の異変

「全く容赦ないな……いつから俺がいることに気がついていた?」

「この墓に来たときからですよ。あまりにも不自然な空間の歪みは隠しきれませんから」


 雲一つない青空に向かって話しかける芹澤に対し、冬夜たちのもとに聞き覚えのある声が響く。


「は? え? どういうことなんだ? なんで()()()()が?」


 状況を全く飲み込めず、芹澤と空を交互に見ながら困惑する冬夜。すると芹澤が大きなため息を吐き、少し呆れた様子で口を開いた。


「おいおい……少しは冷静になりたまえ。歪みといっても普通では感知できない程度だからな。わざわざ餌をまいた甲斐があったというものだ。いい加減、出てきて説明したらどうですか? 響さん」


 芹澤が再び右手を空に向けると、目にも止まらぬ速さで黄金色に輝く魔力の玉を放つ。すると青空の一部が歪み始め、まるで時空の狭間に吸い込まれるように消滅した。そのまま歪みが渦を巻くように大きくなると、茶色のフードを被った男が空中に現れる。


「手荒な歓迎は結構なことだが……彼女の墓前で攻撃を仕掛けるのは許しがたい行為だ!」

「隠れて我々の動向を監視していた方に言われたくありませんね」


 芹澤と響が火花を散らす中、ようやく事態を把握し始めた冬夜が口を開く。


「親父……なんのために隠れていたんだ?」

「……冬夜、たとえ息子のお前であろうとも答えることはできない」

「意味がわからねーよ……そんなにやましいことばかりしていて、よく母さんの前に現れたな!」


 冬夜の言葉に顔を伏せ、響は言葉をつまらせながら答える。


「……いずれお前にもわかる日が来る」

「ちゃんと説明しろ! いつまで逃げ回ってるつもりだ!」


 冬夜の頬を一筋の涙が伝い、 今まで溜め込んでいた感情が爆発した。全身から黒い魔力が溢れ出し、火柱のように立ち上ると墓石が振動し始める。


「冬夜くん、落ち着いて!」


 後ろにいたメイが必死に訴えるが、冬夜の耳には届かない。溢れ出す魔力は勢いを増し、耐えきれなくなった墓石が次々と倒れ始める。


「い、いかん……魔力が暴走し始めている……メイくん、冬夜を止めるんだ!」

「プロフェッサーさん、さっきから呼びかけているんですけど……全然聞いてくれないんです!」

「くそっ……こうなったら奥の手だ……メイくん、冬夜の顔を思いっきりひっぱたけ!」

「え? 思いっきり……ですか?」


 芹澤の指示に目を丸くするメイ。


「そうだ! 思いっきり平手打ちしてくれて構わない。少々手荒な真似になるが……一瞬でいいから彼の暴走を止めるんだ!」

「は、はい! できるかわかりませんが、やってみます!」


 冬夜から溢れ出す魔力が濁流のように渦巻く中、メイは彼の左腕を支えに正面へと進んでいく。


「あと少し、あと少しで……」


 冬夜の顔が見える位置に来たとき、メイは思わず足を止めてしまう。


「え? どうして……」


 彼女の目に映ったのは、()()()()()()無気力に立ち尽くす冬夜の姿だった。今まで魔力が暴走したときは目が赤く光り、感情を爆発させていた。だが今回は普段と変わらぬ黒目のまま、一切の感情を失った表情で立ち尽くしている。


「メイくん、どうした? 早く、彼を正気に戻すためにも!」

「プ、プロフェッサーさん……いつもと様子が違うんです! 目が赤くなっていなくて……」

「何だと……」


 予想外の事態に言葉を失う芹澤。すると正面に立ったメイが優しく冬夜を抱きしめた。


「メイくん、離れるんだ! 今の彼は危険すぎる……このままでは君の身が保たない!」

「大丈夫です! 任せてください……冬夜くん、聞こえる?」


 静かに冬夜の耳元に顔を寄せ、優しい声で語りかける。


「お父さんが急に現れて……感情が爆発しちゃったんだよね。大丈夫……私はそばにいるし、いなくなったりしないから」

「……本当……か?」


 メイの言葉に、かすかに反応を示す冬夜。


「うん、私はずっとそばにいるって約束したよ。どんなに辛いことがあっても逃げたりしない」

「ああ……そうだった……すまない、メイ……」

「謝らなくていいよ。ゆっくり深呼吸して落ち着こうね。いつでも私を頼って」


 冬夜が大きく深呼吸すると、荒れ狂っていた魔力が少しずつ収まり始める。


「呼びかけに応じただと? あの状態になったら力ずくで止めなければならないはずなのに……」


 メイと冬夜の様子を見ていた芹澤が、信じられないという表情で固まる。すると空中からその様子を見下ろしていた響が声を漏らした。


「まさか……あの娘が『夢幻の巫女』なのか?」

「『夢幻の巫女』? 何の話でしょうか?」


 響の言葉に芹澤が聞き返すが、答えは返ってこない。


「まさか……こんな近くにいたとは……なぜ()()()行動をともにしている? 彼女は封印され、あの空間に幽閉されているはずじゃなかったのか……」

「封印された空間? 幽閉されていた? 響さん、あなたはいったい……」

「どうなっているんだ……俺が知っていることと違いすぎる……」


 驚愕の表情を浮かべて冬夜とメイを見下ろす響。

 何が起こっているのか把握できない芹澤。

 冬夜とメイを取り巻く状況は、混迷を極め始めていた。

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