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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第17話 墓参りと隠された秘密(後編)

「副会長、ある施設とおっしゃいましたよね?」

「ああ、そうだ」


 俯いていた冬夜が顔を上げて芹澤に向き直り、何かを確認するように聞き返す。


「特殊な品種、ある施設で栽培、一般的には入手できない……この三つのキーワードが意味するところは……」

「どうやら気がついたようだな? さあ、聞かせてもらおうか」


 冬夜が何かに気づいたと確信した芹澤が、笑みを浮かべて再び問いかける。


「あまり自信はありませんが……」

「ふむ、なんの問題もない。別に正解を求めているわけではない。()()()が考えて出した答えを聞きたいのだ」

「わかりました……まず、その花が栽培されている施設というのは、リーゼのお父さんが所長を務めている研究所ですよね?」


 まるで芹澤の反応をうかがうような冬夜の問いかけに、芹澤は目を細め、逆に問い返す。


「君はリーゼの父親がいる研究所が怪しいと思ったんだな? なぜその結論に至ったのか?」

「はい、以前研究所を訪れたときに様々な説明を受けました。その際、品種改良中や新しい品種の植物も育てているとお聞きしました。もし墓前に供えられている物が特殊なものであれば、研究所から持ち出されたと考えるのが自然ではないでしょうか?」

「なるほど……実に面白い回答だな!」


 冬夜の返答を聞いた芹澤の口元が釣り上がり、心から楽しんでいる様子がうかがえる。すると、黙って二人のやり取りを見ていたメイが横から口を挟む。


「冬夜くんのお話を聞いて疑問に思ったことがあるのですが……プロフェッサー芹澤さん、聞いてもよいですか?」

「どうしたのかな、メイくん? 何でも聞きたまえ! このプロフェッサーに答えられぬ質問などないのだ!」


 質問を受けた芹澤が一瞬驚いたような表情を浮かべた。しかし、すぐにいつもの笑顔に戻り、自信たっぷりに答える。


「わかりました。私もあまり自信はありませんが……リーゼさんのお父さんの研究所は()()()()にありますよね?」

「ああ、幻想世界でさまざまな研究をしているな」

「そうですよね……もし冬夜くんの言うように研究所から持ち出されたお花だとすると……お墓に供えることはできないですよね?」

「ふむ……実に興味深い指摘だな。メイくんはどうしてそう思ったんだ?」


 メイの鋭い指摘に目を細め、感心したような顔になる芹澤。


「えっと……研究所のお庭をソフィーと一緒に散策させていただいたのですが、お墓に備えてあるような大きなお花は植えてなかったんです」


 メイの返答を聞いた冬夜と芹澤が、同時に膝から崩れ落ちた。そんな様子を気にすることもなく、彼女は話を続ける。


「すごくきれいなお花がたくさん咲いていたのですが、どれも小さなものばかりで……私たちが見つけていないだけかもしれませんし……あ、もしかしたら誰かが育てていたのかもしれません……あれ? 二人ともどうしてしゃがんでいるんですか?」


 地面に片膝をついて笑いをこらえている冬夜と芹澤を見たメイが、不思議そうな顔で問いかける。


「メイ、そうだよな……研究所に咲いていた花はこんなに大きくなかったもんな……」

「ふふ……ある意味正解だな。その答えにはメイくんしかたどり着けないと思うぞ」

「ありがとうございます!」


 肩を震わせながら答える芹澤と冬夜を気に留めることもなく、メイは満面の笑みを浮かべて嬉しそうに答える。しばらくして落ち着きを取り戻した二人が立ち上がると、再び向き合った。


「副会長、先程のメイの言葉ではありませんが……やはり研究所から持ち出すことは不可能だと僕も思います」

「ほう? なぜそう思ったのか、冬夜くんの考えを聞かせてくれ」


 真剣な眼差しを芹澤に向け、話し始める冬夜。


「まず一つ目は、メイが言うように背の高い花が植えられていなかったこと。あくまでも見える範囲ですが、花壇からこっそり持ち出すことは不可能です。二つ目は、研究所があるのが幻想世界だということです。うちの墓地があるのは現実世界……両世界を行き来することは不可能なんです」

「なるほどな……しかし、両世界を行き来することが不可能と決めつけるのは早すぎないか? 仮に一定の魔力持ちであれば、()()()()()()()形にはなるが……行き来は可能ではないか?」


 返答を聞いた芹澤が怪しげな笑みを浮かべ、揚げ足を取るような指摘をする。しかし、その答えも想定していたかのように、冬夜は笑みを浮かべて自信たっぷりに答える。


「ええ、たしかに魔力持ちの人という条件はありますが……霧の森を抜けて学園を通過すれば両世界を行き来することは可能です。しかし、問題は現実世界についてからなんです」

「ほう? 現実世界に来られたのであれば、なんの問題もないのではないか?」

「いいえ、問題なのはこちらに来てからです。仮に幻想世界で森の入口まで車で来たとしましょう。森を通り抜け、現実世界に来たところで、この墓地に来るまでの手段がなくなります。なぜなら……森の入口にあるバス停は()()()()()()()()()()しかバスが通らないからです。それに学園の最寄りの駅からここまで数時間はかかります」


 胸を張って答える冬夜を見た芹澤は、口を丸くしたまま立ち尽くしている。そして、畳み掛けるように言葉を続ける。


「仮にこの墓地までたどり着いたとしても、見慣れない人物がウロウロしている時点で、じいちゃんとばあちゃんが気が付かないはずがないんです。意図的に気づかないふりをしていない限りは……」

「ふふふ……やはり君は面白い! 期待以上の回答を返してくれるな!」

「え? ど、どうされたんですか?」


 言葉を聞いた芹澤が突然笑い出し、何が起こったのか理解できずに困惑する冬夜。


「いや、まさかそこまで見抜いて答えるとは思っていなかったぞ。君の言う通り、正攻法でこの墓地にたどり着くことなど不可能だ。そして、厳重な警備が敷かれている研究所に侵入して花を持ち出すこともな……すべてを()()()()()()を除いてな」

「副会長、仰っていることが理解できないのですが……熟知したとは、どういうことでしょうか?」


 意味がわからないという表情を浮かべた冬夜が恐る恐る聞き返す。すると、顔を上げた芹澤が言葉を空に向かって放つ。


「その答えは()()()から聞かせてもらったほうが良いのではないか? いつまで高みの見物を決め込んでいるんですか?」


 言い終えると同時に左手を空に向けると、空中で大爆発が起こる。


「は? え? なんで爆発が? メイ、俺の後ろに隠れろ」

「う、うん……」


 何が起こったか理解できないまま、メイを背後に避難させる冬夜。

 困惑する二人をよそに、新たな戦いが幕を開けようとしていた……

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