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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第15話 墓参りと隠された秘密(前編)

 学園長の乱入によって三つ巴のバトルが繰り広げられていた頃、冬夜とメイは買い物を終えて次なる目的地へ向かっていた。


「冬夜くん、紫雲さんから頼まれたものが全部買えてよかったね」

「ああ、まさかパン屋にあんな行列ができているなんて……あんなに人気の店だったか?」


 冬夜が首をかしげるのも無理はない。訪れたパン屋は住宅街の一角にあり、家族で経営している個人店である。子供のころから通いなれた店で人気はあるが、これまで一度も行列を見たことはなかった。


「すごい人だったよね。並んでいるときに聞こえてきたんだけど、今日の朝買っていった人が絶賛していたらしいよ?」

「そんな有名人みたいな人が来ていたのか? それにしても情報が回るのが早すぎるような気もするが……」

「よくわからないけど、()()()()()()()()と手をつないでいた()()()()()が、みんなに『こんな美味しいパン、初めて食べました!』って言いながら歩いていたみたいだよ」


 思い当たる節がありすぎる冬夜がメイに聞き返す。


「小学生くらいの子と手をつないだうさぎだって?」

「うん、うさぎさんって聞こえたよ。私もびっくりしちゃった。ソフィーそっくりな子がいるんだなって」

「いや、メイ……それ多分ソフィーと美桜ちゃんだろ……」


 ニコニコとした笑顔で答えるメイに対し、口を大きく開けて呆れる冬夜。


「そうかな? でも遊園地にソフィアちゃんっていう、すごくかわいいうさぎさんもいたらしいよ」

「いやそれはテーマパークのマスコットだから……街中を歩いたりして……」

「私も会ってみたかったな。きっとソフィーも喜ぶと思うんだ」

「……」


 目を輝かせながら語るメイを見て、何も言えなくなり、冬夜は項垂れる。


「冬夜くん、どうしたの? なんかすごく複雑な顔をしているけど?」

「いや、何でもない……ほんとに……」


 一切の曇りもなく純粋に語るメイを見て、冬夜は自己嫌悪に陥る。


(うん、この広い世界だしな。妖精たちもいれば魔法もある、ましてや()()()()()()()()()()()()()が学園長してるんだぞ。それにもう一つの世界だって行ったばかりじゃないか。もしかしたらソフィーみたいな子が街中を歩いていても……)

「そうそう、そのうさぎさんってピンクのリボンに水玉の服を着ていたんだって!」

「もうそれはソフィーそのものだろ!」


 冬夜の大絶叫が昼間の住宅街に響き渡り、そのまま頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「どう考えたってソフィー以外にはありえないだろ……だめだ、非現実的なことが続きすぎて感覚がマヒしてきている……」

「そんなに大きな声出してどうしたの? 何か困ったことがあったらお話聞くからね」


 慌てたメイが心配そうに声をかけてくる。その優しい心遣いに、冬夜の自己嫌悪はさらに激しくなる。


「いや、大丈夫だ……なんで俺はこんなに汚れちまったのかなと思ってな……」

「え? どこか服が汚れちゃったの? どうしよう……早く拭き取らないとシミになっちゃうし……」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「違うの? でもさっき汚れちゃったって?」

「……うん、大丈夫だ。メイは、いつまでも純粋でいてくれよ」


 自分に言い聞かせるように呟く冬夜に対し、不思議そうな表情で一緒にしゃがんでいるメイ。


「ごめん、心配かけたな……もう大丈夫だから、墓参りに向かおうか」


 数分後、何とか立ち直った冬夜がメイに声をかける。


「う、うん……すごく疲れた顔をしているけど大丈夫?」

「ああ、もう大丈夫だ。深く考えるのはやめたよ……」

「よくわからないけど、悩み事があったら相談してね!」

「ありがとう……」


 微妙にかみ合わない会話をしながら、歩き始める二人。数分後、小高い丘にある共同墓地に到着した。


「えっと、たしかこっちの通路を進んだところだったはず……あ、ここだ!」


 目的の場所を見つけた冬夜は声を上げる。到着したのは天ヶ瀬家のお墓であり、墓石の隣に立つ墓誌には「天ヶ瀬 瑠奈」の名前が刻まれている。


「こんにちは、初めまして。冬夜くんと仲良くさせていただいています、メイと申します。ご挨拶が遅くなってごめんなさい」


 冬夜と並んで墓石の前に立ち、手を合わせながら頭を下げるメイ。その様子を見た冬夜も並んで手を合わせる。


「母さん、新しい学校でもたくさんの友達ができて毎日楽しく過ごしてるよ。ちょっと変わった人ばかりで……いろいろ大変なこともあるけど、みんなと出会えてよかった。今日は出かけちゃったから、今度は一緒に連れて来るね」


 二人並んで手を合わせていると、墓前に立派な花が添えられているのが目についた。


「すごく立派なお花がお供えされているね。私たち以外にも誰かお墓参りに来たのかな?」


 他の墓前に活けられた花たちは真夏の日差しに照らされ、元気がなくなりかけていた。しかし、天ヶ瀬家の花束だけ、きれいに咲き誇っている。


「ほんとだな。他のところは枯れ始めてるのに、()()()()()()()()()()な……でも、少し砂やほこりが目立つから、数日は経過しているように見えるな」

「ほんとだね。何か特別なお花なのかな?」


 二人が花束を眺めながら不思議そうな顔をしていると、墓地に聞き覚えのある声が響き渡る。


「ほう、素晴らしいところに目を付けたな! さすが我が後輩だ! このプロフェッサーが詳しく解説してやろう!」


 冬夜とメイが声のした方に目を向けると、区画の入り口に立つ芹澤の姿があった。炎天下にもかかわらず長袖の白衣を着用し、腕を組みながら仁王立ちをしている。

「げっ……副会長……何でここにいるんですか? 家で昼寝をしていたんじゃ……」


 芹澤のドヤ顔を見た冬夜の表情が徐々に引きつっていく。


 なぜ冬夜の実家で寝ていたはずの芹澤が、墓地に現れたのか?

 目の前に供えられた花束は関係があるのだろうか?

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