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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第13話 乱入者とアビーの目的

「あなたともっと遊びたかったのですが、仕方ありませんね。聞きたいこともありますので、早く決着をつけましょうか」

「そっくりお返しします。たとえ……この命が尽き果てようとも!」


 二人の全力を乗せた一撃がぶつかり合う寸前、激しい金属音が空間内に響き渡る。


「な……これ以上進めないとはどうして……」


 お互いの刃が相手に到達する直前で透明な壁に阻まれる。諦めきれず力任せに押し込もうとした瑠奈だったが、強大な力が働いているのか一ミリたりとも動かせない。


「ふふふ……よほど私たちに決着をつけてほしくない()がいるようですね」


 目の前にいたアビーが肩を震わせながら笑い出すと、即座に後ろに飛ぶ。その勢いを利用して斜め上の空に向かい、ポイズニング・ダガーを投げつける。ちょうど瑠奈の頭上に差し掛かったところで突然ダガーが空中で止まった。


「おやおや、いきなり刃物を投げつけるなんて危ないじゃないか。怪我でもしてしまったらどうするのかな?」

「あなたが怪我などするわけありません。私のお遊びを中断させたからにはそれなりの理由があるということですよね?」

「ずいぶん面白そうなことをしているからね。ぜひ僕も混ぜてもらえないかな?」

「そうですか。そんなに遊びたいのであれば遠慮することなんてありませんよ?」


 言い終えるよりも早くアビーの姿が消え、空中で止まっているダガーの前に現れる。グリップを支点にすると薙ぎ払うように右足を繰り出す。すると、鉄槌を振り下ろされたような轟音が響き渡り、何もない空間にヒビが入り始めた。


「なかなかいい蹴りだね。ダガーの性質を生かし、偽装された空間に小さなヒビを生まれさせる。そして、右足にすべての力を集約させて、一点突破を狙うとは……」

「お褒め頂き光栄です。それではダガーを返していただきたいので、姿を現してはいただけないでしょうか? 迷宮神(ラビリンス)()異端児(ゼウス)さん」


 言い終えると同時にダガーを引き抜き、ひびの入った空間を十字に切り裂く。耐えきれなくなった結界が雪崩のように砕けはじめ、中に隠れていた人物の姿が露わになった。


「な、なんで学園長がここにいるんですか!?」


 驚きの声を上げたのは地上から空を見上げ、固まっていた瑠奈だった。


「瑠奈ちゃん、久しぶりだね。しばらく会っていなかったけど元気そうでうれしいよ」

「そんなことはどうでもいいんです! なぜあなたが私たちの戦いに干渉してくるんですか?」

「まあまあ、細かいことはいいじゃないか。君にはまだやってもらうことが残っているからね」


 驚きと怒りの入り混じった表情で睨む瑠奈に対し、笑顔で答える学園長。その直後、金属がぶつかるような音が空間内に鳴り響く。


「おやおや、人が話している最中に攻撃してくるなんてひどいじゃないか」

「どの口が申しあげているのでしょうか? 私の楽しみを奪った罪は大きいですから……きっちり代償を払っていただきましょうか」


 学園長に向かい、笑顔でダガーを突き立てるアビー。表情は笑っているようにみえるが、目の奥からは怒りと殺意が溢れ出していた。


「そんなに熱い視線を向けられると困っちゃうな。本当にモテる男はつらいとはこのことだね」

「言ってる意味が分かりません。せっかく楽しい時間を過ごしていたというのに……それに彼女から聞き出さなければいけないことがありますから」


 ダガーを握るアビーの手に一層の力が込められていくと、少しずつ見えない壁にめり込んでいく。


「ずいぶん焦っているようだけど当ててみようか? 君の目的は彼女の持つ()()()()()()……()()()()よね」


 不敵な笑みを浮かべた学園長が問いかけると、アビーの目が大きく開かれる。


「さあ……どうでしょう? 面白い推測であるとだけ言っておきましょうか」

「おや? 図星だったようで感情を隠しきれていないみたいだよ。そうだ、せっかく楽しんでいたところを邪魔してしまったお詫びに少し付き合ってあげよう!」


 言い終えると学園長はかけていた眼鏡をはずし、そのまま顔を伏せてしまう。


消失(ディスペル)


 右手をゆっくりアビーへ向けると、顔を上げながら小さく詠唱を唱える。するとダガーを阻んでいた壁が消え去り、彼女が学園長へ向かい倒れ込んできた。


「少し距離を離そうか、鏡の槍(ミラー・スピア)

「な……」


 無防備なアビーの背中に魔法でできた槍のようなものが突き刺さる。防御も何もできないまま、全身を地面にたたきつけられた。その衝撃で周囲は白い煙のようなものに包まれる。


「ちょっとやりすぎちゃったかな?」


 煙に包まれている地面を眺めながら、呆然と立ち尽くす瑠奈の近くに降り立つ学園長。


「……やりすぎという次元を超えてますよ! 彼女(アビー)がこの程度でダメージを受けるとは考えにくいですが……」

「そうだろうね。瑠奈ちゃん、彼女の相手をするから次の準備しておいてね」

「何の話ですか? 言っていることがさっぱりわからないのですが……」

「この結界は長く持たないからね。今は雪江ちゃんが抑え込んでいるけど、彼女たちの狙いはどうやら別みたいだよ? そう、ヒイロタイトを君に託した人物の居場所を知りたいようだね」

「……なんでもっと早く教えてくれなかったんですか!」

「お楽しみなことは後回しにした方が面白くなると思わないかい?」

「もういいです……彼女から託された物を奪われるわけにはいきません、ヒイロとの約束ですから……全力で阻止します!」


 言葉を交わすと強い決意を宿して後ろに下がる瑠奈。数メートルほど離れ、目を閉じて何かを唱え始める。その様子を見た学園長は、煙の中から近づいてくる人物に視線を向ける。


「さて……それじゃあ楽しい宴を始めようか? 魔法を(ソーサリー・)消し去るもの(ブレイカー)、アビーくん」

「そうですね、あなたから聞き出さないといけないことができました……答えていただきましょうか?」


 ヒイロタイトを瑠奈に託した人物「ヒイロ」とは何者なのか?

 執拗にアビーたちが狙う理由とは?

 それぞれの思惑が渦巻く中、戦いは新たな局面に突入しようとしていた。

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