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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第10話 二つの戦い

「アビー、久しぶりに楽しい時間になりそうですよ」

「お姉さま、誰にも邪魔されずに思いっきり楽しめそうですね!」


 おもちゃを手にした子供のような笑顔ではしゃぐノルンとアビー。少し離れた位置で静かに二人の様子を見ていた瑠奈が口を開く。


「お義母様、私がアビーを相手します。少しノルンの足止めをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「え?」


 二人の連携を生かして共闘するつもりだった雪江にとって、瑠奈の提案は予想外だった。しかし、その反応は予想していたと言わんばかりに彼女は言葉を続ける。


「驚かれるのは無理もないと思います……が、お義母様とアビーの能力は分が悪すぎるんです。相手は公園に張り巡らせた結界を切り裂いて無効化する能力の持ち主です。おそらく……」

「世界のことわりから外れた能力と存在だと言いたいのですね?」

「は、はい……」


 雪江からの鋭い返答に思わず言葉を詰まらせる瑠奈。そして、彼女の口からさらに予想していなかった事実が語られる。


「ご心配ありがとうございます。公園の結界はわざと彼女が破壊できるように作っておきました」

「そうなのですか? でも、なぜそんな回りくどいことを……」

「彼女たちの意識を冬夜たちから背けなければなりませんでした。あの子たちにはまだ知られてはいけないことがありますから……」


 寂しそうな表情で目を細める雪江。そして何かを察した瑠奈は、横に首を振ると語気を強めて返す。


「承知いたしました。私はあの子たちを信じます」


 彼女の言葉に宿る強い意志を感じ取ると、肩の荷が下りたように表情が柔らかくなる雪江。するとこのタイミングを待ち構えていたかのようにノルンが口を開く。


「打ち合わせは終わりましたか? 何を企んでいらっしゃるかはわかりませんが、きちんとお聞かせ願いたいものですね」

「あら? 私たちが素直に話すとでも思いましたか?」


 瑠奈が言葉を言い終えると同時に右手を体の前に突き出すと、ノルンたちを黒い霧のようなものが包み始める。


「お姉さま、どこにいらっしゃいますか? すぐに対処いたします」


 突然視界を奪われたアビーが少し焦ったような声を発し、ポイズニング・ダガーを振りかざそうと右手を上げたときだった。


「アビー、これは罠です! ダガーを振り回してはいけません!」

「この期に及んで他人の心配ができるとは……さすが三大妖精のセカンドですね。解き放て、不滅の終着地エターナル・ディスティネーション


 雪江の声が暗闇に響くと地割れでも起こったかのような地響きと轟音が響き渡る。


「下手に動くのは悪手ですね……人間ごときがこの程度の事で私たちを引き離せると思わないことですね」


 その場に立ったまま静かに目を閉じると、気配を探り始めるノルン。しかし、思わぬ事態が彼女を襲う。


「いったいどういうことでしょうか? まったく音が聞こえないどころか、感じることもできないとは……」


 機械が振動を続けているような重低音が鳴り響き、ノルンの能力を完璧に封じていた。想定外の出来事に彼女の表情が険しくなり始める。


「ずいぶん顔色が悪いように見えますが、どうされたのでしょうか?」

「さすが人間の身でありながら、観測者(ウオッチャー)を任されるだけはありますね」


 さも何事もなかったかのように答えるノルン。声のした方へゆっくりと視線を向けると、暗闇の中に不自然な光を放つ雪江の姿が見えた。


「あなたに褒めていただけるとは光栄なことです」

「素直に受け止めていただけて何よりです……が、お遊びはこのあたりにしておきましょうか?」


 ノルンが言葉を言い終える前に地面を蹴ると、一気に間合いを詰める。その勢いのまま、迷うことなく雪江の首を左手で切り裂いた……と思われた。しかし、彼女の頭と胴体がずれ始めると全身が光の粒子に変わり、ノルンのすぐ後ろに再び現れる。


「残念ながらはずれです。珍しいですね、あなたが目測を誤るとは」

「……」


 煽るような雪江の声がノルンの耳に届くが、まるで何も聞こえていないように身動き一つしないノルン。


「反応なしですか。それではこちらから仕掛けましょうか?」


 言葉を発すると同時に右手を持ち上げると、光を纏った無数の矢がノルンを取り囲むように出現する。そのまま無言で手を振り下ろすと一斉に彼女めがけて降り注ぎ、真っ暗な空間に爆発音と閃光が走る。


「避けるそぶりを一切見せないとは、何か策があるのでしょうか?」


 おびただしい閃光と爆発が起こる様子を少し離れた位置で見つめていた雪江だったが、何かを感じ取ると即座に後ろへ飛びのいた。すると先ほどまで立っていた場所に虹色に輝く槍が突き刺さっている。


「あと一歩のところでしたか……そう簡単には始末させてくれませんね」

「危なかったとでも言っておけばよかったでしょうか? ほんのわずかですが、妖力の乱れを感じましたよ」

「あなたのテリトリーの中で完璧に妖力を制御することは至難の業ですからね。精霊に愛されし存在である、精霊の(フェアリー・)魔術師(マジシャン)さん」


 ノルンが言葉を言い終えると同時に、空間を揺るがすほどの爆発音と地響きが二人を襲う。


「瑠奈さんのほうもだいぶ派手にやっているみたいですね。あなたたちを引き離しておいてよかったです」


 雪江が作戦成功と言わんばかりの表情を浮かべたが、ノルンはどこか涼しい顔をしている。


「ようやく意図が分かりました。しかし、()()()()()()アビーを相手にどこまで通用するか楽しみですね」


 不敵な笑みを浮かべ、雪江に語り掛けるノルン。その表情にはどこか余裕すら感じさせる風格が漂っている。

 二人のにらみ合いが続く中、もう一方の戦いはさらに激化していった。

 実力未知数の瑠奈と底知れない実力を持つアビー。

 二人の戦いの先に待つ結末とは……

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