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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第8話 過ぎ去った嵐

 驚く冬夜とメイに対し、ノルンは興味が薄れたように話しかける。


「あら? 先ほどぶりです。お話の途中でしたが、飛んだ邪魔が入って興ざめしましたので……これで失礼いたしますね」


 踵を返してアビーとともに立ち去ろうとするノルンに対し、慌てて声をかける冬夜。


「ま、待て! クロノスの計画に親父が何の関係があるんだ!」


 ノルンは顔をわずかに冬夜のほうへ向けると、冷めた声色で答える。


「その話ですか……私から言えることは一つだけです。できるだけ早く響を止めないと……取り返しのつかないことになりますよ」

「どういうことなんだ? 親父は何をしようと……」


 額から一筋の汗が流れ、呆然とした様子で固まる冬夜。そんな彼を気に留めることもなく淡々と話すノルン。


「お父様のことですから気になるのは仕方ありません……が、私から話すと()()()()()()()もいる様です」


 小さくため息をついて空を見上げると、この場にはいない人物へ嫌味をこぼすノルン。


「都合の悪い人間がいるだと……」

「お姉さま、そろそろお時間が差し迫っているようですよ」


 冬夜が聞き返した言葉にかぶせるようにアビーが割って入ってきた。


「あら? もうそんな時間でしたか。冬夜くん、また近いうちにお会いしましょう。その時にあなたがどのような判断を下すのか……ぜひとも教えていただきたいものですね。それでは皆様、失礼いたします。荷物が多いのであなたも一つ持ってください、アビー」

「はい、お姉さま。それではごきげんよう。今度は私とも遊んでくださいね、すぐ壊れてしまわないように」


 右手に持ったダガーを頭上に掲げ、勢いよく振り下ろすと空間に切れ目が現れる。するとノルンとアビーは中へ吸い込まれるように姿を消した。


「ま、待て! まだ話は終わっていないぞ!」


 冬夜が慌てて叫ぶが二人に届くことはなかった。二人が消え去るとすぐに小鳥のさえずりや近所を走る車の音、人々の生活音などが何事も無かったかのように響き始める。


「親父……あんたはいったい何を見たんだ?」

「冬夜くん、大丈夫? かなり顔色が悪いし……ちょっとベンチに座って休んでいかない?」


 真っ青な顔で立ち尽くす冬夜に不安そうな顔をしたメイが声をかける。


「ああ、そうだな……ちょっと休んでいくか」


 一番大きな木の下にあるベンチに向かう二人。そこは葉が生い茂り、ちょうどよい木陰ができていた。


「何か飲み物を買ってくるからちょっと待っていてね」

「ありがとう」


 冬夜をベンチに座らせると、先ほど訪れた駄菓子屋へ小走りで向かうメイ。彼女が離れると顔に手を当て、背もたれにもたれかかる。


(いったい何が起こっているんだ……それにじいちゃんたちも何か隠しているような気がする……ダメだ、考えれば考えるほどわけがわからない)


 ゆっくり目を閉じると次から次へと様々な考えが押し寄せてくる。少しずつ周囲の生活音や小鳥の鳴き声が消えていき、自分が音のない別世界へ迷い込んだような錯覚に陥る、


(親父が見た虚空記録層(アカシックレコード)って何なんだ? でも、ノルンの話だと本物は封印されたままで誰も見られない状態なんだろ? いや待て……親父はどこでその存在を知ったんだ? そういえば、母さんがいなくなってからやけに帰りが遅くなったり、家を空けることが多くなったな……その時には情報を掴んでいたということなのか? 家を出て行った日の「俺が行かなければいけない事態」って言っていたことが、すでにクロノスの策略だった可能性も……)

「わっ! 冷たい!」


 底なし沼に落ちていくように考え事をしていた冬夜が、頬に伝わる冷たい感触で一気に現実へ引き戻される。予想外の出来事に驚き、ベンチから転げ落ちそうになっていると隣から笑い声が聞こえてきた。


「ふふ、びっくりさせちゃったかな?」


 なんとか体制を整えた冬夜が隣を見ると、両手にジュースの缶を持ったメイが笑顔で座っていた。


「あー、びっくりした。いつの間に戻ってきたんだ?」

「少し前だよ。ずっと冬夜くんって呼んでいるのに反応がなかったから……少しいたずらしちゃった」

「そうか……悪いことしたな、ちょっと考え事をしていて……」


 冬夜が難しそうに返事をすると、少し頬を膨らませながら声をかけるメイ。


「もう! また一人で抱え込もうとするんだから。何が起こっているのか……私たちにはわからないことばかりだけど、今はみんながいるよ? 紫雲さんも何かを伝えたいみたいだったし、一度相談してみない?」

「じいちゃんにか? たしかに家に帰ってきたら話があるとは言っていたけど……」

「わからないことは聞いてみるのが一番だよ! きっと紫雲さんたちなら力になってくれるから」


 淀みのないまっすぐな目で冬夜に訴えるメイ。


「メイがそこまで言うのなら……じいちゃんに相談してみるか!」

「うん! それがいいと思うよ。じゃあ、ジュースを飲んで次の目的地に行こうよ! 冬夜くんのお母さんにもご挨拶したいな」

「そうだな。パン屋でじいちゃんにお土産も買っていこうか」

「あ! そういえば出かける前に紫雲さんから、買ってきてほしいリストを渡されていたんだった」


 思い出したようにメイがスカートのポケットから一枚のメモを取り出す。何気なく覗き込んだ冬夜の絶叫が公園に響き渡った。


「何が『駄菓子屋の後は自由にしていい』だよ! パンの焼き上がり時間の指定まで書いてあるじゃねーか! メイ、今って何時だ?」

「えっと……もうすぐ十一時になるよ」

「パンの焼き上がりが……のんびりしている暇はない! メイ、飲みながら向かおう」


 慌てて立ち上がり、パン屋へ向かって歩き出す冬夜。


「冬夜くん、待ってよ!」


 すぐ後ろを追いかけるように小走りになるメイ。

 笑顔でパン屋に向かう冬夜とメイだったが、二人はまだ気が付いていなかった。

 ノルンの襲来がこれから起こる出来事を大きく変えてしまったとは……

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