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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第7話 新たな戦いの幕開けと来訪者

「冬夜が近くにいるようじゃが、お前さんを止める程度なら大した問題でもあるまい」

「まあ、ずいぶん余裕なんですね。残念ですが、私は忙しい身なのでお遊びに付き合える時間は限られております」

「ふん、お前の事情など知ったこっちゃないわ」


 紫雲の苛立った声が響くと空中に漆黒のナイフが埋め尽くすように現れる。


「なるほど。遠隔攻撃ということですか……なかなか手の込んだことをしてくれますね」

「本来なら直接手を下したいところなんじゃが、ワシもやることがあるからのう。手短に終わらせるぞ!」


 言い終えると同時にノルンに向かって無数のナイフが襲い掛かる。雨のように降り注ぐ攻撃に対し、まるでダンスを踊るかのように次々とかわしていく。


「この程度の攻撃で私が屈するとでも思われているのでしょうか?」

「そんなに慌てなくてもよかろう。時間はたっぷりあるわけじゃからのう」


 紫雲の声色から今の状況を楽しんでいるように思える。


「お楽しみのところ申し訳ありませんが、これ以上お付き合いする意味がないと思います。自慢の攻撃も全部外れたようですね」


 足を止めると呆れた様子で話すノルン。先ほどまで空中を埋め尽くしていた漆黒のナイフはすべて消え、澄んだ青空が広がっていた。


「やれやれですね。私にかすり傷一つ負わせることもできず、すべて地面に突き刺さっていますよ。深淵(アビス)()暗殺者(アサシン)と呼ばれた感覚が衰えてしまったのではないでしょうか?」


 空を見上げながら少し苛立った様子でノルンが声を上げるが、紫雲が気に留めることはなかった。それどころかさらにバカにした口調で話を続ける。


「なんじゃ? さっきまでの余裕がなくなっているように思えるぞ。お前さんはもう少しクレバーな考えの持ち主だとおもっておったんじゃがな」

「……それはどういう意味でしょうか?」

「ん? ワシは思ったことを言っただけじゃ。もう少し自分の置かれている状況をよく見たほうがいいのではないか?」

「何を言っているのかさっぱり……え? 二人がいない?」


 紫雲の言葉を聞いたノルンが苛立ちながら周囲を見渡すと、いつの間にか土煙は収まっていた。それだけでなく、先ほどまで目の前にいたはずの冬夜とメイの姿も消えてなくなっている。


「なぜ二人が消えているのですか? 隠れるような場所も時間もなかったはず……」


 驚いたノルンは周囲を見渡すが、どれだけ探しても二人の姿は見当たらない。


「ワシが何の考えもなしに攻撃を続けると思うか? あの二人を巻き込むわけにはいかんからのう」

「なるほど、わかりましたよ。最初の土煙で煙幕を張り、私と二人を分断したわけですね。そして、ナイフで攻撃を仕掛けている隙に公園から逃がしたと……」

「正解……と言いたいところじゃが、半分正解と言ったところかのう。煙幕代わりに土煙で擬態したところまではな」

「どういうことでしょうか? ……なるほど、先ほどの攻撃の意図が分かりましたよ」


 先ほどまでの慌てた様子とは打って変わり、笑みを浮かべるノルン。


「ほう? もう気が付くとはさすが三大妖精のセカンドじゃな」

「お褒めの言葉ありがとうございます。先ほどのナイフによる攻撃は私を狙ったものではなく、彼らとの空間を断絶するための準備だったのですね」

「そういうことじゃ。お前さんには聞きたいことが山ほどあるからのう……これでゆっくり聞き出せるというわけじゃ」


 勝ち誇った声色で種明かしをする紫雲だったが、ノルンから返ってきたのは予想外の返答だった。


「ふふふ……さすがは深淵の暗殺者さんです」

「なんじゃ? 大人しく話す気になったのか?」

「いえいえ、褒めて差し上げているのですよ。つくづく私の期待を裏切っていただけるということに……」


 目を閉じてうつむくと、肩を震わせながら笑い出すノルン。あまりの不気味さに紫雲の焦りが、声色に滲み始める。


「それはどういう意味じゃ? この隔離された空間でお主にできることなど……」

「たしかに私だけの力ではこの空間から脱出することは不可能でした。しかし、()()()()()()()()()()を持つ彼女ならどうするでしょうか?」


 ノルンが言い終えると同時に目の前の空間に一筋の切れ目が現れる。その隙間から姿を現したのはポイズニング・ダガーを握りしめたアビー。


「お姉さま、あまりにも帰りが遅いのでお迎えに上がりました」

「ご苦労様です。遅くなってごめんなさい、もっと早く帰るつもりでしたが……とても楽しいお話だったので、つい盛り上がってしまいました」

「まあ、そうなんですね! 私も同席したかったです。あのアホはきっちり締めておきましたよ。とはいえ……反応が鈍くなってしまいましたので、少しお休みです。また壊れてしまっては楽しめませんから」

「あらあら、そんな心配しなくても大丈夫ですよ。アレ(フェイ)は壊れませんから……それよりもっと楽しいことを思いつきました」


 不敵な笑みを浮かべたノルンが紫雲に向けて意味深な言葉を投げかける。


「この空間を()()()()()()()のところにご挨拶に伺う必要があります。良いものを見せていただけたお礼もしなくてはいけません」

「……最初からそれが狙いだったのじゃな……」

「白々しいですね……いいでしょう。あなたが考えている作戦に乗ってあげましょう。その前に彼らにご挨拶をするのが先ですね。アビー、思う存分この空間を切り裂きなさい!」

「承知しましたわ、お姉さま!」


 ノルンの言葉を聞いたアビーが無邪気な笑顔をのぞかせると、右手に持ったポイズニング・ダガーを縦横無尽に振り回す。空気を断ち切るような金属音が響き、まるで鏡のように二人の姿を映しながら結界が切り刻まれて地面に落ちていく。


「これで最後ですわ」


 アビーが横一線にダガーを振り抜くと、空間がゆっくり左右にずれ始める。魔力を切られた結界は霧が晴れるように消え、二人の前に冬夜とメイが現れた。


「な……ノルン、いったいどこから……な、なんでアビーまで?」


 いきなり目の前に現れたノルンとアビーに驚いて固まる二人。

 冬夜とメイは無事にこの場を切り抜けることはできるのだろうか?

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