第3話 見えないノルンの思惑
「メイ、俺の後ろに隠れるんだ」
「うん……」
隣にいたメイを自分の背後に隠し、ノルンと対峙する冬夜。
「あら? どうされたのでしょうか?」
「なんでお前が……いったい何の目的だ?」
「ふふふ……お菓子を買いに来ていることがそんなに珍しいのでしょうか?」
睨みつける冬夜を意に介さず、笑みを浮かべながらお菓子を手に取るノルン。
「本当に種類が豊富でどれもこれも魅力的ですね。一口サイズのものから食べきるのにちょうどいい小分けされたお菓子……どれも素晴らしいじゃないですか」
「話を逸らすな! お前が何の企みもなしに『ただお菓子を買いに来た』なんて信じられると思うか!」
「あらあら、ずいぶんな言われようですね。私だってお菓子くらい買いに来ますよ」
手に持っていたお菓子をゆっくり元に戻すとわざとらしくため息をつき、肩を落とすようなしぐさを見せるノルン。警戒し続ける冬夜に対して呆れた様子で話を続ける。
「何か大きな勘違いをされているようですが、いくら私でも時と場合はわきまえております。こんなに素晴らしいお店でケンカをするなんて……まさかお考えじゃないですよね?」
「それは……」
ノルンからド正論をぶつけられるとは思ってもみなかった冬夜は、返答に詰まってしまう。
「あなたもお菓子を買いに来たのではないのですか? そうですね、お買い物が済んでからゆっくり話しましょう。あなたたちに伝えておかなければいけないことがありますから」
「伝えておかなければならないことだと?」
「ええ、きっと有益な情報だと思いますよ。向かいの公園でお待ちしております」
二人に告げると手早くお菓子を選び、店の奥へ消えるノルン。呆然と立ち尽くす二人の耳に店主と談笑する声が聞こえてきた。数分後、両手にお菓子の入ったビニール袋を持ったノルンが戻ってきた。
「やはり私の目に狂いはありませんでした。どうぞ、ゆっくり買い物を楽しんできてください」
ご機嫌な様子で二人の横を通り過ぎ、公園へ歩いていくノルン。ただ見送るしかできなかった冬夜に、後ろにいたメイが話しかける。
「冬夜くん、なんとなくだけど……前に学園であった時のような危ない雰囲気は感じなかったよ」
「ああ……俺も同じことを思った。だけど、相手はノルンだからな……」
「うん……でも、警戒しなくても大丈夫な気がするよ」
「え? 何でそう思ったんだ?」
メイの返答を聞いた冬夜が目を丸くして聞き返す。
「うーん、うまく説明ができないけれど……あの人から魔法の力を感じなかったんだ」
(ノルンの妖力を感じなかった? いったいどういうことなんだ?)
言っている意味が分からず、眉間にしわを寄せて考え込む冬夜。すると不思議そうな顔をしたメイがのぞき込んできた。
「どうしたの? また難しそうな顔をしているよ」
「ああ、ちょっと気になることがあってな……なあ、ノルンの力を感じなかったって本当か?」
「うん、前に会った時は黒っぽいオーラを纏っていてすごく怖かったんだ。だけど、さっきは何も見えなかったんだよ」
「そうなのか……」
メイの言っていることが冬夜には理解できなかった。なぜなら先ほどノルンと対峙した時、以前と変わらぬ妖力を纏っていたからだ。違うとすれば明確な敵意がなかった点だけだが……
「……大丈夫だよ、冬夜くんと一緒なら……」
頬を赤く染めたメイがうつむきながら小さく呟く。
「え? なんて言ったんだ?」
「何でもないよ。早くお菓子を買いに行こうよ!」
うまく聞き取れなかった冬夜が聞き返すが、明後日の方向に顔を向けるメイ。すると、握っていた冬夜の手を引っ張って歩き出す。
「おい、メイ。ちょっと待って!」
「早くいこうよ! どんなお菓子があるか楽しみだもん」
「そんなに引っ張ったら危ないって」
なすすべなく引っ張られ、転びそうになる冬夜。その様子を見て、満面の笑みを浮かべるメイ。
(お願いします。この楽しい時間が少しでも長く続きますように……)
小さな願いを心に秘め、冬夜と笑顔で歩みを進めるメイ。店先につくと二人はカウンターに座っていた初老の女性に声をかける。
「おばちゃん、久しぶり!」
「おやおや、誰かと思ったら冬夜くんじゃないか。大きくなったね」
「おばちゃんも元気そうでよかった! 今日は友達もつれてきたんだ」
「初めまして、冬夜くんの友達でクラスメイトのメイと言います」
「あらあら、ずいぶんかわいい子だね。もう夏休みに入ったのかい?」
笑顔を浮かべた店主は目を細めながら二人を見つめると、優しく話しかける。
「そうなんだよ。どうしてもおばちゃんの店に連れてきたくてさ。今日は出かけちゃったけど、他にも学校の友達が来てるからお菓子を買っていこうと思って」
「そうかい、大したものはないけどゆっくり選んでいってね」
「ありがとう! メイ、順番に見ていこうか?」
「うん! いろんな種類があって迷っちゃうね」
仲良く談笑しながらお菓子を選んでいる二人の様子を笑顔で見守る店主。時に三人で話しながら楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「じゃあね、おばちゃん。今度は他の友達も連れて来るよ」
「ありがとうございました! すっごく楽しかったです」
「そうかい、楽しみにしてるよ。また遊びにおいで」
笑顔で見送られながら駄菓子屋を後にする二人。そのまま目の前にある公園に足を踏み入れる。
「待たせたな」
奥のベンチに座っていたノルンへ鋭い視線を送る冬夜。
彼女は何のために現れ、二人に何を語るのか……




