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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
幕間⑥

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閑話 ぬいぐるみ戦争「夏の陣」⑧

 何が起こったのか理解できず、リーゼを除く全員が呆然としていた。その様子を見た芹澤は不思議そうに首をかしげる。


「なんだ? そんなに驚くようなことでもあったか?」

「……ふ、副会長。いったい何をしたんですか?」


 我に返った言乃花が珍しく慌てた様子で問いかける。


「ふむ、いつも冷静な言乃花くんにしては珍しいな……よかろう、質問を受け付けようじゃないか」

「……どうして袋を裏返しただけで、壁の中にあるぬいぐるみだけが消えるんですか?」


 言乃花が氷の壁を指差して追及する。


「ああ、そのことか。言乃花くんならすぐ理解すると思っていたのだが」

「わかるわけがないですよ! 氷の壁ですよ? しかも、閉じ込められたぬいぐるみだけを消すなんて……」

「別に不可能なことでもないぞ。そうだな、学園長が使う魔法……次元(ディメンションズ)回廊(ゲート)はご存じだろうか?」

「もちろんです。あの得体のしれない魔法で現実世界に来ましたから……それと何が関係しているのでしょうか?」


 意図していることが全く読めず、不信感たっぷりな表情になる言乃花。その様子に大きなため息を吐く芹澤。


「やれやれ……そこまでヒントを出しているのにまだわからないのか……」

「まったく意味が分かりません! 学園長の魔法とマジックバッグに何の関係があるのですか?」


 謎かけのような返答にいら立ちをあらわにする言乃花。二人の様子を静かに見守っていたエミリアが二人の間に割って入る。


「二人ともちょっと落ち着いて。玲士くん、学園長の使う魔法がヒントって言ったわよね?」

「はい、その通りです」

「まさか……(ゲート)の仕組みを応用した魔法が使われているの?」

「さすがはエミリアさんだ! 学園長にご協力をいただき、次元の狭間に保管する技術を完成させたのです!」

「やっぱり……あの男は……」


 意気揚々と答える芹澤とは対照的に、額に右手を当てうなだれるエミリア。


「エミリアさん、いったいどういうことでしょうか?」


 二人の話についていけない言乃花が困惑した様子で問いかける。


「ごめんなさいね、言乃花ちゃん。このバッグがいかに得体のしれないものなのか分かったのよ……学園長の次元回廊を通ったことがあるわよね?」

「ええ、もちろん……」

「あの魔法が普通じゃないことはわかるわよね?」

「はい、一瞬で異なる世界を行き来できるなんて……まさか?」

「そう、あの男が何かを仕込んだのは間違いわ。詳細な仕組みについては聞かされていないのよね、怜士くん?」


 顔を上げると玲士に視線を送るエミリア。その反応を待っていたかのように笑顔で話し始める。


「すべてお見通しとは……おっしゃる通りです。リーゼに渡したものは共同で開発した試作品になります。肝心な部分は学園長に担当いただいたので、詳細な仕組みはわかりません。それからソフィーくんたちに渡したものは私が独自に開発したものになります。まあ……実験の途中で生まれた副産物と言いますか……完全な仕組みは現在解析中ですが」

「ソフィーちゃんたちなら無茶な使い方はしないわね……副会長、あとでゆっくりお話を聞かせてくださいね」

「まったく……うちの娘は……」


 芹澤の高笑いがこだまする中、揃って額に手を当てて大きく息を吐くエミリアと言乃花。離れた位置で様子を見ていたソフィーと美桜がゆっくり近づいてきた。


「なんのことだかさっぱりわからないのですが、玲士お兄ちゃんはすごいのです!」

「さすがプロフェッサー芹澤さんです! この袋はお返ししたほうがいいですか?」

「ははは! もっと褒めてくれていいんだぞ! ソフィーくん、美桜くん、その袋はもう君たちのものだ。自由に使ってくれたまえ!」

「やったーなのです! 玲士お兄ちゃん、ありがとうなのです!」

「ありがとうございます」


 手を繋いで飛び跳ねながら喜ぶ二人の様子を優しい笑みで見守る三人。すると、美桜が何かを指さしながら大きな声で叫んだ。


「あー! 何か忘れてると思ったら、冬夜お兄ちゃんが()()()()()()()()()なのです!」


 その言葉を聞いた四人が慌てて氷の壁に目を向けると、中でうずくまる冬夜の姿が見えた。


「あ! 姿が見えないと思ったら……」

「すっかり忘れていたわ……早く助けないと……副会長、なんとか破壊できませんか?」

「ふむ。炎天下でこれだけ時間が経過しているにもかかわらず、溶けないとは……リーゼも腕を上げたみたいだな」

「何をのんきなことを言っているんですか! 早くなんとかしてください!」


 感心した様子で氷の壁を眺めていた芹澤だったが、言乃花に一喝されてしまった。そこで渋々といった様子で右手を突き出すと、一瞬で氷の壁が砕け散る。


「た、助かった……」

「冬夜さん、大丈夫ですか?」

「冬夜お兄ちゃん、無事なのですか?」

「ああ、何とか無事だよ……ちょっと体が冷えすぎて寒いけど……」


 心配するソフィーと美桜に全身を震わせながら青白い顔で答える冬夜。唇は紫色になり、あと少し救出が遅かったら危ない状態だった。


「無事なら何よりね。でも体が冷えすぎているし、近くの銭湯に行って温まってきなさい。そうだ、ソフィーちゃんたちに付き添いをお願いしてもいいかしら?」

「はい、わかりました」

「任せるのです! ソフィーちゃん、お風呂上がりのフルーツ牛乳のおいしさを教えてあげるのです!」

「楽しみだね! じゃあ、行ってきます。冬夜さん、歩けますか?」


 ソフィーと美桜に手を引かれながらおぼつかない足取りで銭湯へ向かう三人。姿が見えなくなったころ、気を失ってエミリアに抱きかかえられていたリーゼが目を覚ました。


「うーん……私は何をして……」

「ようやくお目覚めのようね? さてと、時間はたっぷりあるからお話を聞かせてもらいましょうか?」

「そうね。冬夜くんまで巻き込んで……覚悟はできているわよね?」

「ちょ、ちょっと二人とも目が怖いわよ……ね、落ち着いて話し合わない?」


 抱きかかえられた腕をなんとか振りほどこうと抵抗したリーゼ。しかし、言乃花とエミリアに両腕をしっかりつかまれ、そのまま家の中へ引きずられていった。



「どうして……どうして……」


 二人からこってり絞られ、数体のぬいぐるみ以外は没収されてしまったリーゼ。しかし、彼女はあきらめていなかった。


「大丈夫よ、あの子たちは私が()()()()()()んだから……作戦を考えるのよ」


 黒い笑みを浮かべ、何かを決心するリーゼ。

 こうしていったんは幕を下ろしたかのように思えたぬいぐるみ戦争。 しかし、彼女がこの程度であきらめるわけもなかった。

 事件は冬休み、ソフィアに招待されたウォーターアイランドで起こった。

 楽しいクリスマスイベントが全員を巻き込み、()()()()()()()()()()騒動に発展するとは誰も予想できなかった……

閑話にお付き合い頂き、ありがとうございました。

一旦「ぬいぐるみ戦争 夏の陣」は終結となります……が、リーゼが諦めるわけもなく……

パワーアップした「ぬいぐるみ戦争冬の陣」でお会いしましょう!

次回より第7章「『破滅の協奏曲ペリシュ・コンチェルト』」が開幕!

様々な伏線が繋がり始めます。

それではお楽しみに!

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