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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
幕間⑥

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閑話 ぬいぐるみ戦争「夏の陣」⑦

「ちょっと待て! 何が起こったのかちゃんと説明してくれ!」

「説明している暇なんかないわ! ぬいぐるみを守る戦いなのよ!」


 尋常ではない圧力(プレッシャー)を放つリーゼを何とか落ち着かせようと試みる冬夜。しかし、血走った目をして暴走し始めた彼女の耳には届かない。


「リーゼ、落ち着いてエミリアさんの話を聞くべきじゃない?」


 見かねた言乃花の一言が火に油を注ぐことになった。


「言乃花……あなたは()()()()()なのね? そう、私からこの子たちを引き離そうとする……」

「なんでそうなるのよ! このまま置いたままにはできな……」

「やっぱり私たちを引き離そうとしているんじゃない!」

「少しは冷静に話を聞きなさい! 玄関の前に山積みのまま置いておくわけにはいかないでしょ」

「そうね。大切なこの子たち(ぬいぐるみ)を放置しておくなんて私にはできないわ」


 リーゼが話の趣旨を理解してくれたことに胸をなでおろす言乃花。しかし、次の一言でその期待は打ち砕かれる。


「……なおさら私が守ってあげないといけないわ! ママや言乃花の魔の手が及ばないように!」

「「なんでそうなるのよ!」」


 予想外の一言にエミリアと言乃花が同時に声を上げる。


「リーゼ、落ち着きなさい!」

「そうよ。なんで私まで敵認定されるのよ。だいたい出発前にエミリアさんからの伝言を伝えたでしょ? お迎えしてもいいけど考えてねって」

「ええ、お迎えする子をちゃんと選ぼうと思ったけど……誰か選べってそんな非道なことはできないわ! 冬夜くんにはわかるわよね? この子たちが訴えかける心の声が!」

「あ、え、それは……」


 わけのわからない持論を急に振られ、困惑しながら生返事を返す冬夜。


「ほら! 彼もわかってくれてるじゃない! この子たちの訴えを無視して置いていくなんて……そうよね、冬夜くん?」

「……」


 リーゼの勢いに圧倒され、何も言い返せない冬夜。助けを求めて言乃花へ視線を送るが、そっと目を閉じて小さく首を横に振られてしまう。


(誰か……助けてくれ……)


 冬夜の願いもむなしく、リーゼの大暴走は止まることを知らない。


「敵は排除しないといけないわね……私の味方をいつ洗脳するかわからないから!」

「リーゼ、あなたは何を考えて……」

「冬夜くん、今助けてあげるわよ! 凍てつけ、氷の壁(アイスウォール)


 リーゼが叫ぶと同時に冬夜とぬいぐるみたちを囲むように氷の壁が出現した。


「おい、リーゼ! いくらなんでもこれはやりすぎだろ」

「大丈夫よ。この壁はレイスの魔法でも溶けることはないし、少々の攻撃ならびくともしないわ」

「そういうことじゃなくて、やけに体が冷えてくるんだが……」

「氷の壁だからね。暑い夏の日だし、ちょっと涼しくていいんじゃない? 長引くとちょっと()()()()になるかもだけど」

「ちょっとまて! 早くここから出せ!」

「ふふふ、そんなに長引かせないから大丈夫よ。味方である冬夜くんを洗脳しようとしている二人を排除しなきゃいけないから……ちょっと静かにしていてね」


 リーゼが指を鳴らすと氷の壁が虹色に輝く。すると必死に壁を叩きながら何かを叫んでいた冬夜の声は、一切聞こえなくなった。


「リーゼ……何をしたのかわかっているの?」


 言乃花が肩を震わせながらリーゼに問いかける。


「もちろんよ。私のことをわかってくれる味方に危害を加えられないようにするためよ」

「そんな……冬夜くんを危険に晒す必要なんてあったの?」

「何を言っているのかわからないわ」

「あくまでも話を聞く気はないってことね……仕方ないわ、ちょっときついお仕置きが必要ね」


 言い終えると同時に緑色のオーラが言乃花の全身を覆い、火柱のように天高く立ち上る。その様子を見たリーゼは笑みを浮かべ、煽り始める。


「やっぱり私たちの前に立ちはだかるわけね……いいわ、今日こそどちらの実力が上なのか……白黒つけましょう!」

「馬鹿なことばかり言って……ちゃんと話を聞いてもらうために、私も鬼にならないといけないわね」

「さあ、始めましょう! あの子たちは私が助けるんだから!」

「……リーゼ、いつも言っているけど周りをもう少しちゃんと見たほうがいいわよ」

「え……なんで……」


 リーゼが言乃花に向かって駈け出そうとした時だった。音もなく背後に現れたエミリアが左手でリーゼの後頭部に一撃を入れた。


「まったく……世話の焼ける娘だわ」


 一瞬で意識を刈り取られたリーゼは駆け出した勢いのまま倒れてしまう。顔が地面に激突する寸前でエミリアが抱きかかえる。


「やれやれ……言乃花ちゃん、おとりになってくれてありがとう。おかげでうまくいったわ」

「いえいえ、エミリアさんの煽り方がお上手なんですよ」

「我が娘ながらほんと単純ね……そもそも、ぬいぐるみたちを返品するとは一言も言っていないのに」


 氷の壁に包まれて山積みになっているぬいぐるみを見て、大きなため息をつく二人。


「それにしてもこのぬいぐるみの山をどうしましょう?」

「いつまでもここに置いておくわけにいかないし、あの袋に入りきるとは……」

「ふむ、すごい数のぬいぐるみだな。やはり、ちゃんと説明書を読まずに無理やり詰め込んだか」


 言乃花の背後から芹澤の感心したような声が響く。


「玲士くん、ちゃんと説明書を読まずにってどういうことかしら?」


 氷の壁に囲まれたぬいぐるみの山を前に腕を組み、眺めていた芹澤にエミリアが声をかけた。


「エミリアさん、お疲れ様です。リーゼたちに渡した袋には()()()()()()がついているんですよ。ちゃんと説明書を読めと言ったんですがね」

「は? 二段階の機能?」

「ええ、ちょっと袋を貸してもらえますか?」


 芹澤が袋を受け取るとおもむろに袋を裏返し、短く言葉を発する。次の瞬間、積みあがっていたぬいぐるみが跡形もなく消え去った。


「え? 何が起こったの?」


 言乃花が困惑の表情を浮かべてうろたえる様子をみて、不敵な笑みを浮かべる芹澤。

 マジックバッグに隠された秘密とは?

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