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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
幕間⑥

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閑話 ぬいぐるみ戦争「夏の陣」②

「美桜ちゃん、ぬいぐるみさんとおしゃべりができるって本当?」

「玲士お兄ちゃんなら何とかしてくれるのです! きっと夢をかなえてくれるはずなのです!」

「そうね! すごく楽しみ!」


 美桜とソフィーがぬいぐるみの前ではしゃいでいると、我に返ったリーゼが鼻息を荒くして二人に迫ってきた。


「美桜ちゃん! さっきの話は本当なの?」

「わっ! ど、どうしたのですか? リーゼお姉ちゃん! 目、目が回るのです」


 美桜の右腕を掴むとそのまま引っ張るリーゼ。あまりの勢いに体が回転し、目が回り始めたところでいきなり両肩を掴まれて無理やり止められる。


「うう……気持ち悪いのです……」

「詳しく話を聞かせてもらいましょうか? ぬいぐるみが()()()()()()()()()()()()()()!」

「あ、えっと……リーゼお姉ちゃん、目が怖いのです……」


 目の焦点が戻った美桜の視界に入ったのは、前かがみになって鬼気迫る表情のリーゼ。鼻息は荒く目が血走り、全身から溢れ出すオーラは半端ではない。


「ちょ、ちょっとリーゼお姉ちゃん……近い、近すぎるのです!」

「細かいことはどうでもいいの。早く詳細を教えてくれればいいのよ!」


 あまりの迫力に何とか逃れようと試みた美桜。しかし、普段のリーゼからは想像できないほどの謎の力で両肩を押さえつけられ、一ミリたりとも体が動かない。困惑する美桜のことなど気に留める様子もなく、お互いの鼻先が当たりそうな位置までどんどん近づいてくる。


「さっき芹澤がどうとか言っていたわよね? アイツに言えば可能なのよね?」


 さらに詰め寄ろうと近づいたところで制止する大きな声が響く。


「リーゼさん! 美桜ちゃんが怖がっていますよ! 少しは落ち着いてください」


 我に返ったリーゼが後ろを振り向くと、腰に両手を当てて頬を膨らましているソフィー。


「あ、あの……決して怖がらせようとかじゃなくて……」

「私もぬいぐるみさんたちと一緒にお話ししたり、遊んだりしたい気持ちはわかります」

「ソフィーちゃんもわかってくれるのね!」


 同意を得たリーゼの顔が一気に明るくなった。そしてソフィーの手を握ろうと一歩踏み出したとき、続いて飛んできた言葉に固まった。


「はい、うれしい気持ちは一緒です。でも、美桜ちゃんを怖がらせるのは『めっ』です!」

「……」


 ソフィーが右手を突き出し、一喝すると先ほどまで笑顔だったリーゼの表情が一転した。まさに天国から地獄へ叩き落されたように絶望した顔のまま立ち尽くしている。そんな様子のリーゼを気に留めることもなく、壁際にしゃがんで震えている美桜のもとへ駆け寄る。


「美桜ちゃん、大丈夫?」

「ソ、ソフィーちゃんのおかげで助かったのです……リーゼお姉ちゃんの執念を甘く見ていたのです……」

「リーゼさんの気持ちもわかるよね。ぬいぐるみさんたちと一緒に遊びたいし、メイもきっと喜んでくれると思うから」

「メイお姉ちゃんもみんなも笑顔になること間違いないのです! そうと決まったら早く荷物をまとめて冬夜お兄ちゃんの家にレッツゴーなのです」


 一気に元気を取り戻した美桜が勢いよく立ち上がり、ソフィーの右手を掴んで走り出しそうとした時だった。


「美桜ちゃん、ちょっと待って。どうやってこのお土産を持って帰るの? うさぎさんのぬいぐるみだけでも運ぶのは大変だよ?」

「たしかになのです。お姉ちゃんたちへのお菓子もたくさん用意してもらったのです。それにリーゼお姉ちゃんの山のようなお土産を運ぶだけでも大変なのです……」


 二人がお土産の山を見ながら困惑していると、背後から声がかかる。


「ふふふ……話は聞かせてもらったわ! 二人とも何かを忘れていないかしら?」

「あれ? リーゼお姉ちゃん、いつの間に復活したのですか?」


 二人が振り返ると腕を組み、不敵な笑みを浮かべたリーゼが仁王立ちをしていた。


「私が何も考えずにこの子たちを全員お迎えするなんて言うと思った?」

「……リーゼお姉ちゃんなら後先考えずに持って帰ると言って聞かないと思うのです」

「美桜ちゃん、いくら私でも何の対策もせずに持ち帰ったらどうなるかわかるわよ」


 話を聞いた美桜が顎に左手を当てて考え込む。すると隣で話を聞いていたソフィーが不思議そうな顔でリーゼに問いかける。


「持って帰ろうとしても、何か入れ物がないと無理ですよね……この量が入る入れ物なんてどこにも……」

「ソフィーちゃん、いいところに目を付けたわね! そう、普通に持って帰ろうとしても絶対不可能なの。だから芹澤にこれを用意させたのよ!」


 リーゼが服のポケットから意気揚々と取り出したのは、小さく折りたたまれたピンク、スカイブルー、オレンジ色をした布袋だった。


「リーゼお姉ちゃん、いくら何でも小さすぎるのです。玲士お兄ちゃんのことなので、ただの袋だとは思えないのですが……」

「さすが美桜ちゃんね。一見小さく見えるこの袋だけどちゃんと秘密があるのよ」


 リーゼがオレンジ色の袋を広げると、お土産の山に置いてあったソフィーの顔くらいの大きさがあるクマのぬいぐるみを手に取る。


「リーゼさん、いくら何でもその大きさのは入らないですよ!」

「そうなのです! 袋が破けてしまうのです!」


 止めに入ろうとする二人を気にすることもなく、ぬいぐるみを袋へ押し込んでいくリーゼ。すると頭が袋に入った瞬間、不思議と吸い込まれるように中へ消えてしまった。


「ど、ど、どうなっているのです? ぬいぐるみが消えちゃったのです!」

「不思議でしょ? どんな構造かはよくわからないんだけど、どれだけ物を詰めても重くならないのよ。それでいて中でぐちゃぐちゃになることもないの!」

「すごいです! この袋があればたくさんお土産を持って帰れますね!」


 ソフィーが目を輝かせていると、リーゼが意気揚々と宣言した。


「すごいでしょ? そうと決まればお土産を一気に詰め込むわよ!」

「はい!」

「はいなのです!」


 ソフィーはピンク色の袋、美桜は水色の袋を受け取った。三人がお土産へ向かおうとしたとき、美桜の足元に一枚の紙が落ちてきた。


「ん? 何か落ちたのです」


 拾い上げてみると芹澤の字で書かれた注意書きの切れ端だった。


「なになに……『リーゼへ。それなりの量を入るように作ったが、()()()()()()()()()()()()()……』ってここで切れて読めないのです。嫌な予感がするのですが、見なかったことにしておくのです」


 切れ端を丸めてポケットに突っ込むと、二人と同じように自分のお土産を詰め始める美桜。

 注意書きを無視したことにより、リーゼの身に災難が降りかかることなど予想だにしていなかった。

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