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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第六章 封印された魔科学

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第29話 学園長VS冬夜

「忘れていた……話が通じる相手ではないということを」

「ひどいな。こうみえても僕は各方面に()()()()()()()()()()()()()として称賛されているんだよ?」

「相手にされていないの間違いじゃないのか?」


 言葉を吐き捨てると、冬夜の姿が微かに揺れた。直後、金属がぶつかり合うような音が公園に響く。


「うんうん、自分の魔法属性をよく理解して不意打ちを仕掛けるとは……生徒の成長を実感できるのは嬉しいね」

「チッ……わかっちゃいたけど、相変わらずムカつく言い方だな」


 暗闇から少しずつ姿を表したのは学園長の顔面に向けて拳を突き出している冬夜。


「いい攻撃方法だと思うよ。先程までいたところに魔力を残しておいて、気配を完璧に消して対象に不意打ちをかける。数ヶ月前までまともに魔法の扱いができなかったとは思えない成長だね」

「褒められても嬉しくないんだけどな」

「いやいや、ここは素直に受け取っておいてほしいな?」

()()()()()()()()()()かのように受け止められて、素直に喜べるわけがないだろうが!」


 冬夜が大声で叫ぶのも無理はない。学園長は一歩も動かず、左手の人差し指だけですべての攻撃を受けきっている。


「実に惜しいのはロザリオの輝きはうまく消しきれていなかったことだね。僅かに光の軌跡が残っていたよ」

「ご丁寧な指摘はありがたい……と言いたいが、()()()だと言ったらどうする?」


 言い終えると同時に反対側からもう一人の冬夜が現れた。手には刀身が真っ黒な日本刀が握られている。


「なるほどね……」

「無策で突っ込むほど馬鹿じゃないんでな」


 刀を勢いよく振り下ろそうとした時だった。突如不敵な笑みを受かべ、嬉しそうな声を上げる学園長。


「この状況は想定外だったよ……とでも言うと思ったかな?」

「な……」

拘束(バインド)


 驚きの声を漏らすと、二人の冬夜の体に光り輝く輪のような物がまとわりつく。


「驚いたかい? 僕くらいになると魔力を自在に操れるんだよ。そうだ、冬夜くんのために格上との戦い方をレクチャーしてあげよう」


 全身を拘束され、身動きの取れない二人の冬夜を見ながら不敵な笑みを浮かべる学園長。体が揺らぐと跡形もなく姿が消え、両方の冬夜の背中が同時に蹴り飛ばされる。その勢いのまま二人が激突すると、分身が解け一人の姿に戻ってしまった。


「ガハッ……」

「レクチャー其の一、たとえ拘束されていたとしても隙を見せる行為は厳禁だよ。特に背後を取られることはね」


 地面に倒れ込んでうめき声を上げる冬夜を気にする様子もなく、姿を消した学園長の声が公園内に響く。


「レクチャー其の二、攻撃を受けたとしても反撃に移れるように準備はしておくこと。二手、三手先を読んでおくのがベターかな」


 言葉が途切れると地面が盛り上がり始める。地中から衝撃波のようなものが全身を襲い、打ち上げられた冬夜はそのまま()()()()()()()()


「おやおや? もう分身の魔法が切れちゃったのか……レクチャー其の参、いかなる時も防御に手を抜くようなことは厳禁だ。さて、教えたことができているのか……答え合わせといこうじゃないか」

「答え合わせだと……ま、まさかその魔法は?」

「気がついてくれて嬉しいな。彼ほどの威力は出せないけど、君を倒すには十分だろう」


 冬夜の目に映ったのは、はるか上空で()()()()()()()()()()()ながら微笑む学園長。周囲には黄金色に輝く光の柱が何本も出現していた。その光景は芹澤財閥のシミュレーターに現れたフェイが使った大技と酷似していた。


「あんたは一体何者なんだ……」

「その質問にはまだ答えられないかな? 知りたければ迷宮図書館に隠された謎を解き明かし、自らの手で掴み取ってみたまえ」

「迷宮図書館に隠された謎? やはりあの場所には秘密があったのか!」

「なかなか鋭いね。でも、一人で解き明かすことはできないだろう……そうだな、心優しい学園長がヒントを教えてあげよう。君とメイくんが覚醒を遂げたとき真実の扉は姿を表すだろう」

「真の覚醒? 俺とメイが? 真実の扉?」


 突然の告白に呆然とする冬夜を気にも留めず、そのまま話を続ける。


「一筋縄ではいかないだろう……創造主(ワイズマン)も血眼になって探しているからね。だが彼らはまだ気がついていない、最後の鍵となるのはソフィーくんだということにね……」

「は? ソフィーが最後の鍵? 何を言っているんだ……」

「ちょっと話しすぎてしまったようだ……気になるのであれば学園長室でお茶をしながら話そうじゃないか。この攻撃を受けて無事でいられるのであればね」


 笑みを浮かべると背中の翼が輝きを増し、光を纏った羽が冬夜の周りに降り注ぐ。まるで夜空に輝く流星群のように……


「なんて幻想的な光景なんだ……」


 思わず見とれてしまった冬夜だったが、すぐに現実へ引き戻される。


「悪いけど、そろそろタイムリミットのようだ。僕の期待を裏切らないでくれよ? 迷宮(ラビリンス)(ゼウス)として命ずる……雷神(トール)の力を顕現し、試練を与えん。いでよ、雷神(ライトニング)()裁き(ブラスト)


 学園長が詠唱を終えると同時に拘束されたままの冬夜へ向かい、光の槍に形を変えた魔力が一斉に襲いかかる。


「クソ……俺はどうすることもできないのか?」


 迫りくる光の槍に目を閉じた時、冬夜の頭に聞き覚えのある声が響く。


「私が力を貸しましょう、冬夜」

「え? この声は?」


 絶体絶命の冬夜に聞こえた声は一体誰なのか……

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