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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第六章 封印された魔科学

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第28話 三人の思惑と新たな悪夢(ナイトメア)

「相変わらず悪趣味なヤツじゃのう……少しは年寄りを労ろうという気持ちはないのか?」

「ひどいな。すごく気を使っているじゃないか!」

「真夜中に呼び出すヤツのどこが気を使っているんじゃ?」

「そこはお互い様……っと、()()()()()()()()()ね」


 言い終える前に紫雲とは反対方向から学園長に向けて、一筋の光が走る。


「うんうん、いい不意打ちだったよ……ほんの僅か気配を残して襲ってくるなんて」


 わずかに体をずらし、笑顔のまま視線を送る学園長。月の光に照らされたのは先ほどまで紫雲の隣に立っていたはずの雪江。


「わざと気配を残したことに気が付かないとは……腕がなまっているのではないでしょうか? 裁定者(パラディン)としての」

「おやおや手厳しいな。優秀な学生や卒業生が多くて僕の出番が減ってきている証拠だよ」

「それは喜ばしいことです。しかし、あなたがサボってもいいという理由にはなりませんよね?」

「これは耳が痛いな。こう見えても学園長という立場で結構忙しいんだよ」

「そうですか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もんね?」


 雪江から放たれた言葉に笑顔のまま凍り付く学園長。


「ど、どうしてそのことを知っているのかな?」

「私の情報網を甘く見ないことです。いつも遊び回っているひとがいますからね、おじいさん?」

「ナ、ナンノコトカサッパリワカランノウ」


 思わぬ流れ弾を喰らった紫雲は明後日の方向を向いて冷や汗を流していた。そんな二人の様子を見ながらわざとらしく大きなため息をつく雪江。


「今後の学園の方針についてお聞かせ願いたいですね。大切な孫とご学友たちを通わせているわけですから」

「……その件に関してはじっくり話す機会を設けようかな? 僕の計画を邪魔しないのであれば……ね」


 言い終えると同時に学園長の姿が揺らぎ、闇に溶けこむように消える。


「おじいさん、来ますよ!」

「わかっとるわい。ばあさん、広域防御結界を展開しておいた方がいいぞ」

「もう準備はできています。精霊魔法(フェアリーマジック)展開(オープン)夢幻結界(ドリームテリトリー)


 雪江が詠唱を口に出すと二人を中心に光を帯びたドーム状の結界が包み込む。その直後、大きな爆発音とともに結界が大きく揺れる。


「一歩遅かったか……さすが精霊の(フェアリー・)魔術師(マジシャン)と呼ばれた雪江さんだね。僕の魔法をもってしても打ち破れないとは」

「無策で構えているほどバカではありませんよ。この程度の攻撃が来るのは予測済みです」


 顔を上げた雪江が睨みつけた先にいたのは空中に浮かんでいる学園長。目は紅色に光り、先ほどまでの笑顔は消え去っている。


「そうだね、このくらいは防いでくれないと面白くない……じゃあ、次はもう少し威力を上げたのをいこうか」


 口元を吊り上げ、怪しげな笑みを浮かべる学園長。右手を頭の上に掲げると白銀の輝きを帯びたナイフが結界を覆いつくすように展開された。


「……これはオーバーキルなのではないでしょうか?」

「ふふふ……このくらいしないと失礼だからね。後ろで控えている紫雲さん、いや深淵の暗殺者(アビス・アサシン)さんの方が良かったかな」

「懐かしい名前じゃな……自分でもとっくに忘れておったわ」

「幻想世界、現実世界を合わせてもトップクラスの二人を相手に出し惜しみしていては……こちらも勝ち目がないからね」

「減らず口は相変わらずじゃな。お前さんの一撃受けてやろうじゃないか!」

「そう来てもらわないと面白くないからね。……天空を駆け抜ける刃よ、我に力を与えん。貫け、銀翼(シルバーウイング)の雷神(・オーディン)


 学園長が右手を振り下ろすと一斉に結界に向けて白銀のナイフが襲いかかる。次々に突き刺さると轟音をまき散らしながら結界が揺れる。


「ばあさんや、どのくらい持ちそうかのう?」


 爆発に揺れ、少しずつヒビが入り始める結界を見た紫雲が問いかける。


「そうですね……もって三分といったところでしょうか?」

「そうか、三分あれば十分じゃな。思ったより()()()()()()()()

「それは良かったですね」

「ああ、予定通り()()()A()でよいな?」

「そうですね……彼には今までのこともありますから、悪者になっていただきましょう」


 二人は目を合わせると無言で頷く。その直後、陶器が割れたような音が響くと結界が崩壊して一斉に白銀のナイフが襲いかかる。


「さてと……あとは任せたぞ、ばあさん」

「そちらこそ肝心なところでミスしないでくださいよ」


 地面を揺るがすような衝撃と土煙が公園を覆い尽くし、二人の姿はこつ然と消えてしまった……道着の切れ端を残して。



「な、なんだ? すごい地響きと爆発音が公園から聞こえたぞ……」


 家を飛び出した冬夜は一目散に公園に向かって駆け出した。あと半分の所で、まばゆい閃光と地面を揺るがす地響きが襲う。歩くことすらままならない状況になったため、その場でしゃがみ込んでやり過ごした。


「もう大丈夫なのか……?」


 しばらくすると先程までの喧騒が嘘のように静まり返っている。


「やけに静かすぎないか? 早く公園に向かわないと……」


 公園にたどり着いた冬夜の目に飛び込んできたのは衝撃的な光景だった。地面はえぐり取られたように無数の穴があき、鼻をつくような焦げた匂いが漂っていた。そして中央には何かを手にした長身の男性。


「思ったよりも来るのが早かったね、冬夜くん」

「が、学園長? なんでこんなところに? それと右手に持っているのは……」


 冬夜が愕然とした表情で立ち尽くしている様子に不気味な笑みを浮かべる学園長。


「もう少し早く来たら面白いものが見られたかもしれないね」


 右手に視線を向けると、持っていた道着の切れ端を冬夜へ投げつけた。


「布の切れ端? これは? ……どういうことだ学園長!」


 一気に怒りの感情が吹き出すと黒い魔力が冬夜から溢れ出し、天高く立ち上る。目は紅くなり、胸から下げたロザリオの中心が赤黒く発光し始める。


「うんうん、随分成長しているみたいだね。聞きたかったらどうすればいいか……わかるよね?」


 学園長の高笑いが真夜中の公園に響き渡った。


 忽然と姿を消した紫雲たちが言った「プランA」とは何を指すのか?

 新たな戦いの幕が切って落とされた……

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