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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第六章 封印された魔科学

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第27話 隠された目的と真の敵は?

「ふん、白々しい言い方をしおって……お前にとっても都合が良かったんじゃろ」

「どうなんだろうね? なかなか観測者さんとサシで話す機会は作れないからさ」

「どの口が言っておるのじゃ? その気になればいつでも来られるじゃろう」

「こう見えても色々大変なんだよ? ほら、モテる男は忙しいっていうでしょ?」


 嫌味たっぷりな紫雲の言葉を軽くあしらう男性。


「何が『モテる男』じゃ……本来の仕事を秘書に押し付けていつも逃げ回っていると聞いておるぞ、学園長……いや、迷宮神(ラビリンスゼウス)異端児(イレギュラー)

「君にその名前で呼ばれるのは久しぶりだね……」


 紫雲が名を呼ぶと同時に月明かりが差し込み、男性の姿が露わになる。着崩された茶色のカッターシャツ、黒を貴重としたジャケットとパンツを履いた学園長が現れた。赤茶色の長髪は後ろで束ねられ、細長い眼鏡の奥には鋭い光が宿っている。


「わざわざお前の方から出向いてくるくらいじゃ。どうせまた碌でもないことを企んでおるのじゃろう」

「嫌だな、そんな言い方をされたら悲しくなっちゃうな」

「それで何をしに来たんじゃ? ()()()()()()()()()というわけではないじゃろう?」


 紫雲の視線が学園長に突き刺さると笑顔が消えた。


「僕としてはもう少しゆっくりお喋りを楽しんでいたいんだけど……抜かりないところは現役時代からかわらないようだね」

「あら? 褒め言葉として素直に受け取っておきますね」


 学園長の背後に伸びる影の中からゆっくり現れたのは家で眠っているはずの雪江だった。まっすぐ伸びた右手を背中に突きつけ、動きを封じている。


「フフ……斬新な発想と応用力でいつも驚かされるね。現役の時よりも腕を上げたんじゃないかな?」

「褒めても何も出ませんよ。あなたにお聞きしたいこともありますし、ゆっくりお茶でもしながらお話ししませんか?」


 語りかける雪江の表情は笑顔だが、目は全く笑っていない。


「モテる男は辛いね。素敵なお誘いは嬉しいけれど……次の機会があればお願いしようかな」

「いかん! ばあさん、すぐにその場から離れるんじゃ!」


 紫雲の言葉と同時に学園長の口元が僅かに動く。


読了(リーディング)……」


 小声で呟いた直後、学園長の足元からまばゆい光が放たれる。地面が盛り上がり、盛大に土煙を巻き上げながら爆発が起こった。


「ばあさん、大丈夫か!」

「そんなに大きな声を出さなくても大丈夫ですよ。あちらに飛ばしていたのは分身ですから」


 慌てた紫雲の背後から声が聞こえた。振り返ると同じ黒い道着に身を包み、腕を組んだ雪江が呆れた顔で立っていた。


「そ、そうか……それならよかったんじゃ」

「まさか、無策で私が突っ込んでいくとでも?」

「……いや、だってお前は昔から結構むちゃくちゃするじゃろうが……『神出鬼没の黒い悪魔』とか言われておったし……」

「恥ずかしいですね。……でも私が呼ばれていたのは『神出鬼没の悪魔』でしたよ? おじいさん、『黒い』とはどういうことでしょうか?」

「げっ……しまった……」

「後でじっくりお伺いする必要がありますね?」

「……」


 冷や汗を流しながら、なんとか弁明を試みようとする紫雲。その様子を冷ややかな目で見ていた雪枝だったが、小さく息を吐くと立ち込める土煙の中へ視線を動かす。


「おじいさんもいつまで遊んでいるのですか? そんなことよりもこの曲者を叩きのめすことが先決ですよ」

「そうじゃな……素直に話してくれるようなヤツではないからのう」


 二人が目を向けたときだった。


「こんなに素直で誠実な紳士なのに、曲者だなんてひどくないかな?」

「どの口が言っておるんじゃ……」


 声が響くと同時に煙が左右に割れ、一筋の道が現れる。


「まったく規格外も大概にせんか……子どもたちの遊び場である公園を破壊しおって……」

「なんということだ! ちゃんと結界を張っていたのに、誰がこんなひどいことを……」

「爆発させた張本人はお前じゃろうが! 全く……世界の(ことわり)の外にいる奴等には常識っていうものがないのかのう」


 わざとらしくとぼけた学園長の言葉を聞いた紫雲が、ため息をつきながら視線を外したときだった。


「おじいさん、危ない!」


 後ろに立っていた雪江が紫雲を突き飛ばす。数秒後、公園に植えられていた立木の一本が、中央付近からゆっくりズレ始める。


「危なかったね。雪江さんが気づかなければどうしようかと思ったよ。ほら、いつも言ってるじゃないか、戦闘中はいかなる隙も見せちゃダメだって」


 少し困ったような顔になるが、すぐにいつもの笑顔に戻る学園長。


「そうじゃったな……じゃが、その言葉はそのまま返すぞ」


 自分を庇った雪江を支えながら学園長へ視線を向ける紫雲。


「……へえ、あと一歩反応が遅かったら危なかったね」


 正面を向いていた学園長が体をわずかに右に反らす。すると顔の前を何かがかすめ、前髪が数本宙に舞った。


「僕が直々に観測者としてスカウトした人材だな。さすがイノセント家の精鋭部隊を()()()()()()()()()()()()()の持ち主だね」

「お前に褒められても嬉しくないわ。あれから鍛え直すのがどれだけ大変だったことか……」

「手札は多い方がいいでしょ? (創造主)の計画を大いに引っ掻き回してもらいたいからね」

創造主(ワイズマン)の計画か……表向きはな。真の目的は別にある……じゃが、お前さんでは手が出せないんじゃろ? 世界の(ことわり)から外れた存在であるがゆえに……」

「あなたが動き始めたということは、その時は近いのですね……」


 紫雲と雪江の言葉を聞いた学園長は口元を釣り上げると怪しげな笑みを浮かべる。


「さすが闇の一族において天才と呼ばれた二人だね。答えを聞きたければどうしたらいいかわかるよね?」

「……」


 学園長が言い終えるのを待って静かに立ち上がり、腰を低くして構えを取る二人。


「話が早くて助かるね……久しぶりに力を開放して楽しめそうだよ」


 二人の様子を見た学園長は掛けていたメガネを外し、ジャケットの胸ポケットにしまった。


「さあ、始めようじゃないか! メインが来るまで楽しませていただこう!」



「あれ? じいちゃんたちがいない? 何だ、この魔力反応は……」


 自室で()()()()()()()()()()()()が異変を感じ取っていた。


 紫雲が指摘した真の目的と学園長の思惑とは……

 異変に気付いた冬夜はどう動くのか?


 事態は新たな局面を迎えようとしていた……

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