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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第六章 封印された魔科学

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第25話 新たに迫る魔の手

「さて……戻ってきたのはいいが、冬夜たちにどう説明しようかの?」


 自宅の玄関前に降り立った紫雲は、家の中から響く声に大きなため息をついた。


「冬夜くん、今までどこに行っていたの? 心配したんだよ!」

「出かけるなら一言言ってからにしなさい! 急に姿が見えなくなってどれだけ探したと……」

「ふむ、()()()()()()()()()()()()な! これは紫雲さんにも詳しく話を聞いて解明せねばならぬ!」

「みんなちょっと落ち着いてくれ……俺にも何がなんだか……全部じいちゃんに仕組まれていたみたいで……」


 家の中では冬夜が質問攻めにあっており、慌てふためく声が聞こえてきた。


「……ほとぼりが冷めるまで雲隠れしていたほうが身のためじゃな」

「あら? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 全身が凍りつくような声と殺気が背中に突き刺さり、ゆっくり振り返る紫雲。


「ば、ばあさん……帰ってくるのが早いんじゃないか?」

「あら? ()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「いや、そういうことでは……」


 滝のような汗を流しながらしどろもどろな回答を続ける紫雲。その時、家の中から叫びに似た冬夜の声が響いてきた。


「だから、俺にも何が起こったのかさっぱりわからないんだって! いきなり何もない灰色の空間に飛ばされて……じいちゃんに『試練だ』って襲われたかと思ったら、知らない女の人が戦いを挑んできて……」

「灰色の空間、女の人……おじいさん? まさか冬夜に何も言わないで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 冬夜の声を聴いた雪江の顔が笑顔になっていく。細められた目の奥は全く笑っておらず。冷ややかな視線を紫雲に向ける。


「な、何のことかさっぱりわからんのう? たしかに瑠璃さんと話したのは間違いないんじゃが……」

「何をそんなに怯えていらっしゃるのでしょうか? 別に瑠璃さんのところに行くことがダメと言った覚えはありませんよ?」

「そ、そうじゃよな? 大きく成長した冬夜の姿を見せてやりたいという親心で……」

「ええ、痛いほどその気持ちはわかりますよ。ですが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? メイさん、言乃花さん、怜士さんもいらっしゃいましたよね?」

「ええっと、それはじゃな……」


 蛇に睨まれた蛙のように固まる紫雲だが、家の方から聞こえてきた言葉がさらに追い打ちをかける。


「あー! こんなところにいたのかよ!」

「げ、冬夜……どうしたんじゃ?」

「どうしたもこうしたもないよ。みんなと話がかみ合わなくて困ってるんだ! お茶を飲んだ後にみんなが眠ってしまったと話しても誰も寝てないって……()()()()()()()()()()()()()っていうんだよ。弥乃さんに聞いても笑っているだけだし。それに飛ばされたときに起こったことを説明しようとしたけど記憶があやふやで……あの女の人はなんか懐かしいような気がするし……ねえ、あの人って誰なんだ?」


 家から飛び出してきた冬夜が困惑した様子で問いかける。その様子をじっと見つめていた雪江が音もなく紫雲の背後に寄ると、肩に右手を添えた。


「なるほど……()()()()()()()()()

「……」

「家の中で話しましょうか、おじいさん?」


 優しい笑みを浮かべる雪江に対し、石のように動かない紫雲。


「あ、ばあちゃん、おかえりなさい」

「ただいま、冬夜。私もおじいさんから聞きたいことがあるので、お茶を飲みながらゆっくり話しましょうか」

「うん、ところでレアさんたちの姿が見えないんだけど?」

「ちょっと疲れたみたいなので、公園で休んでいますよ」

「レアさんが疲れた?」


 雪江の発言を聞いた冬夜の背筋に冷たいものが流れる。


「冬夜、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から……」

「……わかった」


 固まっている紫雲の襟を掴み、引きずりながら歩いていく雪江。その様子をみた冬夜は小さな声で呟く。


「……ばあちゃんが一番強いんじゃないのか?」

「冬夜。弥乃さんに伝えてほしいのですが、台所の戸棚に少し前にいただいた紅茶があります。ちょっと珍しい茶葉を使用しているそうなので、準備してもらうように頼んでもらえませんか? それから応接室の片づけをお願いしますね」

「わかったよ。じゃあ、メイたちと協力して準備してくるね」


 冬夜が小走りで家の中に戻っていく様子を見届けると、紫雲へ話しかける雪江。


「いつまで狸寝入りを決め込んでいるのですか?」

「なんじゃ、バレておったのか」


 両手を頭の上に突き出し、全身を伸ばすようにのけぞる紫雲。


「まったく、一時はどうなることかと冷や冷やしたぞ」

「すべておじいさんが悪いんでしょ? 瑠璃さんのことを無理やり隠そうとしたりするからですよ」

「……()()()()()()()()()()()()()()()からじゃ。響の事も決着がついていない状態では、親子の溝がどんどん深まる危険がある」

「仕方ありません……あの子も一度言い出したら聞かないですからね。変なところばっかり誰に似たんだか」


 雪江がため息をつくと紫雲が食って掛かる。


「ちょっと待て。わしは頑固ではないぞ? 人の話を聞かないのはばあさんのほうじゃろうが!」

「誰が人の話を聞かないというのでしょうか? 無鉄砲に飛び出して問題ばかり起こすのはおじいさんのほうじゃありませんか」


 言い争いが始まりそうになった時、紫雲がおもむろに空を見上げた。


「白黒つけねばならんのじゃが……今はそんなのんきなことをして居られる状況でもなさそうじゃしな」

「そうですね……でも、お茶を楽しむ時間くらいはありそうですね」

「そうじゃな。冬夜も無事試練を乗り越えたことじゃし、ちょうどいい腕試しになりそうじゃ」

「レアさんやリズさんたちもいらっしゃいますし、私たちは傍観者(ウオッチャー)として見守りましょう」


 二人が見上げた先には雲一つない青空が広がっている。

 魔の手が静かに迫ってきていることなど冬夜たちは知る由もなかった……

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