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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第六章 封印された魔科学

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第18話 幕を開ける茶会(後編)

「師匠。お言葉ですが、()()()()()()()()()()()()()()()と思いますよ」

「なんの説明が必要なんじゃ? ワシは単刀直入に言っただけじゃぞ」

「完全に忘れていらっしゃいますね……私たちに『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と、おっしゃいましたよね?」


 弥乃の言葉を聞いた紫雲は腕を組み、目を閉じてうつむく。数十秒ほど考え込むと目を開き、思い出したかのように膝を叩いた。


「そうじゃった、そうじゃった! ばあさんが『きちんと説明するから先走るな』と言っておったわ」

「やはり忘れていましたか……何の説明もなしに『お前たちの未来は絶望しかない』と言われたらショックを受けますよ……」

「そう言われても嘘は言っておらんのじゃから問題ないじゃろ?」

「……師匠の目で皆さんの様子をよーく見られたらいかがですか?」


 笑ってごまかそうとしていた紫雲だが、周囲を見渡すと口を引きつらせ冷や汗を流し始める。湯呑に手をかけたまま硬直している芹澤、まっすぐ前を見つめて微動だにしない言乃花。口を開けたまま、真っ青な顔で固まる冬夜と必死に左腕を引っ張りながら今にも泣きだしそうな表情のメイ。


「師匠、()()()()()おつもりでしょうか?」

「さっきの話は冗談じゃ……で済ましてもらえん……よな?」

「無理ですよ、何度も言いましたよね? 雪江師匠が戻られるまではその話題には触れないようにと」

「し、仕方ないじゃろうが、不可抗力じゃ! まさか魔力の使い方であそこまで深く考えこむとは思っておらんかった。そもそも、お前たちが鍛錬するときに教えていればこんな事態にならなかったわけ……」


 座卓に手をかけて紫雲がまくし立てようとすると一筋の光が目前をかすめ、数本の前髪が宙を舞う。座卓には黄金色に輝く先端がとがった棒のようなものが突き刺さっていた。


「おじいさん、いい加減にしなさい! あれほど順を追って説明するから余計なことは言わないようにと釘を差しましたよね? 弥乃さん、本当にごめんなさい。私がきちんと言っておかなかったばかりに……」

「雪江師匠は何も悪くありません、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から……まさかレア先輩が挑んでくるとは想定外の事態でしたので」

「大丈夫ですよ、そのことも含めて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ところですから。おじいさん? 素直に自分の非を認めれば良いものを弟子のせいにしようとするとはどういう事でしょうか?」

「いや、これは、その……」

「弟子や孫の前で見苦しい……私が説明しますのでもう話さないでください!」

「だ、大丈夫じゃ! わしがちゃんとわかるように……」


 慌てて立ち上がろうとすると、黄金色の棒が紫雲を取り囲むように出現する。あっという間に先端が狭まっていき、まるで鳥籠のような形に姿を変えた。


「な、なんじゃこれは! ワシは鳥じゃなくて人間じゃぞ!」

「しばらくの間、大人しくしていなさい。力ずくで逃げ出そうとしても無駄です。心配しなくても後でちゃんと出してあげますから」

「今すぐ出さんか! まだお土産のお菓子を一つしか食べておらんのじゃ!」


 枠の棒にしがみつきながら大声で喚き散らす紫雲。


「……あまりにもうるさいので仕方ありません。あまり使いたくない手ですが……」


 雪江の呆れた声がした直後、室内に響き渡っていた声が一切聞こえなくなった。籠に閉じ込められた紫雲は身振り手振りで何かを訴えかけている。


「え? じいちゃんが閉じ込められてる? いったい何が起こったんだ?」


 黄金色に輝く籠の中で大暴れしている紫雲に驚いて我に返る冬夜。


「冬夜くん、大丈夫? 急に口を開けたまま動かなくなるから心配したんだよ」

「ああ、もう大丈夫……だと思う。ところで、じいちゃんは何をしているんだ?」


 冬夜が困惑していると対面に座る言乃花が落ち着いた様子でお茶を飲むと、静かに話し始める。


「紫雲さんが暴走しそうになったから、雪江さんが止めてくれたのよ。話が進まないから少し閉じ込めておくんですって」

「じいちゃん、またやったのか……ばあちゃんを怒らせるとほんとに怖いからな……」


 言乃花の話を聞いた冬夜は遠くを見つめるように目を細める。


「もう話しても大丈夫でしょうか? 冬夜、メイさん、言乃花さん、玲士くん、驚かせてごめんなさいね。まだ戻れませんので、重要なところだけ説明させて頂きますね」


 再び雪江の声が室内に響き、五人は背筋を伸ばす。


「魔力は体力と似ていると紫雲から話があったと思います。魔力も無限に使えるわけではなく、乱発すれば当然無くなります。しかし、妖精たちとの戦いが激化すると()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はい……恥ずかしながらヤツラに対抗するためには避けて通れないと思っております」


 過去の苦い経験を思い出し、悔しさに耐えるように唇を噛む玲士。


「魔力量がずば抜けて多い玲士くんでも無理を強いられるような相手です。そんな状況の中、無理を重ねてしまえば……どんな結果が待ち受けているか一目瞭然ですよね?」


 雪江の言葉が重くのしかかり、頷くことしかできない四人。


「話を続けます。大技を使わないと勝てない相手に対し、無理をせずに魔法を使わなければなりません。さて、あなたならどうされますか、言乃花さん?」


 質問を向けられた言乃花はうつむくと考えを巡らせる。すぐに顔を上げるととハッキリとした口調で答えた。


「正解かどうかはわかりませんが……『魔力量を増やしつつ同時に精度を高め、無駄な魔力を消費させないようにする』という事でしょうか?」

「さすがですね、よく勉強されていらっしゃいます。魔力量は鍛錬によって増やすことが可能ですが、精密な制御ができなくては意味がありません……ましてや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()です」


 雪江の鋭い指摘が四人に突き刺さり、重苦しい空気が流れ始めると音声が乱れ始めた。


「……この言葉の意味はいずれわかる日が来るでしょう。冬夜……今から何が起ころうとも……感情に流されてはいけません。力の使い方を間違えれば……すべてを失う……」

「ばあちゃん、全然聞き取れないよ……いったい何の話をしているんだ?」

「……試練を……乗り越え……」

「試練って何のことだよ! ちゃんと説明してくれ!」


 勢いよく立ち上がると天井を向いて必死に訴えかける冬夜。しかし、二度と雪江の声が聞こえることはなかった。


「全くばあさんは話が長いからのう……冬夜、()()()()()()()()()()?」


 慌てて声が聞こえた方を見ると鳥籠のように取り囲んでいた柵は消え、何事も無かったかのようにお茶を飲んでいる紫雲。

 悪夢ともいえる時間が冬夜へと差し迫っていた……

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