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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第六章 封印された魔科学

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第15話 明かされる魔科学の闇

 不敵な笑みを浮かべる紫雲に対し、蛇に睨まれたカエルのように硬直して動けない玲士。まるで二人だけが別次元に飛ばされたかのように、張りつめた空気が支配する。すると一筋の風が二人の間を流れ、均衡が破られた。


「はっはっは、やめじゃ、やめ!」

「は?」


 わざとらしく声を上げて笑う紫雲に対し、目を見開き口を大きく開けて驚く玲士。


「なんじゃ? 聞こえなかったかのう? 玲士くん、()()()()()()()()()()と損するぞ?」

「いや、いったい何をおっしゃられているのかさっぱりわからないのですが……」

「合流してからずっと見ておったが、だいぶ煮詰まっているような顔じゃったからな。まだ若いのにいろいろと考えすぎじゃな」

「見抜かれていましたか……」

「ワシを誰だと思っておる? うまく隠しておるつもりかもしれんが……バレバレじゃぞ。()()()()()()()()()()()()


 先ほどまでの含みのある表情とは打って変わった優しい笑みを浮かべ、温かい視線を送る紫雲。観念したかのように大きく息を吐くとゆっくり地面へ腰を下ろす玲士。


「おっしゃる通りです。情けないお話ですが、あと一歩のところまでは来ているはずなんです。しかし、思うような結果が出ず足踏み状態が続いていまして……」

「そんなことじゃろうと思ったわ。翔太朗からも聞いておったぞ、『玲士が最近かなり焦っているからどうしたらよいか』と……」

「えっ……父がそんなことを言っていたのですか?」

「そうじゃ、ずいぶん心配しておったぞ……自分が余計なことを頼んだばっかりに玲士の青春を潰してしまったのではないかと……な」


 呆然とした様子で話を聞く玲士を横目に話し続ける。


「アイツもずいぶん父親らしくなったもんじゃ。昔から興味を持ったことができると周りの人間を振り回すわ、あげくには自分の危険すら顧みずに鉄砲玉のように飛び出して行くわ、とんでもない奴じゃったからな」

「そうだったんですか? 忙しいことは知っていましたが、そんな一面は見たことがなかったので……」

「……本当にそっくりな親子じゃ。お互いに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……とかな」


 玲士から目を離し、天を仰ぐように顔を上に向けると目を細める紫雲。ゆっくり視線を戻すと真剣な眼差しで語り始める。


「玲士くん、先の短い年寄りの戯言と思って聞き流してくれてもかまわん……一つだけ伝えておかねばならぬことがある」

「伝えておかねばならぬこと……ですか?」

「君が研究を進めている魔科学についてじゃ。アレ(魔科学)は人の手で扱うには過ぎた代物、ましてや()()()()()()()()()()()()()()()であろう」

「は? それは一体どういうことですか?」

「やはり知らなかったか。まあ……無理もない、今から話すことはどの文献にも残されてはおらん」


 肩をすくめながら小さくため息をつく紫雲。衝撃の言葉に勢いよく立ち上がり、眼鏡がずり落ちかけている玲士のことを気に止める様子もなく話を続ける。


「はるか古の時代、魔力を持たぬ人間が魔法の恩恵を受けるために確立しようとした技術が魔科学じゃ。開発は順調に進んでおるように思われとった……が、実用段階まで来たところで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それ故に厳重な封印を施され、記録は全て闇に葬られた……というのが玲士くんも知っている話じゃな?」

「その通りです……実用化ができれば魔力の有無にかかわらず、魔法の恩恵が受けられる夢の技術であると聞いております。ただ……使用者にも莫大な負担がかかるとともに誤った使い方をすれば命を落とすこ可能性も……」


 真剣な表情で語る玲士を見ると深く頷く紫雲。


「良い点ばかりに着目せず、きちんと危険性を理解しているのは研究を進めるうえで重要な事じゃ」

「ありがとうございます」

「研究自体は順調に見えとった……だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。材料を変え、手順を入れ替えても同じところで躓いて袋小路になっているのではないかな?」

「……おっしゃる通りです。どんな調整をしても科学と魔法の融合がうまくいかず、お互いのメリットを最大に生かせないのです。やっとの思いで完成した対クロノス用懐中時計も本来の仕様からは程遠い性能しか……」

「何のヒントも無く、自分の力だけで完成させたのはさすが玲士くんじゃ」


 腕を組み何度も頷く紫雲に対し、うつむきながら悔しそうな表情を浮かべる玲士。


「お褒め頂けたことは光栄ですが、こうして悩んでいる間も妖精たちの襲撃は激化する一方です……レイスが暴走するとわかっていながら止められなかったのは私の責任です」

「気に病む必要はないぞ。レイスくんの件についてはいずれ起こることがわかりきっておった。それにここまで問題がこじれたのはシリルのバカタレが原因じゃ」

「しかし、自分が早く完成させていれば……」

「いい加減にせんか! 自分を責めたところで何も解決はせん。それよりも未来へ目を向けるべきじゃ。仕方がない……ワシがヒントを与えてやろう」

「ヒント……ですか?」


 紫雲の言葉に対し、顔を上げると怪訝な表情で聞き返す。


()()()()()()()()()()()()()()()()()、君のすぐそばにいる」

「三人……ですか?」

「響……いや、バカ息子や妖精たちが血眼になって探し求めている『虚空記録層(アカシックレコード)』の()()()()()()()()()()()になるじゃろう」

「虚空記録層の封印を解く最後のカギ? その人物がすぐそばにいる?」

「古より伝わる言葉がある……『陰と陽が交わる時、虚空記録層が顕現する。良き者が使えば世界は再び輝きを取り戻し、悪しき者の手に渡れば世界は破滅の道へ向かう。鍵となるのは……』」

「じいちゃん、副会長! どこにいますか? いたら返事してください!」


 紫雲が語る言葉を一言たりとも聞き逃すまいと玲士が真剣に耳を傾けていると、大声で二人を呼ぶ冬夜の声が聞こえてきた。


「公園におるぞ! どうしたんじゃ、冬夜?」

「弥乃さんがもうすぐお茶の準備ができるから呼んできてくれって」

「そうか。それでは玲士くん、この話の続きは今度にしようかの。あまり根を詰めて考えてもよいことはないぞ」

「……わかりました、貴重なお話ありがとうございました」


 肝心なことを聞けず、モヤモヤする気持ちを見せまいと必死に笑顔を作る玲士。そんな様子を見透かしたようにすれ違いざまに問いかける紫雲。


「……君は()()()()()()()()()()()()()()()()のじゃ?」

「それはどういう意味でしょうか?」

「一つ忠告しておいてやろう。興味本位なら今すぐ手を引くことじゃ、アレは人知を超えた技術……そうか、学園長はすでに視ておったのか……」

「は? 学園長が何か知っているのですか?」

「いずれわかる時が来る……アヤツ(学園長)は根本的な存在が違う……すまんな、冬夜。今から行くぞ」


 意味深な言葉を言い残し、冬夜のもとに歩き始める紫雲と呆然と立ち尽くす玲士。


(最後のカギとなる人物が三人? 学園長には何が視えているんだ?)


 慌てて振り向くが既に紫雲の姿はなく、不思議そうな顔をした冬夜と目が合った。


「副会長、どうされたんですか? 家までご案内しますから一緒に行きましょう!」

「ああ、すぐに行くぞ」


 疑念を振り払うように頭を左右に振り、冬夜とともに歩みを進める玲士。


 紫雲の質問と忠告には何の意図があるのか?

 最後のカギとなる人物とは……

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