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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第六章 封印された魔科学

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第14話 雪江の雷と二人の思惑

「そこまで!」


 声の聞こえた入り口付近へ目を向けると、優しい顔で二人を見つめる雪江の姿があった。


「げっ……雪江師匠? は、はやく逃げないと……」

「リズさん? ずいぶん顔色が悪いようですが、どうかなさいましたか?」

「いえ、病み上がりなのでちょっと疲れちゃったかな……って思いまして……」

「そうですか。もう一度病院でゆっくり静養された方がよろしいのではないですか?」


 流れ落ちる汗が止まらず、どんどん血の気が引いて青い顔になっていくリズ。一方の雪江は笑顔を浮かべているが、徐々に黒いオーラが全身を包み始めている。


「し、師匠……どんどん魔力があふれ出しているのは気のせいでしょうか?」

「あら? 魔力を開放した覚えはありませんから気のせいでしょう。それよりも、あなたにはいろいろ聞きたいことがありますから」

「な、なんでしょうか? 私は決して師匠にやましいことなど……」

「そうですか? 風の噂で聞いた話ですが、ずいぶん前に目を覚ましていたそうじゃありませんか? それに隠密行動の修行だなどと言っては病院を頻繁に脱走していたり、レイスくんの前ではわざと寝たふりをしていたとか……」

「な、なんでそのことを……あっ、ヤバい!」

「時間はたーっぷりありますから、ゆっくりお聞きしましょうか。そこの二人にも聞きたいことがありますからね」


 雪江が視線を動かした先にいたのは地面に正座し、項垂れる健太郎とレア。


「お、お父様! なぜここにいるのですか? 道場は大丈夫なのですか?」

「心配するな、言乃花。ワシがいなくてもちゃんと大丈夫な体制を構築してある!」


 言乃花の声を聞いた健太郎が凛とした様子で答えるが、隣に正座していたレアからツッコミが入る。


「正座させられている状態で見栄を張ってもね……」

「何を言うか! 師範たるものいつ何時も隙を見せてはならぬと教わったであろう」

「はいはい。娘の前だし、そういう事にしておいてあげるわよ」

「なんだと? 先輩と言えど聞き捨てならない……長きにわたる勝負に白黒つける時が来たようだ!」

「望むところよ! 大口をたたくのは私に完勝してからにしなさい!」


 互いに火花を散らし、睨みあう二人。一触即発の雰囲気が漂い始めたところで雷が落ちる。


「いい加減にしなさい! 自分が置かれている状況がわかっていないようですね?」


 雪江が睨みを利かせると即座に俯き、黙り込む二人。その様子に大きなため息を吐くと、一転して穏やかな笑顔でリズと言乃花の拘束を解き話しかける。


「言乃花さん、第一の試練を見事乗り越えられましたね。状況に応じた的確な判断、機転の利かせ方はお見事です」

「ありがとうございます」

「全体的に粗削りなところはありますが、現時点では心配ありません。詳細なアドバイスをしたいところですが、早急に()()()()()()()をしなければいけませんので……」

「あの……もしよければ今後のために一緒にお話を聞かせてもらえないでしょうか?」


 真剣な眼差しで申し出た言乃花に、雪江は口元に手を当てると困った様子で答える。


「それは……申し出は嬉しいのですが、今はゆっくり休んでいただきたいですし、家で弥乃さんが皆さんの到着を待っていますので。紫雲もお菓子を楽しみにしていますし、後ほど個別にお話をさせていただくというのはどうでしょうか?」

「お母様が来ているのですか? 承知しました。ところで冬夜くんたちの姿が見えないのですが……」

「この空間は()()()()の中です。冬夜たちなら反対側の入口から出たところにあるベンチで待っていますよ」

(さ、三重結界……そんなものをやすやすと張ってしまう雪江さんっていったい何者なの……)


 雪江に告げられた事実に口を丸くして固まってしまう言乃花。


「言乃花さん、大丈夫ですか? 体調がすぐれないのであれば入口までお送りしましょうか?」

「……あ、いえ、大丈夫です。それではお先に失礼いたします」


 我に返った言乃花が慌てて雪江に深々と一礼し、小走りで出口へ向かう。空間に溶けこむように姿が消えたのを確認するとゆっくりと向き直る雪江。


「さて、リズさん、健太郎さん、レアさん。あなた方に依頼した内容は覚えていらっしゃいますか?」

「「「……」」」


 地面に並んで正座している三人に問いかける雪江。表情は先ほどと変わらぬ笑顔をしているが、目は全く笑っておらず、あまりの威圧感に俯いて黙り込む三人。


「誰も答えられないとは情けない……そんなに体を動かしたいのであれば私がお相手してあげましょう」


 雪江の言葉を聞いた健太郎が慌てて顔を上げると弁明を始める。


「いや、師匠の手を煩わせるわけにはいきません! 我が娘の成長を見守る予定でしたが、レア先輩の誘いを断るわけには……」

「ちょっと健太郎! 手招きして誘ってきたのはそっちでしょ! それにリズが戦うって衣装を奪って行ったことが事の発端だし!」

「無理やりでも奪わなければ試練の相手をやらしてくれないじゃん! 目が覚めてからどれだけ経ったと思っているの? レイスが頻繁にお見舞いに来るからって病院に押し込んだのはレアでしょ! 私だって我慢の限界よ」


 健太郎の暴露で口火を切った口論はどんどんヒートアップしていく。


「いい加減にしなさい! よほど大きなお灸を据える必要があるみたいですね?」

「「「し、師匠……」」」

「ここは私が張った結界内……多少のことであれば壊れることはありません。さあ、はじめますよ?」

「「「師匠、お許しください!」」」


 三人の悲痛な叫びが外に漏れることはなく、妙にすっきりした顔をした雪江とボロ雑巾のようになった三人が帰宅したのは夕方のことだった。



「言乃花、無事だったか?」

「言乃花さん、大丈夫ですか?」

「ありがとう。ちょっと苦戦したけれど無事戻ってきたわ」


 結界から出るとすぐに冬夜とメイが心配そうな顔で駆け寄ってきた。二人の顔を見た言乃花は安堵した表情を浮かべる。すると近くのベンチに座っていた紫雲が声をかけてきた。


「その様子じゃと見事乗り越えたようじゃな?」

「はい、さすがに一筋縄ではいきませんでしたが……自分を見つめなおす良い機会になりました」

「そうかそうか。はて、ばあさんの姿が一緒ではないところを見ると……これは長引きそうじゃな」


 満足そうな笑みを浮かべ、納得したようにうなずくとゆっくり立ち上がる紫雲。


「さてと、用事もすんだ事じゃし家に向かうとするかの」

「じいちゃん、ばあちゃんとレアさんがいないけどいいのか?」

「大丈夫じゃ、ちょっと込み入った話をしているんじゃろう。そうじゃ、ばあさんに一言声をかけていくから先に家に行ってくれんか? 弥乃さんがおるはずじゃからな」

「え? 弥乃さんがいるの?」

「ああ、ばあさんがお茶の用意を頼んでいたからのう。案内を頼んだぞ」

「うん、わかった。メイ、言乃花、案内するよ。副会長も行きませんか?」


 紫雲の隣に立ち、腕を組んでいた芹澤に冬夜が声をかける。


「ああ、一緒に行きたいのだが紫雲さんに聞きたいことがあってな。すまないが、ちょっと二人にしてもらえないだろうか?」

「あ、はい……わかりました」


 返答を聞くと二人を連れて公園から出ていく冬夜。三人の姿が見えなくなると芹澤が真剣な眼差しになり、紫雲へ問いかける。


「紫雲さん、一つお聞きしたいことがございます。この結界は通常の魔力構成で張られた物ではありませんね?」

「なんじゃ、もう気が付いたのか?」

「この構造式、魔力、強度……どれをとっても人間がなしえる領域をはるかに超えている……紫雲さん、あなた方は何を企んでいるんですか?」


 芹澤の指摘を聞いた紫雲は少し考えるように俯くがすぐに顔をあげる。


「くっくっく……幼い頃より神童と呼ばれていた玲士くんだ……答えを聞きたければ()()()()()()()()わかっているじゃろう?」


 不気味に笑いながら振り向いた紫雲の表情からは先ほどまでの優しさは消え去り、口角が吊り上がって黒い笑みが浮かんでいる。


 はたして紫雲と雪江は何を企んでいるのか?

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