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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第六章 封印された魔科学

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第12話 謎の人物と言乃花の試練(後編)

 露わになった女性の顔を見た言乃花は凍りついた。


「あら? どうかしたの? まるで幽霊でも見たような顔ね……」

「な、どうしてここ(公園)にいるんですか?」

「どうしてって言われても……そんなに驚くようなことかしら?」


 小刻みに震え出す体を押さえるように腕を組んだ言乃花が必死に言葉を絞り出す。


「ありえない……五年前の事故で()()()()()()()()()()()()()んじゃなかったのですか? リズさん!」


 仮面が割れ、正体が明らかになった女性はレイスの母、リズ・イノセントだった。レイスと似た背丈に同じ青い細目、首のあたりでまとめられた透き通るような白髪。真っ白な着物を纏うその立ち姿からは神秘的な雰囲気が漂っていた。


「なんだ、そんなことを気にしていたのね」

「そんなことじゃないですよ! いつ意識が……いえ、今までどこに?」


 言乃花の指摘に、眉間にしわを寄せて両手を組むと少し困った表情を浮かべるリズ。


「うーん、ちょっとその質問に答えるのは難しいかな? そうね、ヒントならあげられるわよ」

「ヒント……ですか?」

「そう、隠密行動で大切なこと……味方すら欺かなければいけないってことよ!」


 言い終えた途端にリズの姿が揺らぎ、視界から消える。


(は、早い……いったいどこに?)


 必死に周囲を見回すが姿をとらえることができない。


「ほらほら、よそ見をしている暇なんてないわよ?」


 声が聞こえるより一瞬早く、無防備な背中を蹴り飛ばされた。咄嗟に受け身を取るが、その威力はすさまじく数メートル先にある立木の幹に打ち付けられる言乃花。そのまま地面に倒れこみ、息を整えながらゆっくりと立ち上がるとリズを睨みつける。


「そんな顔をしないでほしいわ、久しぶりの再会なのに」

「……いくつか質問してもよろしいでしょうか?」


 言乃花の言葉を聞いたリズの目がさらに細くなり、口元がわずかに吊り上がる。


「ふーん、もう何かを掴んだようね?」

「ええ、この空間はリズさんが張られた結界内という事で間違いないでしょうか?」

「その通りよ。ここから外に出るには私を倒すか自力で結界を破壊するかの二択しかないわね」

「やはりそうですか。では、最初におっしゃったように魔法は使えないという認識で間違いありませんね?」

「ええ、()()()()()使()()()()わ。だから、あなたに残された選択肢は体術と知力で私を上回ってみせることね」

「わかりました……ですが、()()()()()()が起これば話は別ということですね?」

「何を言いたいのかよくわからないけど、万が一にもイレギュラーなんて起こらないわよ」

「そうですね、あなたの計画が完璧であればそんなことは起こらないでしょう……ですが、何の策もなしに私が二度も同じ位置に吹き飛ばされたと思いますか?」


 その一言を聞いたリズの表情が曇ったかと思うといきなり天を仰ぐように顔を上げ、笑い出した。


「アハハ! もうばれちゃったのね! 言乃花ちゃん、いつから気が付いていたのかしら?」

「二回目に吹き飛ばされる直前に気が付きましたよ、リズさんに影がないことに!」


 言乃花が指差した先の地面にリズの影は見当たらない。周囲の立木や遊具にはハッキリとした影があるにもかかわらず……


「あなたは本体じゃない。じゃあ、どこにいるのか……姿を現してもらいましょう、永劫の斬風洞(トゥリアス・ウインド)


 言乃花の右手から緑色の矢が公園に設置されたブランコに向けて放たれた。すると何もないはずの空間から水色の矢が出現してぶつかると大爆発が起こり、何かが砕け散る音とともに土煙が巻き起こる。



「あーあ、もうばれちゃったのね! レアに頼んでた機械も大したことないわね」


 土煙の中から女性の声が聞こえ、こちらに向かって歩いてくる人影がうっすらと浮かび上がる。


「こんなに早く見抜かれるのはちょっと予想外だったわ」

「いつも言っておられましたよね? 騙すなら味方から騙せと……改めてお久しぶりです、リズさん」


 現れたのは先ほどと同じ真っ白な着物を着たリズ・イノセントだった。言乃花から三メートルほど離れた位置まで来ると楽しそうな笑顔を浮かべて立ち止まる。


「ここまで成長しているとは思わなかったわ。聞いてもいいかしら? どうやって私の影を見破ったのか」

「わずかな違いですが、分身のほうが少し前髪が長かったので……」


 言乃花の指摘を受け、前髪に触れると再び笑い声をあげるリズ。


「仮面を断ち切られたときに切れていたのね! 全く気が付かなかったわ」

「確信に変わったのは影がなかったことですね、あとブランコの後ろに不自然な影がありましたので」

「完全に私の大失態じゃない……入院していたせいで腕が鈍ったわね」


 悔しそうな表情を浮かべるリズだったが、頬を両手で叩くと真剣な眼差しで言乃花に視線を向ける。


「さてと、課された試練はクリアしたんだけど……()()()()()()()()()()()()?」

「物足りない……ですか?」


 言乃花が聞き返すと口元を吊り上げ、影のように暗い笑みを浮かべる。


「意識が戻ってからは、レアとシリルから何かあったらいけないからって組手とかは禁止されていたのよ。ということで結界はまだ崩れてないし、思いっきり模擬戦をやってみない?」

「……病み上がりに大丈夫でしょうか?」

「大丈夫よ、ちょこっとだけだから。言乃花ちゃんも久しぶりに全力を出してみたくない? 知っているわよ、レイスのバカが暴走ばっかするからいざという時のためにセーブしているでしょ」

「……迷宮図書館の件といいどこから情報が洩れているのでしょうか?」


 イタズラっ子のような笑みを浮かべて煽るリズに対し、怪訝な表情で聞き返す言乃花。


「そうね、私から一本取れたら教えてあげてもいいけど?」

「言いましたね? 昔のように簡単にはやられませんよ」

「ふふふ、そう来なくっちゃ面白くないわ。もう魔法も思いっきり使えるはずだから遠慮しなくていいのよ?」

「それではお言葉に甘えて……」


 言乃花が構えると真っすぐ空に向かって緑色のオーラが立ち上り、リズが満足げな笑みを浮かべる。


「久々に本気でやらないといけないみたいね」


 リズも同じように構えをとると水色のオーラが立ち上る。


「「いざ、勝負!」」


 二人の声が合わさると、ほぼ同時に相手に向かって駆け出した。

 言乃花とリズの勝負の行方は?

 まさかの結末が近づいてきているとは二人が知る由もなかった……

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