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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第六章 封印された魔科学

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第11話 謎の人物と言乃花の試練(中編)

「何を戸惑っているのでしょうか……ただ魔法が使えないだけですよ?」

「そうですね……体術であなたを倒せばいいだけです!」

「ふふふ、素晴らしい回答です。さあ、私をがっかりさせないでください」


 一瞬狼狽えた言乃花だが、すぐに首を振ると水色オーラを纏う女性を睨みつける。一方、面を被っているために表情は読み取ることができないが、声色から言乃花の返答に女性が満足している様子が伺える。


「おしゃべりはこのくらいにしておきましょうか、残された時間も多くありませんから」

「え? 残された時間?」


 女性の言葉を聞いた言乃花が思わず聞き返してしまい、一瞬の隙が生まれてしまった。


「やはり引っ掛かりましたね……」

「しまった!」


 ほんの数秒のことだったが、格上と思われる相手に時間を与えてしまったのは命とりだった。慌てて構えを取ろうとした時にはすでに懐に潜り込まれており、女性の突き出した両手から言乃花の腹部に一撃が入る。そのままなすすべもなく吹き飛ばされ、街路樹へ叩きつけられた。


「かはっ……」


 幹から軋むような音が響き、木の葉が言乃花に降りかかる。肺の空気が全て絞り出されるような衝撃にうまく息ができず、もたれ掛かるように地面へ座り込んだ。


「ずいぶん呆気ないですね……その程度の実力で私に挑もうとしていたとは舐められたものです」

「い、今のは不意を突かれただけです……勝負はまだ始まったばかりです!」


 荒くなる呼吸をすぐさま整えて幹を支えに立ち上がり、女性に鋭い視線を送る。


「あら、強がらなくてもいいのですよ、あなたでは私に勝つことなど不可能ですから」

「まだ……まだです! 私は負けません……こんなところで負けていられません!」

「ならば己に打ち勝ち、私を越えて……」

「この瞬間を待っていたのです!」


 話しながら女性が何気なく視線を外した瞬間を言乃花は見逃さなかった。満身創痍のように見えた姿が揺らぐ。


「消え……た? いえ、そんなことがあるはずが……」

「よそ見していてよろしいのですか?」

「ま、まさか?」


 背後からの声に女性が慌てて振り返りながら咄嗟に左手を振り抜く。しかし、そこに言乃花の姿はすでになく、虚しく空を切った。


「残念ながら……ハズレです」


 再び言乃花の声が聞こえた瞬間、女性のみぞおちに鈍い音が響く。そのまま体をくの字に曲げながら空へ打ち上げられた。


「……背中ががら空きですよ!」


 さらに宙を舞う女性の背後に言乃花が現れ、そのまま踏みつけるように地面に向かって蹴り飛ばす。女性はそのまま地面へ叩きつけられ、あたり一帯に土煙が舞いあがった。その中にゆっくり降り立つと、煙の中に視線を送る言乃花。


「間違いなく手ごたえあり……ですが、()()()()でやられてくれるほど優しくありませんよね?」

「もうばれてしまいましたか……もう少しは時間が稼げるかと思ったのですが……」

「魔法を封じる結界を張れるほどの実力者がこの程度で倒れるとは思いません。そのふざけた狐のお面を剥いで正体を露わにさせるまでです」

「それは怖いですね……できるものならやって見せてもらいましょうか?」

「望むところです! どなたか存じ上げませんが、一泡吹かせないと気がすみませんから!」

「いいですね、その意気込みを待っていたのですよ!」


 言い終えると同時に地面を蹴り飛ばし、公園の中央付近でお互い握りしめた拳をぶつけあう二人。


「考えることは一緒だったようですね。あと一歩、踏み込みが遅かったら間違いなく仮面は砕け散っていたでしょう」

「あなたほどの実力者が読み切れないとは思っていません」


 言乃花は言い終えると拳をわずかにずらし、前に倒れこむ。その勢いを利用して地面に両手をつくと右足を振り下ろす。すると女性はその動きに合わせるかのように地面に伏せて前転するように躱し、素早く立ち上がると着物に付いた土ぼこりを払う。


「少し危なかったですね……タイミングがあと少し遅かったらかかと落としの餌食になっていたでしょう」

「あと一歩届かなかった……ですか」

「始めた時に比べると動きが別人のようになってきました。しかし、私を倒すにはまだ足りていませんね」


 二歩分ほど離れ、お互いに背向かいのまま話す二人。すると言乃花が目を閉じて俯き加減になりながら小さなため息をつく。


「そうですね、正攻法で立ち向かえば間違いなく敵わない……ですが、お手本となる相手がすぐ身近にいたことを忘れていました、()()()()()()()()()という人物を」

「彼は相手を欺いて戦うことに長けています……が、何の関係があるのでしょう?」

「私の課題は正攻法で格上の相手にも挑んでしまうこと……それではわずかな勝機すら見逃してしまいます」

「ご自身の課題がわかっていることは良いことです。しかし、今までの戦いは真正面からぶつかってきていましたよね?」

「ええ、真正面からぶつかているように見せていました。ですが、もう目的は達成しましたから」


 言葉を聞いた女性が何かに気付いたように慌てて振り返る。


「いない……しまった!」

「一か八かでしたが……これで終わりです!」


 言乃花の言葉が聞こえた時には一筋の光が女性の視界に映り、左右の視界が少しずつずれ始める。


「宣言通り仮面を割らせていただきました。さあ、正体を明かしてもらいましょう!」


 仮面が落下すると乾いた音が響く。覆っていた両手を下げ、女性の正体が明らかになる。そして、ゆっくり振り返った言乃花の表情が凍り付いた。


「え……まさか……あなたが()()()()()()()んですか?」

「ひさしぶりね、言乃花ちゃん。少し見ない間に見違えるように大きくなったわね」


 仮面の下に隠された素顔と言乃花が凍り付いた理由とは?

 女性の正体とはいったい……

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