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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第六章 封印された魔科学

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第10話 謎の人物と言乃花の試練(前編)

「言乃花ちゃん、ちょっと待って」


 公園前の十字路に差し掛かった時、先を行くレアが突然振り返った。


「レアさん、急にどうされたんですか?」

「どんな相手かわからないのに何の策も立てないで挑むのは危険すぎるわ。まず私が正面から攻撃を仕掛けて気を引くからその隙に反対側の入り口から侵入してほしいの」

「わかりました……ですが、レアさん。そこまで警戒するような相手でしょうか? 私が感じ取れる魔力は大きくないですよ」

「そうね、言いたいことはよくわかるわ。でも、何か違和感を感じない? 私たちが近づいているのにも関わらず相手が動いた様子はないわよ」


 レアの言葉を聞いた言乃花が大きく目を見開く。


「気が付いた? 師匠をはじめ、複数人がいるという状況がわかっていながらわざわざ公園で待ち構えている相手よ。よほど手練れた人間で間違いないでしょうね」

「それならばなおさら二人で力を合わせて……」

「落ち着きなさい! 相手の()()()()()もわからない以上、万が一を考えることが重要よ。わかったかしら?」

「……はい」


 強い口調に圧倒される言乃花に、軽く頷くと再び公園の入り口に視線を送るレア。


「じゃあ、言乃花ちゃんは左側の道沿いに進んで行ってね。突き当りを右に曲がると反対側の入り口があるわ。街路樹が公園の外周に沿って植えてあるから身を隠せるはずよ。自分がいけると思うタイミングを見て加勢してね」

「わかりました……レアさんも無理をなさらないで下さい」

「え? 私なら心配ないわよ。響とのじゃれ合いでは物足りなかったし、久しぶりに思いっきり大暴れできそうじゃない?」

(響さんとの戦いがじゃれ合い程度……? この人が本気で戦える相手って……)


 レアの言葉に息を呑む言乃花。


「あら? どうしたのかしら? じゃあ、作戦通りに仕掛けるわよ!」

「はい!」


 奥に向かって走り出した言乃花を見送ると不敵な笑みを浮かべるレア。


「ふふふ……彼女には試練を乗り越えてもらわなくちゃいけないからね。その間、久しぶりに私も楽しませてもらおうかしら?」


 ゆっくりとした足取りで入口に付いたレアは中心にいる人物へ合図を送り、両手を体の前に突き出した。


「さてと、結界は強力なものを張っておかないとね。被害が出ては困るし……私の結界が壊れるのが先か、言乃花ちゃんが覚醒するのが先か……それじゃあ、ちょっと遊んでもらいましょうか」


 不敵な笑みを浮かべたまま公園に入っていくレア。すると中央から、狐の面に真っ白な胴着と袴を身に着けた男性が近づいてきた。


「「いざ、尋常に……勝負!」」


 二人の声が重なると公園内に虹色と緑色の閃光が走った。



 一方レアと別れ、公園の反対側の入り口に到着した言乃花。入り口から道に沿うように植栽と立木が植えられており、警戒しながらそこに身を隠して中の様子を覗うとすぐに異変に気が付いた。


「うそ……レアさんがいない? それに二人いるって聞いていたのに一人しか……そんなはずないわ。それほど大きな公園じゃないし、見落とすことなんてないはずよ」


 ブランコや滑り台などの遊具が設置されている公園は反対側の入り口まで二十メートルほどしかない。それなのにレアの姿がどこにも見当たらない。


「いったいレアさんはどこに行ったの? それに相手はまだ私に気が付いて……」

「木の陰に隠れてどうされたのでしょうか?」


 警戒を緩めようとしたとき、背後から聞きなれない声が響く。慌てて振り返ると真っ白な着物に身を包み、狐のお面を着けた女性が立っていた。


「な……いつの間に……」


 木の陰から飛び出し、女性から距離をとる言乃花。


「おや、どうされたのでしょうか? こちらを木の陰から覗かれていたので何かお困りごとがあるのかと思い、声をかけさせていただきましたが?」

「そうですか……奇妙な狐のお面を外していただけるとこちらも警戒心が和らぎますよ」

「ふふふ、それは無理な相談というものです。上手く隠れたつもりでしょうが、侵入もバレバレでしたよ……隠密行動をするのであれば気配と魔力は消して行動せねばなりませんね」


 女性が言葉を言い終えると同時に姿が揺らぐ。


(え、消えた? どこに? ま、まさか……)


 嫌な予感がした言乃花がとっさに身を屈めると頭の上で空気を切る音が聞こえた。


「お見事ですね、私の手刀を躱すとは……」

「わずかですが……風に乱れを感じましたから」

「なるほど……私もまだまだなようですね。ですが、同じ過ちは犯しませんよ」


 女性が言い終えると再び姿が揺らぎ、言乃花の視界から完全に消える。


(また気配が消えた? どれだけ上手く姿を隠しても、動けば必ず周囲の風に乱れが起こるはず……)


 言乃花の立てた仮説は間違いではない。人が移動すればどれだけ気を付けたとしても、空気中にわずかな微振動が生じる。風の魔力を主とする彼女だからこそ見逃すことはないはずだった……


「ずいぶん余裕のようですが……もう少し周りを見た方が良いですよ?」

「えっ……」


 言乃花が気付いた時はすでに遅かった。みぞおちに鈍い衝撃が走り、そのまま背後に数メートルほど吹き飛ばされる。


「ゲホッ……な、なんで……感じなかったの?」


 風魔法においては常にトップであり、そのための鍛錬も欠かさず行ってきた言乃花。決しておごることなく、自らにも厳しい鍛錬と課題を課してきた自負もあった。


「この程度の見切りもできないからノルンの罠に簡単に引っかかるのですよ……迷宮(ラビリンス・)図書館(ライブラリ)管理者失格です、やすやすと敵の侵入を許す愚か者め!」

「な、なぜそのことを……知っているんですか!」


 脳裏によぎるのは迷宮図書館での苦い記憶。セキュリティも結界も破られておらず、警戒していたはずなのにいとも簡単にノルンの侵入を許してしまった。そればかりか彼女が仕掛けた罠を見抜けず、冬夜の暴走を引き起こす原因を作ってしまった。言乃花の責任ではないとは言われていたが、責任感が人一倍強い彼女には耐えがたいトラウマの一つだった。


「あなたは……いったい?」

「現役世代最強と言われた風魔法の使い手がこの程度とは……そうですね、あの時と同じように()()()()()()状態で私を倒してみなさい!」


 言乃花に言い放った女性の全身から水色のオーラが立ち上り、ドーム状に覆われていく。


「ど、どういう事? 魔法が、魔力が全く使えない? そ、そんなことができるはずが……」


 魔法が使えなくなったことに驚きを隠せない言乃花。

 はたして狐のお面を被る彼女はいったい何者なのか?

 言乃花は勝機を見つけることはできるのだろうか……

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