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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第六章 封印された魔科学

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第2話 言乃花の思惑ともう一つの顔

「お待たせ! 佐々木が近くに医療チームを待機させていたみたい。すぐに到着……あら? どうしたの言乃花ちゃん?」


 連絡を終えた笑顔のレアが冬夜たちのところへ戻ると、険しい顔で立つ言乃花に気付いて声をかける。


「いえ……こちらに近づいてくる人の気配を感じます」

「そう? この辺りは近所の人がランニングや散歩をするコースだから気のせいじゃない?」

「そうではないと思います、手練れた気配の隠し方というのでしょうか……明らかに私たちを欺こうとしている感じがしました。二人の気配がしていたのですが、何の前触れもなく忽然と消え……しばらくすると全然違う場所に現れたりと明らかに不自然です」


 顎に手を当て考え込む言乃花の様子を見て、レアが感心したように答える。


「へぇ……ここまで成長しているとは驚きだわ」

「その言葉は聞き捨てならないですね、レアさん?」


 レアが呟いた一言を聞き逃さなかった言乃花が鋭い視線を向ける。


「ふふふ、どうしたのかしら? そんな敵を見るような目をされるとちょっと悲しくなるわね」

「そうですね……ヘリポート(ここ)に到着してから起こった出来事を考えてみましたが、()()()()()()()()()()()()としか思えません。ノルンたちが現れるタイミングがピッタリでしたから」


 言乃花の視線が一層鋭さを増していくが、レアは口元を軽く釣り上げ不敵な笑みを浮かべている。


「そうね、あまりにもタイミングが良すぎるわね。まさか、妖精たちに情報を漏らしていた人間がいた、と?」

「疑いたくはありませんが、その線が濃厚と考えています。それに、目の前にいるレアさん自身が本物かどうか確証もありませんから」


 言い終えると同時に言乃花の体が揺らぎ、次の瞬間レアの目前に現れる。その勢いのままに緑色の魔力を纏った右手を振り抜く。


「あら? ずいぶん踏み込みが早くなったわね。でも、まだ甘いわ!」


 目の前に現れた言乃花に動じることなく、笑みを浮かべたまま一歩も動かないレア。


「先手必勝! 本物がどうか試させてもらいます!」


 レアの顔面を殴りつけたはずの言乃花の拳は虚しく空を切る。


「チッ……一歩踏み込みが遅かったかしら……」

「迷いのない真っすぐな攻撃は素晴らしいわ。でも、お父様にも言われなかった? 正面突破が通用しないこともある。相手の意表を突くように二手、三手先まで見抜いた行動をするように、と」

「いつも言われております……ですからわざと正面突破を選びました」


 言乃花の背後に現れたレアが首筋を狙い、左手を振り下ろす。見切っていたかのように体を倒してかわすと、地面に両手を突いた反動を利用してレアの顎を狙い思い切り左足を蹴り上げた。


「奇襲成功とはいかなかったみたいですね……残念です」


 ヘリポートに鈍い音が響き渡り、言乃花の左足首は青白いオーラを放つレアにしっかりと捕まれていた。


「いい攻撃ね、相手に気づかれないように瞬間的に魔力を集中させ勢いと威力を爆発的に上げる。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()、と言ったところかしら? わざと足を掴ませておいて油断したところに一撃必殺を打ち込むという二段構えの戦法ね」

「さすがレアさんです。私もまだまだ修行が足りていませんね」

「そんなことはないわ。この先、妖精たちとの戦いを重ねていく中で自然と身についていくわよ。それに玲士が監修したシミュレーターもあるからね」

「あの機械は大丈夫なんですよね?」

「ちょっとやそっとでは壊れないから大丈夫よ。夏休み明けには特別寮の一室に設置されるはずだから」


 掴んでいた左足首を話すとバク転をして着地する言乃花。ずれた眼鏡を右手で直すと晴れやかな表情になっていた。


「お手合わせありがとうございました。やはりレアさんにはかないませんね」

「そんなことないわ。言乃花ちゃんに抜かれるのも時間の問題ね」


 先ほどまでの険悪な空気が嘘のように笑顔で健闘を称え合う二人。


「二人ともいったいどうしたんだ?」

「レアさん、言乃花さん、お怪我はありませんか?」


 呆然と二人の戦いを見ていた冬夜とメイが駆け寄ってきた。


「どうしたの? そんなに驚くようなことでもあったかしら」

「二人こそ大丈夫? そんなに慌てなくても大丈夫よ」

「いや、だって、急にレアさんが偽物だとか言い出すし……二人とも本気モードで戦いを始めるし……」


 冬夜の言葉を聞いたレアと言乃花は少し驚いた表情になると顔を見合わせて盛大に噴き出した。


「ブッ……まさか私が本気でレアさんを疑っていたと思ったの?」

「あはは! ほんと面白いわね! 言乃花ちゃんがずいぶん成長しているようだったから軽く手合わせをしただけよ」

「え……」


 キョトンとしている冬夜を見たレアと言乃花は、再び顔を見合わせるとお腹を抱えて笑いだした。二人を見てビックリした様子で話しかけるメイ。


「そうだったんですね! 私も本当にお二人がケンカを始めてしまったのかと思ってビックリしてしまいました」

「ごめんなさい、メイちゃん。より実践に近い形にしたかったし、レアさんと手合わせできる機会なんてめったにないから」

「心配かけてごめんね。でも安心したわ、こんなに優しい後輩たちがいるなら玲士もレイスくんも大丈夫ね。それにしても、()()()()()()()()()()()わね」

「それはどういう意味ですか!」


 顔を真っ赤にして怒る冬夜を見て、さらに大笑いするレアと言乃花。


「久しぶりに心から笑ったわ。さてと……言乃花ちゃん、あなたが言っていた人たちが到着したみたいよ」


 真剣な表情になったレアが出入口のほうへ視線を向けた。そこにはこちらに向かってゆっくり近づいてくる人影が二人。


「じいちゃん、ばあちゃん!」

「おお、冬夜じゃないか。数か月しかたっていないのに見違えるように大きくなったな」


 現れたのは冬夜の祖父母だった。久々の再会に思わず駆け寄ろうとした冬夜を遮るようにレアが前に出て深々と頭を下げる。


「ご無沙汰しております、師匠ご夫妻」


 レアの『師匠』とは一体どういうことなのか?

 冬夜も知らない祖父母の一面が明らかになろうとしていた。

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