閑話 ソフィー、初めての遊園地⑥
「フェイ……やっぱり白黒つけなくちゃいけないようね」
「奇遇だね、僕も同じことを考えていたよ」
ソフィアとマロンにハグしてもらい、仲良く記念写真を撮った二人。笑顔でソフィアたちを見送るとすぐさま一メートルほど距離を取り、火花を散らす。
「今すぐ決着をつけることもできるけど、マロンちゃんたちに迷惑をかけたくないからな」
「そうね、ソフィアちゃんが悲しむようなことはしたくないわ。あら、意外と話が分かるじゃない?」
「珍しいこともあるもんだね。君たち人間みたいにところ構わず魔法を打つような愚かな真似はしないよ、僕のような高貴な存在になるとね」
「どの口が言っているのかしら? いつも先に仕掛けてくるのはアンタたちの方でしょ?」
どんどんヒートアップしていく二人。リーゼからは青色、フェイからは黄金色のオーラが現れたがすぐに立ち消える。
「あーもうやめやめ、せっかく楽しい気分だったのが台無しになっちゃったわ。まだ水族館のほうも回らなきゃいけないのにこんなところで体力を使っていられないのよ」
「同感だ。せっかくアイツ等の目の届かないところで羽を伸ばしていたのに。さっさと用事を済ませて……」
リーゼが大きなため息を吐いて首を振った時、地面に無造作に転がる数々の袋に気が付いた。
「そういえば……アンタ、さっき持っていた袋を放り投げて走っていったけど中身は大丈夫なの?」
「何のこと……あっ! しまった!」
リーゼの言葉に慌てて袋へ駆け寄るフェイ。中身を確認するとどんどん顔色が青くなっていく。
「……ヤバい、ヤバい、ヤバい……」
「どうしたの? ずいぶん顔色が悪くなってきているわよ?」
リーゼが声をかけるといきなり立ち上がり、滝のような汗を流しながら上ずった声で答える。
「きゅ、急用を思い出した! と、とても重大な任務なんだ! 今日の所はこのくらいで勘弁してやるよ。この決着は今度ゆっくりつけてやる。じゃあな!」
両手で袋を掴むと大慌てで入口のお土産売り場の方へ向かって走り出すフェイ。
「アイツも大変ね……もう、無駄な体力を使っちゃったじゃない。たしか近くに休憩できるカフェがあったはずよね? ソフィーちゃんたちが戻ってくるまで少し休んでいようかしら……タブレットを見れば現在地も確認できるし」
薄ら笑いを浮かべながらカフェに向かったリーゼ。虹色ソーダの入ったカップを受け取り、テラス席に座ってアプリを起動させたときに悲劇が起こる。
「『ここでは使用できません』ってどうなってるのよ! え? 圏外? ……そういえばフェイが魔法は使えないとか言っていたけどタブレットには関係ないはず……」
画面を見つめていたリーゼが何かを思い出したように目を見開いた。
「そういえば少し前にタブレットの調子が悪かったから修理してもらったんだっけ……まさかその時に? せーりーざーわー! あとで覚えておきなさいよ!」
雲一つない青空が綺麗な夕焼けに移り変わり始める頃、リーゼの絶叫は遊園地に流れる賑やかな音楽によってかき消されていった。一時間ほど経った頃、アトラクションを楽しんだソフィーたちがテラス席に戻ってきた。
「ただいまなのです! ってあれ? リーゼお姉ちゃん、やけに疲れた顔しているのです。ゆっくり休んでいたのではなかったのですか?」
「リーゼさん、ただいま戻りました。どうされたのですか?」
「ソフィーちゃん、美桜ちゃんお帰りなさい。ちょっといろいろありすぎて疲れちゃったのよ……二人はすごく楽しめたみたいね」
なんとかアプリを動かそうと格闘し続けたリーゼだったが、焦りからパスワードを立て続けに間違えるという失態を犯してしまった。その結果、タブレット端末のロックがかかってただの板と化してしまい、ショックで打ちひしがれていたのだ。
「すっごく楽しかったのです! ソフィアちゃん以外のキャラクターにもたっくさん会ったのです。あ、そうそうアトラクションを回っている途中ですごくきれいな金髪をした男の子を見かけたのですよ」
「へ、へえー、そ、そうなの?」
「たしかお土産屋さんの前だったのですが、涙を流しながら『良かった……これで怒られない、本当に良かった』ってずっと言っていたのです。ソフィーちゃんも聞いてましたよね?」
美桜に話を振られたソフィーが首をかしげながら話し出す。
「そうなんです。心配になって声をかけようかと思ったのですが……美桜ちゃんが『こういう時はそっとしておいてあげるのが優しさなのです』って……でも、どこかで見たことがあるような気がするんですよね?」
「き、きっと気のせいよ。ほら、お土産売り場だからね」
「うーん、今日は美桜たちが貸し切っているはずなのにおかしいのです? 何やら事件の匂いが……」
「そうだ! もう暗くなり始めてきたし、ホテルに行ってみない? お土産もいろいろ用意してあるみたいだし」
美桜が何かに感付きそうになったところでリーゼがとっさに話題を変える。
「そうですね。美桜ちゃん、メイたちのお土産を一緒に選ばない?」
「むむむ……これは重大な任務を任されてしまったのです! 『お土産マイスター』と呼ばれた美桜が厳選して選ぶのです!」
「何よ、その肩書……初めて聞いたわよ」
三人は仲良く手を繋ぐと園内中央にあるホテルへ向かって歩き出した。そしてホテルに着くなりエントランスホールに用意されていたぬいぐるみをはじめ、数々のお土産を見たリーゼが驚愕の声を上げた。
「え? 私はどうしたらいいの! この子たちの中から選ぶなんてそんなことできないわ……そう、これは神のお告げね!」
「リーゼお姉ちゃん? おーい? あー、これはまたしてもなのです。ソフィーちゃん、一緒にお土産を選ぶのです」
「うん! たくさんあってどれがいいのか悩んじゃうね」
ソフィーと美桜がお菓子を中心にお土産を選ぶ中、血眼になってぬいぐるみをかき集めているリーゼ。
翌日、水族館エリアにおいても大量のぬいぐるみをお迎えした。
「テーマパークって最高ー!」
「ん? 何か大切なことを忘れているような気がするのです……」
「美桜ちゃん、どうしたの? 今度は奥の方に行ってみようよ!」
「ソフィーちゃんにお願いされたら行くしかないのです!」
天を仰いで感動の涙を流すリーゼを見た美桜は、大切な約束を思い出しそうになった。しかし、ソフィーの声を聞くとすぐに笑顔で駆けて行ってしまった。
笑顔が絶えない二日間を過ごした三人は、生涯忘れることのない思い出を胸にテーマパークを後にした。
たくさんのお土産を持ってメイたちと合流したソフィーと美桜は楽しそうに思い出話に花を咲かせた。だが一方では大量のぬいぐるみを持ち帰ったリーゼがエミリアと言乃花から過去最大級の雷を落とされることに。
「絶対ダメ! 全員お迎えするんだから!」
リーゼのぬいぐるみ攻防が無関係な冬夜たちを巻き込んだ「ぬいぐるみ戦争、夏の陣」と言われる一大騒動にまで発展したのは別の話……
お読みいただきありがとうございました。
閑話はいったん区切り、次回より第六章「封印された魔科学」が開幕します。
「ぬいぐるみ戦争、夏の陣」については六章で勃発しますのでお楽しみに!
これからも「絶望の箱庭~鳥籠の姫君~」をお楽しみ下さい!




