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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
幕間⑤

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閑話 ソフィー、初めての遊園地⑤

「リーゼさん、大丈夫ですか? 少し休みませんか?」

「だ、大丈夫よ……」


 園内のベンチにのけぞるようにもたれかかり、放心しているリーゼ。隣には心配そうな顔をしながら覗き込んでいるソフィー。


「ただいまなのです。ふっ、この程度で根を上げるなんてリーゼお姉ちゃんの愛もたいしたことないのですね」

「誰のせいでこうなったと思っているのよ!」

「何のことかさっぱりわからないのです。美桜は全てのアトラクションを制覇するというミッションを達成しなくてはいけないのです! いいですか? さっきも言いましたが、時間は有限なんですよ?」

「そんなことは分かっているわよ! だからってランチを食べた直後に全力疾走させられて、コーヒーカップに乗ればいきなり高速回転するし、ゴーカートに乗ればソフィーちゃんを助手席に座らせたまアクセル全開でドリフトしながら駆け抜けるわ……ってなんであんなにスピードが出るのよ! どうなっているの、この遊園地は!」


 勢いよくベンチから立ち上がると空に向かって大絶叫するリーゼ。


「リーゼさん、落ち着いてください! 私は楽しかったのですから……」

「そうですよ! ソフィーちゃんも喜んでいるのです。そういえばリーゼお姉ちゃんは()()()()()()()()()()はちゃんと読んだのですか?」

「なんで芹澤の名前が出てくるのよ?」

「あー、やっぱり見ていなかったのですね……チケットの入っていた封筒にお手紙が入っていたのですよ」


 美桜の言葉を聞いたリーゼが制服の右ポケットからチケットの入っていた封筒を取り出す。中を確認すると内側に張り付いていたメッセージカードが見つかった。


「これが言っていた手紙かしら? えーっと……『リーゼくん、芹澤財閥の遊園地を思う存分楽しんでくれたまえ! 我が研究の成果がいかに素晴らしいものになっているか再確認するはずだ。一つ大切なことを言っておかねばならない。()()()()()()()()()()()()のでリミッターはすべて外させてもらった! 少々オーバースペックな乗り物もあるが、ぜひ真の力(マックスパワー)を体験した感想が欲しい! 安心したまえ、各遊具は事故を起こさないための安全装置を作動させておいた。では健闘を祈る! 偉大なる科学者 プロフェッサー芹澤』」


 読み終えたリーゼは全身を小刻みに震わせ、持っていた手紙を右手で握りつぶすと立ち上がって絶叫した。


「ふ、ふざけるんじゃないわよ! 何が『リミッターを外した』よ! だからありえないスピードで高速回転したり、ゴーカートなのに暴走したりできたのね! おのれ芹澤、どこにいるの! 出てきなさい!」

「リーゼお姉ちゃん、落ち着くのです。玲士お兄ちゃんは病院にいるのです!」

「リーゼさん、落ち着いてください。プロフェッサー芹澤さんはここにはいないですよ!」


 顔を真っ赤にして怒りをあらわにするリーゼを必死に宥めるソフィーと美桜。数分後、落ち着きを取り戻したリーゼが再びぐったりとしながらベンチにもたれ掛かる。


「あー疲れた……美桜ちゃん、ソフィーちゃん。私は少しここで休んでいるから二人でアトラクションを回ってきてくれない? 回復したらソフィーちゃんに連絡するから場所を教えてね」

「わかりました。絶対に無理はしないで下さいね! 約束ですよ」

「了解なのです! ソフィーちゃん、次のアトラクションが私たちを呼んでいるのです! 張り切っていくのです」


 リーゼの言葉を聞いた美桜がソフィーの手を握り、走り出そうとした時だった。


「美桜ちゃん、走ると危ないよ! まだ時間もたっぷりあるし、園内もゆっくり見て歩きたいな」

「ソフィーちゃんに言われてしまっては仕方がないのです。園内の景色も楽しみながらゆっくり行くのです」


 ソフィーの一言で仲良く手をつないで歩き出す二人。姿が見えなくなったことを確認すると小さくため息をつき、立ち上がると背後を歩いていた人物に声をかけるリーゼ。


「……珍しいところにいるのね? 今日はバトルをする気はないわよ、フェイ」

「こっちだってそんなに暇じゃないんだ。さっさと用事を終わらせて帰りたいんだからそっちこそ邪魔するなよ」


 リーゼが振り向くとそこにいたのは青色のシャツに黒色のハーフパンツをはいて、お土産らしきものがたくさん入ったビニール袋を両手に持ったフェイ。


「まさか……あんたまで招待されていたとはびっくりしたわ。()()()()()をキチンと読んでいなかったら危なかったわね」

「僕だってこんなところに来たかったわけじゃないんだ。……ノルンたちに頼まれたものを買ってこないとまた……いや、何でもない」

「なんか事情がありそうな割にめちゃくちゃ楽しんでいるんじゃない? ウサ耳のカチューシャが似合ってるわよ……ププッ」

「う、うるさい! 人間の考える遊びを知ることも重要な任務なんだ!」


 思わず吹き出してしまったリーゼに対し、顔を真っ赤にして怒るフェイ。


「はいはい、わかりましたよ。それに、ここで魔法を使ったら大事になるわよ?」

「どういう仕組みかはわからないが、この中では()()()()()使()()()()みたいだぞ。力づくで君を黙らせられないのは残念だが……おっと、こんなところで油を売っている暇はなかったんだ。いいか? 僕の邪魔をするんじゃないぞ! 次に会ったときは容赦しないからな!」


 リーゼに吐き捨てるように言い置いて小走りに去っていくフェイ。


「わー、くまのマロンちゃんだ! 握手してもらってもいい?」


 ところが熊のキャラクターであるマロンを見つけると袋を放り投げて駆け寄っていき、握手とハグしている様子を見て生暖かい目を向けるリーゼ。


(へぇ……意外な一面を見ちゃったわね。これは面白い情報を握ったわ)


 黒い笑みを浮かべると胸ポケットからスマホを取り出してフェイに気付かれないように写真を撮ろうとしたが、その時リーゼの怒号が響き渡った。


「ちょっと! なに()()()()()()()()()にまでハグしてるのよ!」


 マロンに続いて後ろから歩いてきたソフィアにハグされるフェイを見たリーゼが鬼の形相で駆け寄っていった。


 二人は気付いていなかったが、この時の行動は全て監視カメラに記録されていた。後日音声付きの映像で冬夜やノルンをはじめ、全員の前で暴露されるのだが。


 夢中で楽しむ二人が阿鼻叫喚を上げるのはまだ先のこと……

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