閑話 ソフィー、初めての遊園地④
「リーゼお姉ちゃん、どうしたのですか?」
「美桜ちゃん……少し休ませてくれないかしら……?」
「あれ? リーゼお姉ちゃんはもうお疲れなのですか? 時間は有限なのですよ? 美桜はまだまだ遊び足りないのです」
「わかってるわよ! でもね、入園した途端にソフィーちゃんを浮かせながら全力疾走、それから絶叫系の乗り物ばかり付き合わされたこっちの身にもなりなさいよ!」
「何を言っているんですか? まだ一巡しかしていないのです」
ベンチにもたれ掛かるように座るリーゼが訴えかけるが、意味が分からないという表情を浮かべている美桜。
「あの時、私がソフィーちゃんの手を握っていれば……」
事の発端は一時間ほど前にさかのぼる。マスコットキャラクターのソフィアと一緒にゲートをくぐった後、園内の案内と注意事項を聞いていた三人。
「以上で私からの説明は終わりだよ。いろんなアトラクションもあるし、私の友達もみんなのことを待っているから仲良くしてほしいな」
「もちろんなのです! あれ? ソフィアちゃんは一緒に回れないのですか?」
ソフィーと手を繋いで説明を聞いていた美桜が不思議そうな顔で尋ねる。
「ごめんなさい。一緒に回りたいのだけど、みんなに楽しんでもらえるようにショーの準備をしなければいけないの」
「ショーの準備? どんなことをするのですか?」
ソフィーが少し首を傾げながら不思議そうに聞く。
「それはね、ステージでお友達と一緒に歌を歌ったり、ダンスをしたりするんだよ! 見に来てくれたみんなにいっぱい楽しんでもらえるようにたくさん練習もしたんだ!」
「すごいです! 絶対見に行きます!」
「ものすごく楽しみなのです! 何時からステージは始まるのですか?」
「十二時からだよ。お昼ご飯を食べながら見られるよ! 三人のために特別なランチを用意してもらったからたくさん遊んで、お腹を空かしてきてね!」
「「「はい(なのです)!」」」
その後ソフィアが迎えに来た女性スタッフと一緒に大きく手を振りながら奥へ向かって歩いて行くのを見送り、姿が見えなくなった直後だった。
「さあ、ソフィーちゃん! お昼ご飯までたっくさん遊ばなくてはいけないミッションが課されたのです!」
「そうだね、でも遊園地って初めて来たから……美桜ちゃんが行きたいところを案内してほしいな」
「任せるのです! 美桜はできる女なので情報収集は完璧なのです。それではソフィーちゃん、レッツゴーなのです!」
ソフィアの姿が見えなくなっても手を振り続けていたリーゼが美桜の一言で我に返るが、既に遅し……
「あー! またソフィーちゃんを引きずって……ない? 地面から浮いているなら問題ないか……ってそんなわけないわ! ちょっと待ちなさい!」
「リーゼお姉ちゃんも早く来るのです! 目標はお昼ご飯までに絶叫マシンを制覇することなのです!」
一瞬振り返ると笑顔でサムズアップをしたて、土煙を巻き起こしながら走り去っていった美桜。全力疾走することになったリーゼが追いつくと、そのまま絶叫マシンを連続で乗り続ける羽目になったのだ。
「リーゼさん、大丈夫ですか? 飲み物を貰ってきましたよ」
ストローが刺さった紙コップをリーゼに渡しながらソフィーが心配そうに声をかける。
「ありがとう。ソフィーちゃんの優しさが染み渡るわ……ところで、ソフィーちゃんは大丈夫なの? はじめての遊園地で結構ハードな乗り物ばっかりだったけど……」
「スピードがとっても速くて面白いですね!」
「そ、そうね……乗り物酔いとかしていない? 気分が悪くなりそうだったらすぐに教えてね」
「はい! リーゼさんも無理はしないでくださいね」
(ああ! もうソフィーちゃんのこの笑顔があれば疲れなんて一発で吹っ飛ぶわよ!)
笑顔で返事をするソフィーを見て、だらしない顔になるリーゼ。隣でジュースを飲んでいた美桜が思わず咳き込んだ。
「美桜ちゃん、どうしたの? 大丈夫?」
「ゲホゲホ……ソフィーちゃん、大丈夫なのです。ちょっとビックリしただけなのです」
「そんなに慌てて飲むからよ」
「誰のせいだと思っているのですか……」
「次は落ち着いた乗り物にしましょう。そうね、あの大きな観覧車に乗って園内全体を見てみない?」
リーゼが指さした方角にあったのは園内が一望できそうな大きさの観覧車だった。
「おお! すごく大きいのです! そういえば水族館のエリアもあると言っていたことを忘れていたのです」
「それもあるけれど園内マップで見るよりも高いところから一望したほうがどこに何があるのかわかると思うわよ。……それに少し時間が稼げるし」
「リーゼお姉ちゃん、また何か言っていたような気がするのですが?」
「な、何でもないわよ! ソフィーちゃんも高いところから景色を見たいわよね?」
「そうですね、観覧車って言う乗り物も初めてなのですごく楽しみです!」
ソフィーの楽しそうな顔を見てホッとするリーゼ。
「そうと決まれば早く行かなくてはいけないのです!」
飲み終えた美桜が近くのごみ箱に紙コップを捨てると再びソフィーの手を握り、駆け出そうとした。
「はいはい、慌てないの。ゆっくり景色も楽しみながらみんなで向かいましょうね?」
「むむむ……妙な圧力を感じるのです……」
リーゼから目の笑っていない笑顔を向けられ、額から冷や汗が流れ出す美桜。その後、三人で仲良く歩いて観覧車に乗り込むと、ゆっくりと空からの景色を楽しんだ。
「もうすぐお昼ご飯の時間になるし、ソフィアちゃんたちのショーも始まっちゃうから会場に向かうわよ」
観覧車から降りた三人は再び手を繋いでソフィアたちがショーを見せてくれるレストランへ向かった。
その後、ショーを終えたソフィアたちが挨拶をするためにテーブルに来た時事件は起こった。キャラクターたちから次々とハグされたリーゼが感動のあまり涙を流したまま気絶してしまったのだ。
そんな騒動の後、まさかの人物と遭遇するとは想像もしていないリーゼだった。




