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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第五章 虚空記録層(アカシックレコード)

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第28話 レイスの暴走

「いったいどういう事よ!」

「なんでノルンが? クロノスは仲間じゃないの?」


 冬夜の告げた言葉に納得できないレアと言乃花が詰め寄る。


「ちょっと二人とも落ち着いてください! 俺だけじゃなくてメイや一布さんも聞いていたから間違いないです」

「わ、私も聞きました。『クロノスを引きずり出せるのは()()()()()()()なんですよ』って……」

「何が何だかわからないわね……ノルンはいったい何を考えているの?」


 四人が困惑した様子で話している隣で静かに空を見上げ続けるレイス。すると中央の火柱が消え始め中から青白いオーラに包まれた、頬に傷のあるクロノスが姿を現した。


「母さんが自ら囮になってまで伝えたかったこと……ようやくわかったっすよ……やっと、この手で葬るチャンスが巡ってきたという事っすね」


 呟くと同時に線を引くように細められていた目を強く見開き全身に青白いオーラを纏うレイス。怒りと殺気で右手に握られた懐刀が小刻みに震えている。


「五人まとめてお相手して差し上げようと思ったのですが……とても美しい狂気に包まれておられる方がいらっしゃいますね?」

「今こそ積年の恨みを晴らす時!」

「ふふふ、ずいぶん恨まれているようです。いいでしょう、暇つぶし程度に遊んで差し上げますよ?」

「くっ、今日が貴様の命日だ! クロノス!」


 レイスが大声で叫び、飛び掛かろうと腰を落とした。


「レイスくん、待ちなさい!」


 いち早く異変に気付いたレアが制止しようと一歩踏み出したが既にレイスの実体はなく、伸ばした手は虚しく空を切る。


「クロノス! たとえ刺し違えても貴様だけは!」

「鬼気迫る迫力と心地よい殺気は気持ちが良いものですね。しかし、少々感情に乱れがあるのが残念なところでしょうか」


 空中に青白い火柱が二本立ち上がると甲高い金属音が辺り一帯に鳴り響く。真上から切り付けるように懐刀を振り下ろしているレイスと目を閉じて左手を頭上に掲げているクロノス。手には青白く輝く日本刀のような刃が握られていた。


「クソ……自分の攻撃は完璧だったはずっすよ」

「そうですね、悪くない攻撃でした。地上から跳躍で真正面に現れる……と見せかけ、魔力で分身を作って前後を警戒させる。その隙に無防備になった頭上から不意打ちを狙う。こんなところでしょうか?」

「なっ……まさか読まれていた……」


 驚愕の表情を浮かべながらも懐刀に更に魔力を込め、なんとか押し切ろうとするレイスだがクロノスの刀は微動だにしない。


「とても素晴らしい戦略だとほめて差し上げましょう。ですが、私の忠告を無視されたことはとても悲しいですね」

「忠告……っすか?」

「ええ、言いましたよね? ()()()()()()()()()のが残念だ、と」

「それが……どうしたというっすか! お前を倒してしまえばすべてが終わるっすよ!」


 怒りを爆発させたレイスの全身からあふれ出した魔力が火柱となり、辺り一帯に熱風が吹き荒れる。


「レイス、やめなさい! このままだとみんな巻き込んでしまうわよ!」

「うるさい、うるさいっすよ! 言乃花さん、邪魔しないでください!」


 言乃花が呼びかけるも頭に血が上ったレイスの耳に届くことはなく、膨れあがる魔力はどんどん増していく。


「冬夜くん、メイちゃん、私の後ろに来て。風魔法で被害を軽減させるから私から離れないで!」

「わ、わかった。おい、レアさんがいないぞ?」

「レアさんなら大丈夫よ。私が指示を出したらすぐに体を伏せて!」


 語気を強めた言乃花の言葉に無言で頷く冬夜とメイ。言乃花が両手を前に突き出すと緑色をした半球形の結界が出現する。


「準備はいい? 一斉に体を伏せるのよ!」

「わかった」

「わかりました!」


 冬夜たちが素早く後ろに付くと空中にいるレイスとクロノスの方へ向き直った言乃花から声が響く。


「ちょっとヤバいかもしれない……冬夜くん、メイちゃんが吹き飛ばないように守ってあげて!」


 冬夜がメイに覆いかぶさるように地面へ伏せた時だった。クロノスとレイスを青い光が包むと重々しい音とともに熱風と炎が周囲に立ち込める。そして、黒煙とともに巻き上げられた砂利が縦横無尽に吹き荒れて瞬く間に視界が奪われた。



 しばらくして熱風が収まり始めると言乃花が二人に声をかける。


「二人とも大丈夫? まだ何も見えないけど立ち上がってもよさそうよ」

「ああ、言乃花のおかげて助かったよ。メイ、ケガはないか?」

「うん、冬夜くんが守ってくれたから大丈夫だよ」


 三人はゆっくり立ち上がるとまだ黒煙が立ち込めるヘリポート内を見渡す。


「レイスさんは大丈夫なのか?」


 心配した冬夜が声を上げた時だった。


「人間にしては上出来ではないでしょうか? ……しかし、あと一歩足りなかったようですね」


 うっすらと晴れてきた黒煙の中から、笑みを浮かべたクロノスだけが現れる。


 果たしてレイスは無事なのだろうか?

 戦いの幕は意外な形で下りようとしていた……

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