第23話 苦い結末と新たな火種
響とレアの魔法がぶつかり真っ白な光と煙に包まれたヘリポート。
「ほんとにバカげた魔力ね……」
左手を腰に当て真っすぐに前を見つめるレア。服はところどころに焦げたような跡があり、腕の数カ所の擦り傷から血がにじんでいる。
「この程度で終わりなわけないわよね?」
「……これでもあまりダメージを与えられないのか……」
「何をかっこつけてるのかしら? アンタの相手だけしてる暇は私にはないのよ」
レアが右手の平を正面に向けてゆっくりと上げると一直線に突風が駆け抜けた。立ち込めていた煙の中に一筋の道が現れ、響の姿が現れる。先ほどまで纏っていた黒いオーラは明らかに少なくなり、まるで削り取られたかのような切り傷が全身についていた。
「天罰の六水晶……なんという威力なんだ……まさか相殺されるとはな」
「あら? そんなに驚くようなことかしら?」
「クソッ、学園長と渡り合えるという噂は本当だったのか? あれだけの大技を解き放ってまだ余裕があるとは……」
「あんなの大技のうちに入らないわよ。ところで先ほどまでの威勢はどうしたのかしら?」
涼しい顔で響を見つめるレア。対照的に片膝を地面につき、肩で息をしている響。
「クソ……こんなところで足止めをされてしまうのか……俺は、俺は!」
響が絞り出すように声を出し前を見上げた時だった。いきなり目の前に虹色のオーラを纒った拳が現れた。
「いい加減目を覚ましなさい! この大バカ野郎!」
レアが拳を振り上げた時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「おやおや、様子を見に来たら面白いことになっていますね」
次の瞬間、響の姿がかき消え拳が虚しく空を切る。
「やっぱりアンタが裏で糸を引いていたのね……そこよ!」
再び右手に魔力を込めると頭上に向かい振り抜く。天へ解き放たれた魔力は数メートル上がったところで何かにはじかれると近くに出現した二つの結界にぶつかり、大爆発を起こす。
「さすがですね。人間の身でありながら私を追いつめた実力は伊達ではないようですね」
「どれだけうまく姿を隠したつもりでもあんたの妖力はケタ違いなのよ。私にはバレバレよ、クロノス!」
レアが顔をあげて雲一つない青空を睨みつけると少しずつ目の前の空間が歪み始める。
「敵対心たっぷりな視線ほど心地良いものはありませんね。実に素晴らしい!」
歪んだ空間から姿を現したのは紫色のローブを身に纏い、プラチナブロンドの髪を靡かせている三大妖精ファースト「クロノス」。右腕に抱えられているのは、気を失い力なく項垂れている響。
「ありもしない虚空記録層を見せ、響をそそのかして何をするつもりなの?」
「ふふふ……ちょっとした計画ですよ。創造主様のやり方では時間がかかりすぎてしまいますから……しかし、心外ですね、ありもしない虚空記録層を見せたと言われるのは」
「ふざけるのはそれくらいにしておいたら? 世界のすべてが記録されているという代物をアンタが一人で手に入れられるわけがないでしょう? 何重にも封印されてまだ誰も……」
「そう、まだ誰もたどりついた者はいないはず……ですよね? 今までは」
「何が言いたいのよ? まさか……」
空中で不敵な笑みを浮かべるクロノスに対し、何かを察し険しい顔を見せるレア。
「どうでしょうか? たしかに虚空記録層の封印を完全に解くことは不可能でしょう、足りないピースが多すぎます。しかし、着実にその時は近づきつつある……それに、狙っているのは私だけではありませんから」
クロノスが先ほど爆発が起こった結界の一つへ視線を動かした時、首筋に閃光が走る。
「手応えは……ありませんわね」
閃光の先に現れたのはポイズニングダガー・スコルピオを右手に持ち、地面へ着地すると同時に冷ややかにクロノスを見上げるアビー。やがてクロノスの頭と体がずれ始めると煙のように姿が消え、すぐ右隣に何事もなかったかのように現れる。
「おやおや、久しぶりの再会なのに仲間割れですか? アビーさんの教育がなっていないのではないでしょうか? ノルン」
「私たちに対して口出しする許可を出した覚えはありませんよ? クロノス」
レアが声のした方に急いで視線を向けると、空を睨みつけるアビーの隣にいつの間にかノルンが立っていた。
「さて……どうしたものでしょう。ずいぶん追いつめられてしまったというべきでしょうか?」
言葉とは裏腹に心から楽しそうに笑顔を浮かべているクロノス。
そのクロノスを冷徹な殺気で刺し貫くように睨みつけるノルン、隣には新しいおもちゃを与えられた子供のような笑みを浮かべるアビー。
(ちょっとどうなってるのよ……それよりも冬夜くんたちは?)
二人から少し距離をとった位置で動きが取れずにいるレア。
爆発に巻き込まれた冬夜たちは無事なのか?
未だかつてないバトルが幕を開けようとしていた……




