第21話 新たな脅威に隠された秘密
「……うまくいったみたいね」
ヘリの着陸地点から少し離れた位置に立ち、ヘリポート全体を見渡しているレア。
「妖精たちも手の込んだことをしてくるわ。玲士から事前に聞いていた情報がなかったら、私もどちらかの中に閉じ込められていたわけね」
見つめる先は何の変哲もない景色が広がっている。周囲に植えられた木々が風に揺られ小鳥のさえずりが聞こえるほどの静寂に包まれている。
「レイスくんと言乃花ちゃんにはアビーを相手に修業の成果を見せてもらいたいわ。冬夜くんとメイちゃんの方が問題ね……」
腕を組み、考え込むような表情を浮かべるレア。ゆっくり目を閉じると小さく左右に首を振る。
「考えていても答えは出ないわ。さて、私のほうも相手をしてもらえるみたいね? 久しぶりに本気を出させてもらうわよ、響」
「チッ……どうやら一足遅かったようだな」
「あら? 私が相手では不満? ずいぶん大口を叩けるようになったわね。学園時代はまともに魔力のコントロールすらできていなかったのに」
「いったい何年前のことを話しているんだ? まあいい……たとえ先輩であり恩人であろうが、俺の邪魔をするなら容赦しない」
「アンタは昔から思い込んだら一直線なのは治らないわね。そろそろ姿を見せたらどうなの?」
閉じていた目をゆっくり開けるレア。すると数メートル離れた位置の景色が歪み、黒いフードを目深くかぶった男性が姿を現す。
「久しぶりの再会なのにフードを被ったままとは、先輩に対する礼儀も忘れてしまったようね?」
「おっと、これは失礼した。成すべきことを成すためにはこの姿のほうが動きやすいのでな」
言い終えると被っていたフードに右手をかけ、ゆっくりと外す。露わになったのは短く整えられた少し癖のある黒髪。目は透き通るように赤く禍々しい黒い魔力が全身を包み込んでいる。
「へぇ……少しは成長しているみたいね」
響の姿を見たレアの背筋を一筋の冷たい汗が流れ落ちる。
(ちょっとまずいわ……はやく止めないと最悪の事態を引き起こしかねないわね。みんなが出てくるまで何とか引き延ばさないと)
焦る気持ちを悟られないようにわざと余裕の笑みを浮かべるレア。
「ほう、笑みを浮かべる余裕があるとは……さすが学園創設以来の天才と言われただけはあるな」
「あら? そんな噂があったなんて初耳だわ」
「知らないのも無理はないだろう、あなたが卒業した後の話だからな。嬉しそうにルナが話していたぞ」
ルナの名が出た時、それまで険しい表情だった響の口元がわずかに緩む。
「そう、ルナがそんなことを……」
懐かしい名を聞いたレアの表情もつられて柔らかくなる。
「あんなに誇らしげに、楽しそうに話すルナは見たことがなかったな……そう、俺はあの笑顔を守りたくて必死に努力した」
「ええ、ルナから聞いていたわ。無茶しすぎて魔力枯渇を引き起こすこともたびたびあったと……」
「とにかく力が必要だった。うまく魔力をコントロールできない自分が情けなかったな……だが、努力の甲斐もあり、学園を卒業するころには自分の思い通りに使えるようになった」
饒舌に話し出した響は当時の様子を思い出したのか笑顔を見せる。すると全身からあふれ出していた黒い魔力が少しずつ薄れ始めた。
「そうね、ハワードやエミリアと肩を並べる実力者になっていたもんね。そしてルナと結ばれて……」
「ああ、本当に幸せだった……冬夜が生まれ、家族が増えてこれからという時に病に倒れてしまった……俺にはどうすることもできなかった」
「ルナのことはあなたのせいじゃないわ。私は……」
言葉に詰まり、うつむいてしまった響に声をかけようとした時だった。突如薄れていた黒い魔力が再び響の全身を包み始め、レアの言葉を遮るように話し始める。
「ルナがこの世を去ったのは病気が原因……だと思っていた。だが、真実は別のところにあった……虚空記録層を見た今なら……」
「響、あなたは何を言っているの? 虚空記録層を……それは本当なの?」
レアの言葉を聞いた響の表情が曇り、わざとらしくレアから視線を外す。
「……余計なことを口走ったようだ」
「響、あなたはいったい何を見たの?」
「おしゃべりはここまでだ! 俺に残された時間は少ない……邪魔するというなら容赦はしない!」
響からあふれた魔力が増大し、全身を黒いオーラが包み始める。
「お願い、私の話を聞いて! これ以上魔力を使ったら……あなたの命が危ないの!」
響に対し、必死に訴えかけるレア。
彼女の訴えは届くのだろうか?




