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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第五章 虚空記録層(アカシックレコード)

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第16話 聞こえないはずの声

 気持ちの良い朝日が窓から差し込む保養所のロビーに賑やかな声が響いていた。


「いよいよ遊園地に行くのです! 楽しみすぎて待ち切れないのです!」

「美桜、少しは落ち着きなさい。そんなに走り回ったら他の人の迷惑になるでしょ?」

「そんなことないのです! 美桜はちゃーんと避けられるのです!」


 ロビーに着くなり走り回っている美桜。言乃花が制止しようと足を踏み出すとわずかに前髪が揺れ、美桜の背後に人影が現れる。


「美桜ちゃんは朝から元気っすね。でも走り回っていると迷惑になるから止めるっすよ」

「レイスお兄ちゃん、おはようなのです。捕まってしまっては仕方ないのです」


 音もなく現れたレイスに両肩をしっかりつかまれて身動きが取れなくなった美桜。諦めた様子でソファーに座ると、エレベーターから楽しそうな声が聞こえてきた。


「ソフィー、いっぱい楽しんできてね。お土産を楽しみにしているよ」

「うん! メイも気を付けてね」

「ソフィーなら大丈夫だろ? 俺はリーゼのほうが……」

「私のほうが、何かしら? 冬夜くん?」

「げっ……いや、美桜ちゃんを抑え込むのにだな……」


 滝のように冷や汗を流しながら焦る冬夜に笑顔で詰め寄るリーゼ。その様子を見たメイとソフィーが顔を見合わせ微笑み合っている。


「ソフィーちゃん、おはようなのです! レイスお兄ちゃん、ソフィーちゃんのところに行きたいので離してほしいのです」

「もうすぐ出発っすから大人しく待っていてください」


 レイスと美桜による謎の攻防が繰り広げられる中、レアと佐々木が自動扉から入ってきた。


「みんな揃ったみたいね。じゃあ出発するわよ!」


 レアと佐々木を先頭にリーゼと美桜がソフィーを真ん中にして手を繋いで続く。すぐ後ろにはメイと冬夜が並び、言乃花とレイスが続いて自動扉を出る。


「「「皆様、いってらっしゃいませ」」」


 玄関を出ると保養所に着いた時と同じように使用人一同が沿道の両側に頭を下げた状態で並んでいた。


「圧巻の光景だな……」

「ほんとだね、みんな綺麗に揃っているね」


 メイと冬夜が思わず立ち止まって話していると先を行くソフィーが声をかける。


「どうしたの? 早く行こうよ!」

「すぐに行くよ! 冬夜くん、ソフィーも呼んでるから早く行こう!」

「ああ、そうだな」


 沿道に並ぶ一人一人に軽く頭を下げながらメイと並んで歩く冬夜。ヘリポートに着くと冬夜たちが乗ってきた機体の奥にピンク色をした小さなヘリが止まっていた。


「ソフィーちゃんたちは奥のピンク色のヘリに乗ってね。佐々木、あとは任せたわよ」

「承知いたしました。それではソフィー様、美桜様、リーゼ様、こちらへどうぞ」

「ありがとうございます。みんな、いってきます!」

「いってきます! たっくさん遊んでくるのです!」

「ちょーっとストップ! 三人で手を繋いで行きましょうね」


 佐々木に促された美桜がソフィーの手を掴んで走り出そうとした瞬間、リーゼが一瞬早く前に回り込んで阻止する。それから先ほどと同じように三人で手を繋いでヘリへ向かっていく。


「じゃあ、私たちも出発するわよ。冬夜くんのご実家に直接乗り付けるわけにはいかないから、少し離れたところにあるうちの別荘に向かうわね。そこからは少し運動も兼ねて歩いていきましょう」

「レアさんが歩いて行くって、()()()()しかしないっすけど……」

「そんなことないわよ。そうそう、待ち合わせしている人もいるからね、言乃花ちゃん」


 レアがニコニコしながら言乃花に話を振ると露骨に嫌そうな顔をする。


「私も遊園地を希望するべきだったわ……」

「細かいことは気にしないの! さあ乗って。出発するわよ!」


 鼻歌を歌いながらレアが運転席に乗り込んだ。大きく息を吐く言乃花に続き、レイス、メイ、冬夜も客席側に乗り込んでいく。


「みんな乗ったわね? ちゃんとシートベルトを締めて、三十分ちょっとで到着するから、その間空の旅を楽しんでね。じゃあ離陸するわよ」


 徐々に大きくなるエンジン音と共に回転翼の空気を切り裂く音が辺りに響き渡る。やがて機体が地面を離れ、大空へ飛び立った。


「いよいよか、じいちゃんたちに早く会いたいな」

「冬夜くん、実家の近くにはどんなところがあるの?」

「自然がいっぱいあってさ……」


 冬夜の話を夢中で聞くメイ。二人の様子を後ろの席で見守りながら外の景色を楽しむ言乃花、その隣で静かに寝息を立てるレイス。


「もうすぐ別荘に到着するわよ。完全に機体が止まるまでは勝手に動かないように」


 しばらくしてレアの声が機内に聞こえると機体はゆっくりと降下していく。すると窓の外を眺めていた言乃花がヘリポートの近くで大きく手を振る人影を見つけた。


「誰かこっちに向かって手を振って……まさか……」


 別荘のヘリポートにゆっくり機体が着陸すると、奥の方から土煙をあげてどんどん近づいてくる人影が……


「言乃花ちゃーん! あなたの王子様、一布がお迎えに上がりましたよ!」


 ()()()()()()響き渡る一布の声に嫌悪感を隠そうともしない言乃花。


「一布さんも元気そうだな」

「ほんとだね、中まで聞こえるくらい大きな声なんてすごいね」


 冬夜とメイが笑顔で話している中、異変に感づいた人物が…:


(外にいる人間の声がプロペラの回っているヘリコプターの中に聞こえるはずがない……何かおかしいっすね)


 薄っすら目を開けて考えを巡らせるレイス。

 はたしてレイスの感じ取った異変は杞憂に終わるのか? それとも……

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