第14話 それぞれの思惑と初めての遊園地
「明日の予定なんだけど、二班に分かれて行動することに決めたの。美桜ちゃんとソフィーちゃんは一緒に行動してもらうわね。そうそう、このカードを渡しておくわ」
「何をもらえるのですか? え! これはまさか……」
不思議そうな顔でレアからカードを受け取った美桜がみるみる目を輝かせて大声を上げる。
「やったーなのです! ソフィーちゃんと遊園地に行けるのです!」
「美桜ちゃん、遊園地ってどんなところなの?」
「すっごく楽しいところなのです! 行けばわかるのです!」
夕食を終えた食堂内を飛び跳ねて走り回る美桜。
「美桜、うれしいのはわかるけど少しは落ち着きなさい」
「言乃花お姉ちゃん、美桜は落ち着いているのです! いつもよりテンション高めになっているだけなのです」
とびっきりの笑顔で鼻息を荒くしている美桜と大きくため息をつき、右手を額に当て項垂れている言乃花。その様子を笑顔で見ていたレアが口を開く。
「喜んでもらえて何よりよ。せっかくこっちの世界に来てるソフィーちゃんに楽しい思い出をたくさん作ってもらいたいの」
「レアさん、楽しい思い出なら今日もたくさんできましたよ? 美桜ちゃんといっぱい遊びましたし……」
レアの言葉の意味がよくわからず、不思議そうに答えるソフィー。
「そうなのです! 今日も楽しかったのです! リーゼお姉ちゃんとの鬼ごっこもスリル満点で楽しすぎたのです」
「鬼ごっこじゃない! 全然捕まらないんだから……言乃花がいてくれたからまだ何とかなったけど」
「リーゼが真っ向勝負で美桜を捕まえられるわけないでしょう?」
言乃花が指摘すると、胸を押さえてテーブルに倒れこむリーゼ。呆れた表情で紅茶を一口飲むとレアに話しかける。
「明日は二班に分かれて別行動というお話ですが、組み合わせはどのようになりますか?」
「そうだったわ、明日のグループを発表するわね。まず、冬夜くんの実家に行く班は冬夜くん、メイちゃん、言乃花ちゃん、レイスくん、私、あと現地でもう一人合流することになっているから全員で六人。そして、美桜ちゃんとソフィーちゃんは芹澤財閥が運営する大きな遊園地で思いっきり遊んできてもらうわね。こちらの引率はリーゼちゃんにお願いしたいわ」
「二人の引率ですね、わかりました。……ソフィーちゃんと遊園地に行けるなんてなんて素敵な日なのかしら! それに……どの子をお迎えしようか悩むところだわ」
「……リーゼ、気持ちはわかるけどものすごく変な顔をしてるわよ」
言乃花に指摘されてもリーゼの葛藤は続いていた。芹澤財閥が運営する遊園地は現実世界の中でも最高峰と名声が高い。またその遊園地のマスコットキャラクターはソフィーと同じウサギをモチーフにしており、世界中で大人気となっているのだ。
「リーゼちゃんも思いっきり楽しんできていいのよ。でも、エミリアが『ぬいぐるみは一人にしなさい!』って言ってたわよ」
「げっ……なんでママが知っているの?」
「エミリアとはよく連絡とり合っているからね、今回の遊園地のこともちゃんと話してあるわよ」
「しっかり包囲網が敷かれていたのね……」
ガックリと落ち込むリーゼの左手にモフモフとした温かい感触が伝わる。
「リーゼさん、明日は一緒に楽しみましょうね!」
「そうね! ソフィーちゃんと一緒に思いっきり遊ぶわよ!」
「あー! 美桜がいることを忘れてないですか? 三人でたっくさん遊ぶのです!」
リーゼたちが盛り上がっている様子にレアが軽く咳ばらいをする。
「盛り上がっているところ申し訳ないけど仕切り直させてもらうわね。冬夜くん、ご実家に手ぶらで伺うわけにいかないから手土産を用意させてもらったわ」
「ありがとうございます。じいちゃんたちもきっと喜ぶと思います」
レアの提案に嬉しそうな顔で答える冬夜。
「私も久しぶりにお会いするから楽しみだわ。ルナに手を合わせて報告したいこともたくさんあるから、時間は気にしなくても大丈夫よ」
「わかりました。ところで現地で合流する方ってどなたなんでしょうか?」
冬夜の質問を受けたレアが横目で言乃花へ視線を送るとバッチリ目線が合う。
「それは明日のお楽しみにしましょうね、言乃花ちゃん?」
「……レアさんの意味深な言い方から、すごく嫌な予感しかしないのですが」
「どうしてかしらね? きっと楽しいサプライズになると思うわよ」
レアの言葉を聞き、全身から嫌悪感をにじませる言乃花。二人のやり取りを不思議そうな顔で見つめるメイと必死に笑いをこらえてテーブルにしがみついているレイス。
「楽しくなりそうね。……響、あんたの思い通りにはさせないわよ」
笑顔で答えたレアの言葉の後ろに続く部分は誰にも聞こえないほどの小声で密やかに呟かれたが、ただ一人唇の動きから読み取った者がいた。
(やはりレアさんは何か企んでいるっすね……)
そっとレアから視線を外し、目を細めるレイス。
レアは何を企んでいるのか……
時を同じくして芹澤財閥が経営する病院。薄暗い病室の窓際に立ち、芹澤が外を眺めていると室内に設置されたインターホンから来客を告げる連絡が入る。
「玲士様、お客様がお見えになられました」
「ご苦労、通してくれ」
しばらくするとドアをノックする音が室内に響く。
「入りたまえ」
「失礼します、玲士さん」
「よく来てくれた、一布くん」
現れたのは冬夜たちとは別行動をしていた一布だった。
「玲士さんの読み通り妖精たちに動きがありました。この事はレアさんたちにも報告してあります」
「やはりな……さて、君を呼び出したのは今後の動きについてだ。母さんから指示はきているな?」
「はい、現地で合流するように伺っております」
その言葉を聞いた芹澤は口元を軽く吊り上げる。
「それなら話は早い。合流したら冬夜くんたちを言乃花くんとレイスから引き離してくれ」
「正気ですか……いえ、わかりました」
芹澤の言葉に驚いた一布だが、表情を見て何かを察した様に無表情になる。
「君にしかできない任務だ、頼んだぞ」
「承知しました、失礼いたします」
一礼すると静かに病室を出ていく一布。
「さて……レイスは私の伝言を理解できたのかな?」
窓の外に広がる街の灯りを眺めながら不敵な笑みを浮かべる芹澤。
一布に指示した内容と芹澤の意図するところとは?
そして、レイスは伝言に隠された意図を読み解くことは出来たのだろうか……




