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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第五章 虚空記録層(アカシックレコード)

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第13話 忍び寄る魔の手

「みんな、おはよー! よく眠れたかしら?」


 心地よい朝日が窓から差し込む保養所の食堂にレアの元気な声が響く。


「おはようございます、昨日はありがとうございました。ゆっくり温泉も入れてぐっすり眠れました」

「おはようございます、レアさんはいつも元気ですね!」


 昨夜の夕食会のときにあった二十人掛けのテーブルは片付けられ、四人掛けの丸テーブルが窓際に二つ、反対の壁側に二つ配置されていた。窓際の奥側にある席に座っていたメイとソフィーが立ち上がると、笑顔でレアに話しかける。


「メイちゃん、ソフィーちゃん、おはよう! 二人の笑顔を見られて今日も幸せだわ。ほかのみんなはどうしてるのかしら?」

「冬夜くんとレイスさんは自主稽古に行っていて、もうすぐ帰ってくると思います。言乃花さんも朝早くから出かけてるみたいですよ」

「あのレイスくんが朝から自主稽古に? 雪でも降るんじゃないかしら……ところでリーゼちゃんもいないみたいだけど?」


 食堂の中を見渡したレアが不思議そうな顔で聞く。


「そういえば今日は見てませんね。いつも部屋から出るとすぐ声をかけてくれるんですけれど……」


 ソフィーが少し考えるように首を傾げた時、廊下からリーゼの声が聞こえてきた。


「ちょっと言乃花! 朝練に付き合ってとは聞いたけど、なんでいきなり十キロも走らされるのよ!」

「朝のランニングは気持ちがいいわよ。それにリーゼ、最近食べすぎてるって言っていたでしょう? ちゃんと体を動かしておかないと太るわよ」

「なっ……だからって五時前に叩き起こされてランニングに付き合わされたのよ! そのあと休憩なしで組手って……私を殺す気なの?」


 顔を真っ赤にし、額に汗をにじませながら猛抗議するリーゼと涼しい顔で聞き流す言乃花。


「お姉ちゃんたち邪魔なのです! さっさと中に入るのです。美桜はおなかペコペコなのです!」

「つ、疲れた……美桜ちゃんの体力は底なしなのか……」

「冬夜さん、しっかりするっすよ。朝ごはんを食べて一息つきましょう」


 朝練を終えた五人がワイワイと食堂に入ってきた。


「ふふふ、みんないい顔つきになってきたわね。これなら大丈夫かしら」


 冬夜たちの様子を見たレアはそっと呟く。近くで聞いていたメイとソフィーが不思議そうな顔をしていると美桜が元気な声をかけてくる。


「ソフィーちゃん、おはようなのです!」

「美桜ちゃん、おはよう。一緒に朝ごはんを食べようよ」

「はいなのです!」


 突風が吹き抜けるように美桜の姿が消えたかと思うとソフィーの隣に現れ、いつの間にか椅子に座っている。


「美桜、きちんと挨拶をしなさい。おはようございます、レアさん」

「おはよう、朝から精が出るわね。手ごたえはありそうかしら?」

「そうですね、少しずつ全員が目標のレベルには近づいています」

「それならよかったわ。リーゼちゃんはだいぶお疲れの様子だけど大丈夫?」

「……なんとか大丈夫です」


 息も絶え絶えに声を絞り出して答えるリーゼと笑顔で返事をする言乃花。対照的な二人を見て思わず笑みを漏らすレア。


「冬夜くんたちも順調かしら?」

「レイスさんに相手をしてもらえてより実践的な動きができるようになりました」

「そうっすね。以前よりも感情の起伏がだいぶ抑えられてますし、動きも別人のようになってきているっす。あとは経験を積めば問題ないと思います」

「いい傾向ね……さてとみんな揃ったし、ご飯にしましょう。昨日話したように今日は休息と荷物の整理。明日は冬夜くんの実家に向けて出発するわよ!」

「「「はい!」」」


 全員が席に着くと賑やかな朝食会が始まった。朝食もビュッフェスタイルで各々が好きな物を食べ、笑い声の絶えない楽しい時間はあっという間に過ぎていった。


「たくさん食べたのです! ソフィーちゃん一緒に遊ぶのです!」

「お片付けが終わってから遊ぼうね」

「荷物の整理なら私がやるから大丈夫だよ。美桜ちゃんと遊びに行って来たら?」


 メイの言葉を聞いた美桜の目が輝きだす。


「メイお姉ちゃんの許可をもらったのです! 遊びに行くのです!」


 ソフィーの右手を掴むと脱兎のごとく駆け出していく。


「こらー! あれほどソフィーちゃんを引きずるなって言ったでしょうが! 待ちなさい!」

「大変なのです、リーゼお姉ちゃんが鬼なのです! 捕まったらダメなのです」

「誰が鬼ですって!」


 美桜たちを追いかけるように走り出すリーゼ。その様子を見ていたメイが笑みを浮かべながら冬夜に話しかける。


「行っちゃったね。冬夜くんはどうするの?」

「荷物の整理を終わらせたら部屋でゆっくりしようかな」

「じゃあ、休んでから一緒に庭園を散歩しない?」


 笑顔で話しながら食堂を後にするメイと冬夜。二人の姿が見えなくなった途端、食堂の空気が一変する。


「レイスくん、言乃花さん、二人に伝えなければいけないことがあるわ。冬夜くんの実家近くで()()()()が観測されたと一布くんから報告が上がってきたの。妖精たちが待ち構えている可能性が高いわ」


 無言でうなずく二人を確認すると、レアが続ける。


「おそらく冬夜くんとメイちゃんに接触してくるでしょう。二人から目を離さないように」

「「承知しました」」

「念のため、ソフィーちゃんと美桜ちゃんはリーゼちゃんとお出かけしてもらう段取りをしておいたわ。こちらは芹澤財閥の関連施設だから問題ないはずよ」

「レアさんはどうされるんっすか?」

「私はあなたたちと一緒に行動するわ、万が一の事態に備えてね」

「了解です」 

「了解しました」


 レイスと言乃花は一礼すると食堂を出ていく。二人を見送るとレアは窓際に行き、目を細めながら外の景色を眺めた。


「弥乃の言っていたことが気にかかるわね……妖精だけならまだしも()()動いているなんて厄介ね。(一布)にも現地で待機してもらいましょう」


 弥乃はレアに何を話したのか?

 魔の手は着実に冬夜たちへと近づいていた……

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