第10話 明かされる両親の過去(後編)
「冬夜くん、お父さんたちに起こった事って……」
「ああ、俺と似ている……というかそっくりだな」
思わず顔を見合わせる冬夜とメイ。
「二人の様子を見ていると思い当たる節がありそうね。続きを話してもいいかしら?」
「私は……大丈夫です」
「俺も大丈夫です、続きをお願いします」
二人の真剣な眼差しを受けてレアが口を開く。
「じゃあ、話を続けるわね。ルナとフェイの凶弾に倒れた響を包み込むように闇が広がり始め、困惑しているうちに視界が効かなくなっていったわ。何かが破裂する音、続いて何本もの木が倒れるような音が響いてきて……でも、どんな状況なのかは全くわからない。少しでも情報を得ようと必死で目を凝らしているうちに闇が晴れてきた。ようやく目の前に見えてきた光景に愕然としたわ。私たちの周囲にあった木が根こそぎ消え去って……十メートルほど離れた先にあった大木にフェイがめり込んでいたのよ」
「レアさん、親父たちは?」
「響とルナは並んで立っていたわ。だけど、私たちが声をかけても全く反応がなかった……」
話を聞いていた冬夜が思わず身を乗り出そうとテーブルに手をついた時、隣に座っていたメイがそっと左腕に手を添える。触れた腕から微かな震えが伝わってくるのに気付き、メイは安心させようと冬夜に笑顔で話しかける。
「冬夜くん、大丈夫だよ。私が一緒にいるから」
「ありがとう、メイ。何とか落ち着けそうだよ」
「良かった。あの……もう少し手を握っていてもいい?」
「もちろんだよ」
ソファーに座り直すと左手を差し出す冬夜。ほっとした様子で手を重ねたメイが優しく微笑む。
「本当に二人とも仲が良いわね。学園時代の響とルナを見ているみたいだわ。あら、また話がそれてしまったわね。……慌てて駆け寄った私たちが見たのは、立ったまま気絶している二人と妖力の反応が全くなくなったフェイ。私、エミリア、弥乃が響たちを保護する間、ハワードとシリルが周囲の警戒に当たっていたんだけど……あのバカがいつの間にかフェイのほうへ向かって駆け出していたのよ。ワナがあるかもしれないっていうのに!」
再び両手の拳をテーブルに叩きつけ、大きなため息を吐くレア。少しずつ言葉にも熱がこもっていく。
「安全かどうかも分からないのに、あのバカは『こんなチャンスはないだろう! 捕まえて実験室に運び込むぞ!』って言ったのよ! 信じられる? 響なんてフェイの直撃を受けたのよ? ぶん殴ってでも止めてやろうとした時だったわ、脳内に聞いた事のない声が響いてきたのは……」
「声、ですか?」
「そう、その場にいた意識のある全員に聞こえたの……背筋が寒くなるような低い声だった。『今回は我々の負けだ。こんな大バカ者でも必要なのでな。闇の魔力か……まだ不完全ではあるが面白い』そう言い終わった途端にフェイの姿が霧散したのよ」
「その言葉の主は……まさか」
冬夜が何か言いかけたところでレアが首を横に振る。。
「この日を境にルナと響に変化が起きたわ。二人とも不完全ながら闇の魔力が使えるようになったの……でも、それはいつ発動するか、どんな威力を秘めているのかもわからない不安定な物だった。翔太朗や学園長が必死に調べていたけどわからずじまい。その日を境に妖精たちの襲来が一気に減ったの、小競り合いみたいなものはあったけれど……。やがて学園を卒業するとすぐに響とルナは夫婦になった。数年後に冬夜くんが生まれたのよ」
「そうだったんですね……」
「でも、冬夜くんが生まれてすぐにルナは病に倒れてしまったの。もともとそんなに体が丈夫ではなかったのもあるけど……私も主治医として全力を尽くしたのだけれど残念ながら……」
俯きながら言葉を絞り出すように話すレアの足元に一粒の滴が落ちる。あふれ出す感情を押し殺すようにきつく手を握りしめている。
「……ごめんなさい。取り乱してしまって」
数分後、気持ちを再びしまい込んだレアが精一杯の笑顔を見せる。
「いえ、両親の過去を教えて頂いてありがとうございました」
目元を赤くするレアを元気づけようと無理に笑顔を作る冬夜。
「ありがとう。久しぶりに彼女に会いたくなったわ。そうだ、冬夜くんの実家にみんなで行きましょう! 明後日、出発に決定!」
「明後日ですか? じいちゃんたちに何も言っていないのでびっくりするんじゃないかな。せめて聞いてから……」
突然の提案に戸惑う冬夜。
「あら大丈夫よ? 少し前にお話しておいたから。『賑やかになるわ』って喜んでおられたわよ。さあ、張り切って準備しないとね」
「マジっすか……」
困惑する冬夜をそのままに子どものように楽しそうな表情になるレア。
「冬夜くんたちも疲れたでしょう? 温泉でも入ってゆっくり休むといいわ。長い話に付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ教えていただいてありがとうございました。それでは失礼してゆっくり温泉に浸かろうと思います。じゃあメイ、行こうか?」
「うん! レアさん、ありがとうございました。また色々なお話を聞かせてください」
「私でよければいつでもいいわよ! いっぱいお話ししましょうね」
ソファーから立ち上がり、冬夜とメイが部屋から出ていくのを笑顔で見送ると、視線をドアから外さずレアが口を開く。
「佐々木、手配はできているわよね?」
「はい、全て完了しております」
間を置かぬ返答と共に音もなくレアの背後に現れた佐々木。
「そう、仕事が早くて助かるわ。一布さんも順調かしら?」
「はい、イノセント家の方々と協力して調査を進めているそうです。冬夜様のご実家への手土産はいかがいたしましょうか?」
「任せるわ。温かい紅茶をもう一杯いただけるかしら?」
「承知いたしました。すぐにご用意致します」
ティーセットを片付けると紅茶を入れ直すために部屋を出る佐々木。訪れた静寂の中、ソファーから立ち上がり天を仰ぐように顔を向けるレア。
「あなたが危惧していた響の暴走が現実になったわ。ねえ、ルナ……彼に託した想い、いえ、あなたが望んだ未来に本当に向かっているの?」
消え入りそうな声で呟いた声は室内に佇む静寂に溶け込んでいく。
ルナが望み、託した未来とは?




