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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第五章 虚空記録層(アカシックレコード)

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第3話 謎に満ちた庭園と現れた女性

「意味深な伝言っすね……佐々木さんならどう考えますか?」

「玲士様のお考えになられることは想像もつきません。ですが、妖精たちの動きがあまりになさすぎることが不気味ではありますね」

「なるほど……わかりました。何が起こってもいいように準備だけはしておくっす」


 佐々木に軽く頭を下げると音もなくその場から姿を消すレイス。


()()()()()()()()()のですが……いえ、考えるのはやめましょう。翔太朗様から承った任務を遂行しなくては」


 小声で呟きながら俯く。顔を上げた時にはいつもの柔らかい笑顔が消え、鋭い瞳に冷たい光が宿っていた。近くにいたスタッフに声をかけると、保養所の奥へ歩き出す佐々木。そして誰もいなくなったロビーには、噴水から流れる水の音だけが静かに響いていた。



「すごく広いお庭なのです! 思いっきり走り回っても怒られないのです!」

「美桜ちゃん、勢いよく走ると危ないよ!」


 自動扉から出ると、ソフィーの制止を振り切って美桜が芝生へ走り出す。正面にはヘリポートのフェンスが見えており、左側はよく手入れされた芝生になっている。隣の敷地との境界線が見えないくらい広々としており、中央辺りの小高い丘には東屋が設置されているのが見える。


「ほんと美桜ちゃんは元気だな」

「そうだね。ソフィーも外で思いっきり遊べて楽しそう」

「それにしても真夏日なのに外にいても全然暑くない。何か仕掛けがあるのか?」


 冬夜の言うようによく晴れた夏の昼下がり。雲一つない青空から太陽がさんさんと光を降り注いでいる。


「ほんとだね、言乃花さんの道場に着いた時は朝なのに今よりもずっと蒸し暑かったもんね」

「そういわれてみたらそうだな。道場の中は快適だったけど、外は暑かった。なら、これはいったいどういう仕組みなんだ?」

「あら? そんなに気になる事かしら?」


 背後から突然声がして驚いて二人が振り返ると、そこには白いジャケットとボトムスを身につけた、颯爽とした女性が立っていた。腰まである青い髪を無造作に束ね、背は芹澤より少し低いくらい、切れ長の大きな目をしており、奥に光る黒い瞳は少年のような輝きを放っている。


「すごいでしょう? この敷地全体を一番過ごしやすい季節の温度に保っているのよ。年がら年中同じだとつまらないから季節に合わせて細かく調整はしているらしいけれど。そうそう、雪を降らせることだってできるのよ」


 胸を張り、ドヤ顔で説明をする女性。誰なのかもわからずあっけに取られている冬夜とメイのことなど気に留めずにどんどん話を続ける。


「私としてはこんな設備いらないって言ったんだけど、翔太朗と玲士が『快適に過ごせる室内から暑かったり、寒かったりする外に出る必要なんかない』って聞かないから。何とかして二人を引きずりだすためにも必要だったのよ。せっかく外でも快適に過ごせるようにしてあげたのにずっと文句ばっかり言うから、二人が外に出た途端に温度いじって雪山にしてあげたわ」

「「そ、そうなんですね」」


 冬夜とメイが何とか声に出した相槌を、聞いているのかいないのかもわからないうちに、謎の女性によるマシンガントークはさらに加速度を増す。翔太朗と玲士に無理やりスキーの板をつけさせて丘の上から突き飛ばしたこと、二人が雪まみれになって戻ってきたところに思いっきり雪玉をぶつけたこと、二人に雪だるまを作らせて自分はさっさと温泉でゆっくりしていたことなど耳を疑うようなエピソードが次々と語られる。


「もう、本当に二人の様子を見せてあげたかったわ。普段から引きこもってばっかりいるから、体力がなさ過ぎて情けないったらありゃしないのよ。玲士はもーっと外に出なきゃダメよねー。この間帰ってきたときも……」

「た、たしかに……ところで……」

「あ! こんなところで話している場合じゃなかったわ! そうそう、温度を変えたかったら佐々木かスタッフに言えば大丈夫よ。それから建物の右側を奥に進んだところにはプールもあるからいつでも使ってね。それじゃあまたね」


 女性は冬夜たちにそう言い残すと手を振りながら保養所の自動扉に向かってスタスタと歩いていった。


「冬夜くん、いったい誰だったんだろう?」

「うん……副会長の身内、だよな……」


 メイと冬夜が呆然としていると丘の上から二人を呼ぶ声が聞こえてくる。


「メイ! 東屋にみんなのおやつがあるよ!」

「メイお姉ちゃん、冬夜お兄ちゃん、早く来ないと食べちゃいますよ! 美桜はおなかが空いたのです!」


 大きく手を振り二人を呼ぶソフィーと美桜。その様子を見た二人は顔を見合わせると小さく笑って歩き出す。

「そういえば昼食を食べそこねたままだったな」

「うん、わたしもちょうどお腹が空いてきたところだったの」

「そういえばメイは……」


 そんな四人の様子を保養所の入り口から覗いている人物がいた。


「ふーん、翔太朗の言っていたのは()()()()()()()()ね。たしかに不思議な魔力を感じるわね」

「奥さま、長旅お疲れ様でございました」

「佐々木、いつもありがとう。ここ(保養所)に来る前に病院に寄ってきたわ。病室で大声出してケンカしているバカ二人(玲士と翔太朗)に雷を落としてやったわよ。私の病院であんな愚行ありえないったら」

「左様でございましたか。奥様もご苦労様でした。準備は整っておりますので、ごゆっくりお休みいただければと思います」

「ありがとう。……そういえばレイスくんはいる? 面白い動きがキャッチしたから彼を呼んでちょうだい。あと冬夜くんたちだったかしら? 夕食の時にでもお話しましょうか。きっと楽しい時間になるわよ」


 小さく口元を吊り上げながら自動扉の奥へ消えていく女性。

 佐々木に漏らした面白い動きとは何のことなのか……

 何も知らない四人はもうすぐ女性の正体を知ることになる。

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