第1話 芹澤の容態と渡された手紙
響の襲撃から数時間後、芹澤を除いた一行は美桜と一布を連れて保養所へと戻ってきた。倒れた芹澤は弥乃と共に財閥が運営する病院へ搬送され、冬夜たちは保養所のロビーで連絡を待っていた。重苦しい空気が支配する中、佐々木のスマートフォンに着信が入る。
「はい……左様でございますか。それでは引き続き玲士様をよろしくお願い致します」
「佐々木さん、芹澤は大丈夫ですか?」
「リーゼさん、ご心配をありがとうございます。今からご説明いたしますね」
待ちきれず駆け寄るリーゼを落ち着かせ、小さく息を吐くとソファーに座る冬夜たちのもとに向け、笑顔を貼り付かせ歩き出す。
「皆様、お待たせいたしました。ただいま芹澤家の主治医より、玲士様の容態について連絡が入りました。命にかかわるようなケガもなく、容態は安定しているとのことです」
芹澤の無事を伝える一報に全員がホッとした表情を浮かべ、肩の力を抜いた。しかし、佐々木が動かないのを見て不安げな視線を向ける。
「ですが、度重なる睡眠不足と過労により、体力を相当失っているとのことです。念のため明日は検査を行い、その後療養を兼ねて数日入院することとなりました。翔太朗様が本日から数日間の予定をすべてキャンセルし、病院へ向かっております。到着までの間、弥乃様に付き添いをお願い致しました。言乃花様、美桜様。今後のことについて弥乃様からご伝言を承っております」
「お母様から? どういった内容でしょうか?」
「はい、『翔太朗さんがこちらに到着するのが早くても明日の早朝になると聞いています。健太郎は鍛錬場の片付け、門下生の指導で手が離せないので、美桜のことをよろしくお願いします』とのことです。お部屋は言乃花様と同室がよろしいかと思いますがいかがでしょうか?」
「私も同室を希望したいと思っていました。よろしくお願いします」
二人の会話を聞いた美桜が大きな目を輝かせながら言乃花を見上げる。
「お姉ちゃんと一緒にいられるのですか?」
「そうよ。しばらくは一緒に過ごしましょうね」
「やったーなのです! いっぱいお話するのです!」
言乃花の隣で飛びはねる美桜。自然と全員に笑顔が生まれると緊迫していた空気も和らぐ。
「それから一布様にもご伝言がございます」
「え? 僕にも?」
「はい、『一布さん、皆様の付き添いありがとうございました。ところで、《《日々の課題》》は終わっているのでしょうか? もちろん鍛錬場の片付けも率先してやっていただけるものと思います。まさか、保養所でのんびりしていたなんて言いませんよね? 佐々木さんから伝言を聞いたらすぐに道場に戻りなさい』とおっしゃっておられました」
「み、皆様、一布はこれにて失礼いたします!」
伝言を聞き終えた一布は、全身から冷や汗があふれ出すと同時にソファーから飛び上がった。冬夜たちに向かい右手を額に当てて敬礼するやいなや、脱兎のごとく走り出すとそのまま入口の自動扉に思いっきり激突する。
「いててて……」
うめき声をあげ、左手で額を抑えながら扉が開くと砂煙を巻き上げ、全速力で走り去っていった。
「一布さん、大丈夫か?」
「うん、すごい音がしていたね。ガラスもビリビリ揺れていたよ」
冬夜とメイが心配そうに入口の方を見ていると、言乃花が冷めた声で言った。
「大丈夫よ。少しぶつかったくらいで怪我するほどやわじゃないわ」
「そうっすよね。誰かさんが毎回吹き飛ばしてもピンピンしているっすもんね」
「レイス、どういう意味かしら?」
「特に深い意味はないっすよ? 言乃花さんこそどうしたっすか?」
少し苛立った様子の言乃花とニヤニヤしながら煽るレイス。お馴染みとなった光景に思わず顔を見合わせ苦笑する冬夜とメイ。
「美桜ちゃん、屋上に大きな露天風呂があるの。一緒に行かない?」
「大きな露天風呂があるのですか? すぐに行きたいのです!」
美桜はソフィーから露天風呂の話を聞くとさっと手を取り、勢いよく走り出した。
「あー! またソフィーちゃんを引きずってる! ちょっと待ちなさい!」
二人の後をリーゼが鬼の形相で追いかける。
「さて、副会長の無事もわかったので、自分は部屋でゆっくりさせてもらうっすよ」
「私は美桜が心配だから露天風呂に向かうわ。メイさんはどうする?」
「そうですね。少しお部屋でゆっくりしたら私も露天風呂に行きます。冬夜くんは?」
「俺も部屋でゆっくりしようかな」
四人がエレベーターに向かって歩き始めた時、佐々木が冬夜を呼び止める。
「冬夜様、少しよろしいでしょうか?」
「ん? 何ですか佐々木さん? ごめん、メイ、またあとでな」
メイたちに声をかけると佐々木のもとへ歩み寄る冬夜。
「お呼び立てしてすみません。玲士様よりこちらの手紙を渡すように言付かっております」
佐々木が懐から取り出したのは一通の白い封筒。
「ありがとうございます。では読ませていただきますね」
中身を取り出し、手紙を読み始めた冬夜。半分ほど読み進めたところで大きく目を開き、全身が小刻みに震え始める。
芹澤が冬夜に宛てた手紙に何が書かれていたのか?




