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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
幕間④

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閑話 美桜の一布観察日記①(中編)

「やったー! 言乃花ちゃんから返事が返ってきたー!」


 道場内のにある八畳ほど門下生専用の休憩スペースから叫び声が響き渡る。


「やっと一布さんの元気な声が聞けたな」

「言乃花さんも素っ気ない態度だけど、きちんと返事するところが優しいな」

「うん、鍛錬の様子を見ていると、師匠夫婦の様に息ピッタリだよね」


 道場に集まっていた三人の門下生はパソコンの前で奇声をあげながら踊る一布の様子を生暖かい視線で見守っていた。


「「「()()()()()連絡が来なかっただけで、この世の終わりみたいな落ち込み方はやめてほしい!」」」


 声を揃え、顔を見合わせ頷き合う三人。


「ふむふむ……一日連絡がなかっただけで落ち込み、返事が来た途端に奇声をあげて気持ち悪いおどりをしているのですっと」

「え、美桜ちゃん!? いつの間にいたの?」

「ふふふ、少し前からいたのです。皆さんの会話は全て聞かせてもらったのです!」


 気配もなくあらわれた美桜に驚く三人にノートを右手に持ち自慢げに胸を張る美桜。


「あ! 大切な伝言を思い出したのです。師範から次の鍛錬を始めるから早急に道場に集合しろと言われていたのです!」

「もうそんな時間? 早く行かないと!」


 慌てて休憩所を飛び出ていく三人。笑顔で手を振り姿が見えなくなると、口元が何か企んでいるように吊り上がる美桜。


「ふ、ふ、ふ、邪魔者は去ったのです。これは、何やら面白そうなことが始まる予感がするのです!」


 美桜の存在に気付くことなく未だ踊り続けている一布へ、さも来たばかりのように声をかける。


「一布お兄ちゃん、なんだかとっても楽しそうなのです」

「美桜ちゃん、見て見て! 言乃花ちゃんから返事が来たんだよ! それに、あなたにしか頼めないことがあるって! できる男はつらいよねー」

「そ、そうなのですね。ところでどんな内容なのです? ちょっと見せてほしいのです」


 手に持っていたノートを近くのテーブルに置くと、奥に設置されたパソコンの画面を、一布を突き飛ばすように押しのけてのぞき込む。


(うわ……お姉ちゃん、絶対に返事するのが鬱陶しくなったからですね)


『こんにちわ、毎日連絡をくれるのはいいけど、一時間おきに送ってくるのはやめてくれない? 私も忙しいからわかるわよね? そこで、今日は一布にお願いがあります。私が夏休みに帰ったら、師範と模擬戦を披露するでしょう? その時に、見事一本取ることができたら、私の用事に一日付き合ってもらうわ。あなたならできるわよね? じゃあ楽しみに待っているから。※報告はいらないからきちんと鍛錬に励みなさい。以上』


(……師範(お父さん)から一本取るってこれは確信犯なのです。よーし、ここは美桜が一肌脱ぐ必要がありそうですね!)

「一布お兄ちゃん、師範(お父さん)から一本取れって書いてあるのです。大丈夫なのですか?」

「美桜ちゃん、この一布に不可能などないんだよ? 愛のパワーは不可能を可能にするんだ! この名言はテストに出るよ!」

「名言じゃなくて()()なのです……」


 呆れる美桜を横目に謎の自信をみなぎらせる一布。


「美桜ちゃん! 言乃花ちゃんの期待に応えるために頑張らないと! 今から師範に手合わせを申し込んでくる! 僕の華麗なる勇姿をしっかり記録しておいてよ!」


 休憩場の襖を勢いよく開けると師範が待つ鍛錬場に向けて一目散に駆け出していく。しばらくすると一布の断末魔に近い叫び声が道場内に響き渡った。


「アハハ! さすが一布お兄ちゃんです! 期待を裏切らないのです! ふふふ、ちゃんと迷言も戦績も面白おかしく記録しておくのです!」


 こみ上げてくる笑いを抑えきれない美桜。お腹を押さえながらノートを手に取ると、師範と手合わせをしている鍛錬場へ向かい歩きだす。


「しっかり記録を残していくのです!」


 美桜の手に握られたノートにはこのように記録されていた。


 〇月×日


 一日連絡がなかっただけでものすごーく落ち込み、返事がきた途端に涙を流ながら変な踊りを踊り出し、大きな叫び声を上げる一布お兄ちゃん。じゃまなので外でやってほしいのです。

 そして、(きっと返事をするのがめんどくさくなった)言乃花お姉ちゃんから出された難題に立ち向かう一布お兄ちゃん。

『愛のパワーは不滅だ!』とか謎の迷言が飛び出すポンコツっぷりは健在なのです!

 師範(お父さん)も嬉しそうに叩きのめしていたので、これからどうなるのか楽しみでしかたないです。

 はたしてお姉ちゃんが帰ってくる夏休み、一布お兄ちゃんにどんな結末が待っているのか……

 あとで言乃花お姉ちゃんにもたーっぷりお話しするのです。

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