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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第四章 現実世界

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第27話 芹澤の罠と近づく対面の時

「響さん……質問をしてもよろしいでしょうか?」

「いいだろう。何が聞きたいんだ?」


 言葉を絞り出すように響へ問いかける芹澤。表情には半ばあきらめのようなものがにじみ出ていた。


「ファースト……いや、クロノスと行動を共にしているのはあなた自身の意志でしょうか?」


 一瞬響の表情が曇ったように見えたが、即座に不敵な笑みに戻り答える。


「面白みに欠ける質問だ、玲士くんらしくないな。無論……自分の意志でもある」

「なるほど、よくわかりました」

「玲士くんらしくないな。さて、おしゃべりの時間は終わりにしようか」


 言い終えた響の漆黒の魔力がどんどん増していき、弥乃の張った結界がミシミシと音を立て始める。すると不意に芹澤が笑い声を上げる。


「はっはっはっ、響さん。どうしてそんなに急ぐ必要があるのですか?」

「言っている意味が分からないぞ」


 怪訝な表情を浮かべ芹澤を殺気のこもった視線で睨みつけるが、意に介さず話を続ける。


「おかしいと思ったんですよ、冬夜くんのトレーニングマシンにだけ干渉してきたときからね」

「何が言いたい?」

「まだお気づきにならないのですか? フェイが使った大技は()()()()()なんですよ、ヤツ一人の妖力では」


 芹澤の放った一言に目を見開く響。


「そんなはずはない……雷神(ライトニング)()裁き(ブラスト)はフェイの切り札のはずだ! 俺が見間違えるわけがない!」

「ええ、たしかに切り札なのは間違いないです。ただしあれは、妖力を補わねば発動できないのですよ。ノルンたちと共闘しているか創造主(ワイズマン)の介入がない限りはね」

「なんだと……まさか、わざと欠陥のあるプログラムを仕込んでいたのか?」


 芹澤の明かす事実に動揺する響。


「その通りです。まさかこんなに簡単に引っかかってくれるとは思いませんでしたが。だが、私には確信があった、あなたなら必ず介入すると! 妖精たちを追いつめた唯一の人間である、天ヶ瀬 響なら!」

「……翔太朗め、余計なことを話したな」

「父からは何も聞いていませんよ。さて……貴重な研究データを前にして取り逃がすわけにはいかない」


 言い終えると同時に芹澤の全身が揺らぎ始める。


「レイスがいないのでどうなろうと責任は持てませんよ」 


 声がすると同時に響が前に大きく翔ぶ。先ほどまで立っていた場所に一筋の光が走り、響の首筋から一筋の血が流れる。


「ちっ、仕留めきれなかったのは残念だ」

「さすがイノセント家の次期当主を身体能力だけでねじ伏せただけはあるな。一瞬でも気を拔いていれば永遠の別れをするところだった」


 小さく息を吐き睨みつけた先には、日本刀のような刃物を右手に構えを取る芹澤がいた。刃先は黄金色に輝く魔力をまとっている。


「本気を出されてはいかがでしょう? 貴重なデータ収集をさせて頂こう!」

「本気を出す? 面白いことを言うな。まるで俺が追いつめられているような言い方だ」

「おや? ご自身の置かれている状況を理解しておられないとは……」

「響さん、少しやりすぎましたね」


 気配を完全に消していた弥乃が響の正面に現れ、胸元のあたりを横一線に切り裂く。すると、ガラスの砕けるような音と共に、赤く輝く球体が鍛錬場の床に鋼のような硬い澄んだ音を響かせて落ちた。


「しまった」


 胸に左手を当て、苦悶の表情を浮かべる。床に両ひざをつくと慌てて落ちた球体を右手で拾い上げる。


「その球体はまさか……」

「俺は……こんなところで立ち止まってはいられないんだ!」

「響さん、やめるんだ! 魔力が乱れすぎている!」


 ゆっくりと立ち上がり固く握られた右手を頭の上に掲げる。その手の隙間から赤い光が漏れ出すと魔力の乱れが徐々に安定していく。


「玲士くんの実力を見誤っていたか……もう少し楽しみたかったが、どうやら時間切れのようだな」


 響が鍛錬場の引き戸へ視線を向けると外から冬夜たちの叫び声が聞こえてきた。


「副会長! 弥乃さん! 大丈夫ですか?」

「引き戸が開かない? まさか結界が張られているの? リーゼ、レイス、結界をぶち破るわよ」

「言乃花、そんなことして大丈夫なの?」

「リーゼさん、悠長なこと言ってられないっす! 一布さん、今すぐメイさん、ソフィーさん、美桜さんを連れて健斗さんのところまで避難してください」

「わかった! みんな、こっちに来て!」


 三人は一布の後に続いて広間のほうへ走っていく。


「巻き込む危険は無くなったっすよ。冬夜さん、三人で全力の魔力をぶつけて結界を破ります。結界が破れたら()()()()()()()を中に向けて一気に解き放ってください!」

「そんなことして大丈夫なのか?」

「問題ありません。冬夜さんにしかできないことっすから!」


 冬夜の声の後、外の魔力が一気に膨れ上がっていくのを結界の中にいる芹澤たちも感じ取っていた。


「響さん、形勢逆転のようですね」


 弥乃が静かに言い放つが、響に動じた様子は見られない。


「冬夜の成長を見られる日が来るとはな……見事に俺を撃ち抜いて見せろ!」

「響さん、あなたは一体何を考えているんだ?」


 困惑を隠せない芹澤と冬夜の成長を楽しむかのような響。

 最悪とも言える対面の時は刻一刻と迫ってきていた。

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