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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第四章 現実世界

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第21話 美桜の登場とトレーニングマシン

 更衣室前の廊下にいる弥乃は広間の方を見つめながら小さく呟いた。


「玲士さん、レイスさんに広間へ向かっていただきましたが、杞憂(きゆう)だったようですね」

「お母様? 《何か問題》が起こったのですか?」


 背後から声を掛けられ振り向くと、真っ白な道着に着替えた言乃花が怪訝な表情をしていた。弥乃は素知らぬふりで笑顔を浮かべて答える。


「何もありませんよ。ほかの皆様は大丈夫ですか?」

「リーゼがメイさんたちに道着の着方を教えていますので、もう少しかかりそうです」

「そうですか。玲士さん、レイスさんはトレーニングマシンの調整のために一足先に向かわれました。そうそう、美桜が到着したと連絡が来ましたよ」

「ほんとですか? 意外と早かったですね」

「ええ、先に鍛錬場で待つように言ってあります」

「わかりました。早く美桜に会いたいわ」


 嬉しそうに頬を緩ませる言乃花。


「言乃花さん、お待たせしました」


 更衣室の引き戸が開くと真っ白な道着を着たメイ、リーゼ、ソフィーが現れる。リーゼとメイは上着を白帯で締め、ズボンのような道着を履いているが、ソフィーは上着のみで腰のあたりで帯を締めていた。


「上着だけ置いてあったので着てみましたが、似合っているでしょうか?」

「ソフィーちゃんの道着姿を拝めるなんて……」


 光悦とした表情を浮かべて涙を流すリーゼ。いつものぶれない様子に額に手を当て、大きなため息を吐く言乃花。


「ソフィー、とっても似合ってるよ! 鍛錬もがんばろうね!」

「ソフィーちゃん、一緒に頑張ろうね!」

「メイ、リーゼさん、ありがとうございます。頑張りましょう!」

「ふふ、皆さん仲がよくて何よりですね」


 目の前に広がる様子に思わず笑みがこぼれる弥乃。


「お待たせしました、って何が起こったんだよ……」


 更衣室から出てきた冬夜が、目の前のカオスな光景に思わず開けた引き戸をそっと閉じようとした。すると、後ろから一布の元気な声がする。


「冬夜くん、ボーッと突っ立ってどうしたの?」

「いや、見慣れた光景というか……」

「あ! 言乃花ちゃんも道着に着替えたんだね! やっぱり似合うな!」


 冬夜の言葉は言い終える前に一布の声でかき消されてしまった。混沌とする状況の中、弥乃が仕切り直すために口を開く。


「皆さん、お話は終わりにしましょう。美桜も到着しましたし、鍛錬場へ向かいますよ」


 ピタリと全員が動きを止め、弥乃を先頭に歩き出す。先ほどの広間を通り過ぎ、奥に進むと正面に「鍛錬場」と書かれた板張りの両開き引き戸が現れた。


「さあ、着きましたよ」

「あれ? 先ほど健斗さんのお話では各グループごとに別れると言われていませんでしたか?」

「疑問に思われるのも当然ですね。今からご説明しましょう。鍛錬場には翔太朗さんからお借りした特殊な機械による結界が施されています。防音、防爆にも対応しておりますので魔法を派手に放っても大丈夫ですよ」

「防音、防爆に対応したって、どんな課題が組まれてるんだよ……」


 笑顔で話す弥乃に対し、顔が引きつっていく冬夜。すると部屋の中から元気のよい声が聞こえてくる。


「お母様とお姉ちゃんの気配がします! 早く中に来てほしいのです」

「はいはい、扉を開けますよ」


 弥乃が引き戸を開けると、ソフィーより少し背の高い、道着を着た可愛らしい女の子が立っていた。言乃花と同じボブの黒髪にピンクの星型ピンを留めている。クリクリとした大きな黒い瞳がキラリと輝き、体からは桜色のオーラがゆらめいている。


「美桜、魔力が漏れているわよ! ちゃんと抑えなさい!」


 美桜を見た言乃花が慌てて(とが)める。


「お姉ちゃん、おかえりなさいなのです! キャー! すごく可愛いうさぎさんがいるのです!」

「ちょっと落ち着きなさい。まだ自己紹介もしていないでしょう?」


 久しぶりに再会した姉とソフィーの姿を見て興奮が収まらない美桜ををたしなめる言乃花。そんな姉を気に留めることもなく笑顔で自己紹介を始める美桜。


「初めましてです。椿 美桜(つばき みお) 十歳です。みなさんと一緒に鍛錬を頑張るのです」


 深々とお辞儀をする美桜の姿を見た言乃花は苦笑いしながら小さく息を息を吐いた。


「美桜さん、メイです。よろしくお願いしますね」

「はじめまして、ソフィーです、よろしくお願いします、美桜ちゃん」


 それぞれが和やかに自己紹介を始める。ふと何気なく鍛錬場の奥に目をやった冬夜は驚愕のあまり声を失う。視界に映ったのは多くの配線が繋がり、二メートルほど高さがある箱型の白い機械。正面に扉のようなものが付いており、二台ずつ等間隔に並べられている。一番奥に設置された機械の隣にはタブレットを片手に険しい表情をしている芹澤。一緒にいるはずのレイスはどこにも見当たらない。


()()()大丈夫だよね……」


 冬夜の背後から不安そうな一布の声が聞こえる。

 一布にトラウマを植え付けたトレーニングマシンと調整をしている芹澤の険しい顔の意味とは?

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