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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

10年若返り薬(ただし記憶もリセットされる)

作者: たなか

 アンチエイジング健康食品の研究をしていたら、かなりヤバいものを作ってしまった。飲んだ生き物を10年分若返らせる薬だ。現状、まだ人間で試すことはできていないけれど、チンパンジーなどの哺乳動物には完璧に作用することが確認された。難点があるとすれば、記憶まで10年前に戻ってしまうということだ。


 考え方によっては実質的な未来へのタイムトラベルを成功させたともいえる。記憶さえ残っていれば人生をやり直すことさえ可能になるのだが、まあそこは後々改良できるだろう。


 ということで大々的に成果を発表する前に、まずは各国のVIP達の前でプレゼンすることになった。目の色を変えて食いついた彼らのおかげで潤沢な研究資金と実験動物(・・・・)が手に入った。今までの数十倍のスピードで研究は進み、ついに人間が問題なく服用できるようになった。


 世界中の大富豪が我先にと気が遠くなるような金額を私の口座に振り込み、その薬を求めた。未だに記憶が失われる副作用だけは、どうしても改善できていなかったのだが、彼らにとっては10年分の知識や経験よりも、日々失われゆく青春を取り戻すことの方が重要なのだろう。


 実際に若返った彼らの多くは……絶望したらしい。


 自分を置いて、世界が10年先に進んでしまった。そのことは薬を飲む前に想像していた以上に堪えたようだ。彼らは、ある程度時間を掛ければ遅れを取り返し、また時代の最先端を走ることができるという風に楽観視していた。だが、そんなことをしている間にも、周囲との差は開き続けるだけだと悟ったのだろう。


 どうしてそんな簡単なことが前もって理解できなかったのか不思議なのだが、それだけ若さというものは人の目を眩ませ、思考を鈍らせてしまうということかもしれない。


 すぐに世間にも経済を、政治を、国を動かしていた重要人物達の失踪は知れ渡った。それからあっという間に社会は崩壊してしまった。どうやら世の中というのは私が思っていたより随分脆いものだったらしい。


 そして、私は今、元合衆国大統領の18歳の少年に銃を突きつけられ暴言を吐かれている。一回目の服用はともかく、ヤケになって薬を飲み続けた責任は彼自身にあると思うのだが、そんな理屈は通用しないだろう。彼の血走った瞳には、以前のような知性も品性も感じられない。全く、これだから最近の若者は。


 ……もし十年前の私に伝言を残すことができるのなら、とりあえず変な研究は止めておけと伝えることだろう。


 パン。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 記憶も十年無くなるのなら最後の大統領は復讐の対象が分からないのでは? そもそも自分が権力者だったことすら分からないのに復讐心なんて芽生えるのか?
[良い点] たかが10年分、身体が若返るだけなのに、この10年間頑張ってできるようになったことがリセットとかないわーないわーアンドないわー!!!となりました。 ピンク髪ツインテも、自分の中にいる各キャ…
[一言] >すぐに世間にも経済を、政治を、国を動かしていた重要人物達の失踪は知れ渡った。それからあっという間に社会は崩壊してしまった。 つまり、ある程度の「老害」よりも、その不在の方が社会にとっては…
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