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悪役令嬢は肉が食べたい!  作者: 枝豆@敦騎
20/23

19

ドードンが行方不明になったという知らせを受けたその夜。

ユミルは侍女を下がらせ自分の部屋に入ると、背を扉に預けずるずると座り込んだ。


本当は誰よりも不安で泣き出してしまいそうだった。

大事な父の行方も安否も分からないと言われれば、中身がいくら転生者で大人であったとしても不安を感じないわけがない。

気を張っていたのだ。


自分が踏ん張らなければ屋敷の皆が不安になるからと言い聞かせ、我慢した。

その反動が今になってやってくる。


(私がもっと乙女ゲームの知識を持ってたらお父様が事故に遭う事を、覚えていたら……こんなことにはならなかった。私がもっとしっかりしていれば……)


膝を抱えて震えそうになる心を叱咤する。


(たらればを考えていたって意味ないわ。私は、私に出来ることをするだけよ)


不安が消えた訳じゃない。

けれど泣いても喚いても父が今すぐ戻ってくる訳じゃない。


(きっと無事よ……大丈夫、お父様はきっと戻ってくる)


何度も自分に言い聞かせていると部屋のドアが軽くノックされた。

のろのろと立ち上がりゆっくりドアを開けると、そこには湯気のたつカップをトレーに乗せたラスが立っている。


「失礼します。お疲れかと思い、ホットミルクをお持ちしました」


ラスはユミルが招き入れるより先に部屋に入ると、テーブルにカップを置く。


気にかけてくれたという喜びと気を遣わせてしまったという申し訳なさで、どんな顔をしていいか分からずユミルはただ小さく礼を述べソファーへと腰掛けた。


「お嬢様、あんまり頑張らなくていいんですよ」


不意に声をかけられ顔をあげると困ったように笑うラスがいる。

一瞬、このまま甘えてしまいたい衝動に駆られた。


「駄目よ、ラス。今は私が頑張らないといけない時だもの」


ユミルはゆっくりと首を横に振る。

彼はきっとユミルが無理をして公爵家を纏めようとしているのを感じ、ユミルがそれを背負う事はないと慰めに来たのだろう。


けれどユミルはそれを良しとしない。


「ラスは私が子供だから『頑張らなくてもいい』って、逃げる口実を与えてくれるのでしょう?私を心配してくれるからこそ、そう言ってくれる気持ちはとても嬉しいの……でもね」


それでは駄目だとユミルは告げる。


「私は今こそ頑張るべきだと思うの。多少無理をしてでも」

「お嬢様……」


顔を上げたユミルは泣きそうだ。

それでも精一杯に微笑む。


「逃げることも目を背けることもいつだって出来るわ。でも今頑張る事は『今』しか出来ないの。子供だろうと大人だろうと、それって同じだと思うわ……私はこんな時だから頑張りたいって思うの」


ユミルなりの決意なのだろう。

公爵令嬢として、家族の一員として、この家を支えるのだと。


ラスはそんな彼女の顔を見つめていたが、不意に傍らに膝をついてそっと小さな手をとった。


「ラ、ラス?」


行動の意味が分からず困惑するユミルの手の甲にそっと唇を寄せる。


「……っ!」


突然のことにユミルは驚き息を飲む。


「お嬢様、私は貴女の執事です。この小さな手に持てない物も、私がしっかりとお持ちします。お嬢様は一人ではありません、私にも一緒に頑張らせてください」


『頑張らなくていい』ではなく『一人で抱え込まなくていい』と言葉を変えたものの心配な気持ちは変わらないのだろう。

一緒に、という言葉にユミルは暖かさを感じた。


しかし手の甲に口付けというのはまるで物語の騎士か王子のようだ。

恥じらいに頬を染めつつもユミルは誤魔化すように視線を反らす。


「振り回してごめんなさい……でもありがとう。ラスのこと、頼りにしてるから」

「安心してください。私はとっくにお嬢様にふりまわされていますので」

「ちょっ……!?それどういう意味よ!?」


せっかくお礼を言ったのにこの従者は相変わらず、自分に対して口が悪い。


「おや?自覚がありませんでしたか?これはいよいよお医者様にお見せしないと……」

「もうっ!!ラスッ!!」


ポカポカと軽く拳をぶつけてくるユミルはすっかりいつもの調子に戻っていた。




少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら下の☆☆☆☆☆をぽちっとしていただけると嬉しいです。

モチベーションが上がれば更新が早くなるかもしれません(多分)

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