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悪役令嬢は肉が食べたい!  作者: 枝豆@敦騎
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その日、三時間程度の討伐訓練で現れた魔物は合計十匹。

兎や蛙、トカゲの形をした魔物ばかりでユミルの求める牛に似た魔物は現れなかった。

一応これらの魔物も食用に出来るか調べるとのことで肉の一部を持ち帰ることになったがユミルは不満げだ。


「今日は牛っぽい魔物出なかったわね……」


その言葉にラスは眉を寄せる。


「あんなのがほいほい出てきたらたまりませんよ」


その直後、ユミル達の背後にある茂みがガサリと音を立てた。


「ディーダ嬢、お下がりください」


ローツが直ぐ様反応し剣を構える。

同時にラスもユミルを庇うように前に出た。

なにかが近付いてきてるのか、ガサガサと茂みは次第に大きく揺れる。


警戒するローツの前に大きな影がぬっと現れた。


「……っ!?あなたは……!」


魔物かと剣を振り上げかけたローツは影の正体を見ると慌てて剣を引く。


「なに?何が出たの……?」


ローツとラスの間からそっと顔を覗かせたユミルはぎょっと目を見開いた。

そこにいたのは騎士団長の息子であるアシュトンだったからだ。

相当急いで来たのか呼吸は荒く、額には汗が滲んでいる。


「アシュトン、なぜここに?」


ライアンをはじめとした他の騎士達もアシュトンの登場に何事かと集まってきた。


「っ、い……だ!……こ、しゃ……げほっ」


何かを伝えようと口を開くも噎せ反り上手く喋れていない。


「落ち着いてくださいアシュトン。ほら、水ですよ」


ローツが水の入った皮袋を差し出すとアシュトンはそれを受け取り一気に飲み干す。

そして深く息を吐き出すとユミルを見つめてこう告げた。





「……ディーダ嬢、今すぐ家に戻れ。あんたの父親が……ディーダ公爵が事故に遭って行方不明になった」










△△△△



ユミルとラスが慌てて公爵家に戻ると、アネッサが待っていた。

同じ知らせを受けたようで顔色は悪い。


「お母様……!」

「ユミル……お父様が……」

「事故に遭って行方不明になったって聞いたわ」


ユミルの言葉にアネッサは娘をぎゅっと抱き締める。

その腕は震えていた。

公爵であるドードンは領地の視察に行く途中で魔物と遭遇したという。逃げる際に大木にぶつかり馬車が壊れ護衛と御者は重症、ドードンは行方不明だという。


「あの人に何かあったら……私は……」


絞り出すようなその声にユミルはアネッサの体をしっかりと抱き締め返して声をかける。


「お母様、落ち着いて。お父様ならきっと大丈夫よ。それに今はお母様の方が倒れてしまいそうだわ、少し休んで」


ユミルは近くの侍女にアネッサの介抱を頼むと、応接室に残りの使用人と伯母であるトリア、義姉のミルファ、義兄のジェダルを集めた。

応接室に集まった彼らは皆不安そうな顔をしている。


当たり前だ。

ディーダ公爵家の中心人物が行方不明なのだから。


ユミルはひとつ深呼吸すると使用人と家族の顔を見回して力強く告げた。


「私はお父様が必ず戻ってくると信じているわ。事故に遭ったとは聞いた。けれど……遺体が見つかったとは聞いてないもの。お父様は必ず戻ってくる。だからそれまで、皆の力を貸して欲しいの」


ユミルの言葉に数人の使用人が息を飲む。


「お父様が帰ってくるまで当主代理はお母様が勤めることになると思う。でも、今のお母様がそれをこなすことは難しいわ。だから……お母様の侍女である人達はトリア伯母様と一緒にお母様を補佐してあげて欲しいの」


「お嬢様、私も奥様の補佐につかせていただきたく思います」


真っ先にユミルに頭を下げたのはドードンの執事ロイだ。

彼が誰よりも長くドードンを支えてきたことをユミルは知っている。


(ロイならお母様を任せても安心だわ)


ユミルがロイの申し出を了承するとトリアが申し訳なさそうに口を開く。


「あの……私に補佐ができるとは思えないのですが……」


トリアは貴族になって日も浅い。

それは承知の上だ。


「伯母様にはお母様の心を支えて欲しいの」

「心……?」


ユミルは首を傾げるトリアに近付くとそっとその手を握る。


「お母様は今きっと、凄く不安なはずだわ。一人でいると悪い事ばかり考えて気落ちしてしまうかもしれない……だからトリア伯母様には、出来るだけお母様の傍にいて話を聞いてあげて欲しいの。誰かと話していると不安な気持ちは和らぐと思うから」

「……私にできるなら、やります。お任せ下さい」


そっと手を握り返したトリアに微笑みかけ、ユミルは他の使用人にも笑顔を向ける。


「他の皆にはいつも通り過ごして欲しいの。いつお父様が帰ってきてもいいように」


この中で一番幼いユミルが毅然と、皆が安心できるように振る舞っているのだ。

それを見た使用人達は敬意を込めて「畏まりました」と一斉に頭を下げる。




ただ一人、ラスだけは眉を下げユミルを見つめていた。




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