表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/129

3. エンジュとエレノア

 


 旅を始めた俺達が揉めている頃、エレノアとエンジュは女子二人で楽しんでいた。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「エンジュってば買い食いばっかり」


「うう、だって美味しいんだもん。ユキツネ様の料理には負けるけど」


「そうね。エルフの村は、簡単な料理ばかりだったから、外の世界は美味しい物で溢れていると思っていたわ。でも、ユキツネの料理は特別だったのよね」


 私はずっとエルフの村で暮らしていて、あんまり外には出なかった。だからユキツネの作る料理が、特別美味しいとは知らなかった。ユキツネの故郷の調味料、味噌と醤油。エルフの村で出来る恩返しのつもりで、試しに作って欲しいと言われ、作った。


 失敗しても気にしないってユキツネは言ったけど、何も持たない私達を受け入れてくれたユキツネの為に、村の人は頑張った。最初は多くのダイズを無駄にしたけど、何とか形になった物を見て喜んだ。


 工夫を重ねて作って行くうちに、とても味わい深い物が出来た。味噌と醤油は魔法の調味料で、何にかけても美味しくなる。今では味噌と醤油無しでは、エルフの食卓は成り立たない。単なる塩味と違い深い味になる。


 ダイズで作る豆乳プリンも、皆の大好物だ。それにユキツネが食べている、お米から出るぬか。これで野菜を漬けると美味しくなる。極めつけは小豆。ダイズと似ている豆で、砂糖と塩を入れるとあんこが出来る。ユキツネがもち米で作った団子に掛けた物は最高だった。


 お城で出ている料理の数々も、ヒ・イズル国の国民は大好きだ。城で食べた人が街でも再現して作っている。でもユキツネが直接教えている城の味には敵わない。


 こうして食べ歩きをしていても、物足りなく感じてしまう。それにつけても。


「エンジュは食べ過ぎだよ。苦しくならないの?」


「えへへ。以前はいっつもお腹を空かせていたけど、今は好きなだけ食べられるし。お城ではお金も貯まったしね」


 城で働くエンジュは食堂でご飯を食べる。一番お金をつぎ込んでいた食費が浮いて、貯金があるみたい。私もお店が大きくなって貯金が貯まっている。エルフの生活ではそんなにお金を使わないから、私もお金持ちになった。昔は金貨一枚で大騒ぎしていたのに。


 でもこの調子で旅を続けると、エンジュはお金が無くなってしまうんじゃないだろうか。


「けっ、異民族が大きな面して歩いてやがる」


 不意に男が絡んできた。三人組で厳つい見た目に、他の人はこそこそ逃げ出す。西の大陸は異民族に嫌悪感が少ないので、顔を隠して歩いていなかった。東の大陸ではトラブルを避けるため、常に顔を隠していたけど。でも何処にだって嫌な人はいるものだ。


「エルフと獣人かよ。珍しい取り合わせだな」


「はぐれ者どうし、気があったんだろう。しかも女二人とか」


「良いねえ。仲良くしてやるぜ?俺達優しいからよう」


 下品な顔で道を塞ぐ。旅先で油断しすぎた。何時もは気をつけていたのに。


「はあ?!ぶっ細工は不細工どうしで仲良くなさい、です」


 エンジュが煽るような発言をした。男たちは顔を赤くして怒りだした。


「こいつ!!痛い目見せてやる!」


 エンジュに掴みかかった男の腕を、エンジュは引き寄せてなぎ倒す。男は簡単に地面に転がった。


「このアマ!」


 後ろの男が襲いかかるが、エンジュはふわりと飛んで、回し蹴りをした。脇腹に当たり男は転がる。更にもう一人も襲いかかると、エンジュは男の腹に飛び込み、パンチを何発か繰り出す。男は腹を抱えてしゃがみ込む。騒ぎを聞き付けて警備兵がやって来た。


「こら!街中で暴れている奴は何処だ!」


 するとエンジュはすかさず泣き真似をした。


「うぇーん、怖かったですぅ。男がいきなり襲いかかって来たんです」


「お前ら、こっちへ来い。じっくり話を聞いてやる」


「旦那、そりゃ無いぜ。その女が殴りかかって来たんですぜ」


「でたらめ言うな!他の市民からも通報があったんだ。今夜は留置場で頭を冷やせ」


 男三人は引きずられていった。私は余りの出来事にポカンと立ち尽くしていた。


「エ、エンジュ凄いわ。私は何も出来なかったのに」


「女の子の旅は危険なので、これくらいは対処出来ないと、生きていけなかったの」


 エンジュは以前は主に食費を稼ぐべく、一人で旅をしていた。色んな危険な目にも会ったらしい。私は常に目立たないように、旅先では息を潜めるのが精一杯だった。獣人は腕力が有るものね。


「エレノアは私が守ります。だって大切なお友達だもの」


 ジンと胸が熱くなる。エルフの村に居なかった年の近い女の子。私にとってもエンジュは特別な存在だ。犬の獣人であるエンジュは、感情が素直に尻尾に出る。笑顔で尻尾をふる姿に偽りは無い。


「私もエンジュが困っていたら力になるわ。もっともあんまり役には立たないかも知れないけど」


「ううん。エレノアが居てくれるだけで心強いよ。知り合いのいない場所で、たった一人で暮らすのは最初は不安だったもの」


 エンジュはお金を稼ぐ為に、獣人の村を飛び出したんだ。でも直ぐに行き詰まって倒れていたのよね。私も両親とはぐれてしまったけど、村の皆が一緒だったから寂しくはなかった。


 私も嬉しい。こんな風に友達と旅をして、笑い会えるのが。それもこれもユキツネのお陰なのよね。ユキツネがいなかったら、私は今も生きていられるか分からなかった。エルフの皆はそう思っている。何時もは軽口を開いているけど、本当に感謝はしているの。


 ユキツネの為に村の皆が協力して、転移の魔法やカバンを持たせるのも、私がユキツネを全力でサポート出来るように、皆が協力してこそだ。私達エルフが魔力が多くても、毎日転移の魔法を使うのは大変なのだ。けれどエルフの皆が感謝して、祈りを捧げてくれるから、転移門やカバンが何時でも使える。まあ流石に転移門は、此方にも出入口が必要なので頻繁には使えない。


 私のお母さんも冒険者だった。だからきっとこの広い世界できっと冒険を楽しんでいるはず。昔話してくれたダンジョンやドラゴンの話。大半が信じられないものばかりだけど、旅をすると色んな出来事がある。村で生活していたら出会えなかったもの。


 お母さん、お父さん。私は元気です。いつかこの広い大地で、再び出会えたら良いと祈っています。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ