3. エンジュとエレノア
旅を始めた俺達が揉めている頃、エレノアとエンジュは女子二人で楽しんでいた。
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「エンジュってば買い食いばっかり」
「うう、だって美味しいんだもん。ユキツネ様の料理には負けるけど」
「そうね。エルフの村は、簡単な料理ばかりだったから、外の世界は美味しい物で溢れていると思っていたわ。でも、ユキツネの料理は特別だったのよね」
私はずっとエルフの村で暮らしていて、あんまり外には出なかった。だからユキツネの作る料理が、特別美味しいとは知らなかった。ユキツネの故郷の調味料、味噌と醤油。エルフの村で出来る恩返しのつもりで、試しに作って欲しいと言われ、作った。
失敗しても気にしないってユキツネは言ったけど、何も持たない私達を受け入れてくれたユキツネの為に、村の人は頑張った。最初は多くのダイズを無駄にしたけど、何とか形になった物を見て喜んだ。
工夫を重ねて作って行くうちに、とても味わい深い物が出来た。味噌と醤油は魔法の調味料で、何にかけても美味しくなる。今では味噌と醤油無しでは、エルフの食卓は成り立たない。単なる塩味と違い深い味になる。
ダイズで作る豆乳プリンも、皆の大好物だ。それにユキツネが食べている、お米から出る糠。これで野菜を漬けると美味しくなる。極めつけは小豆。ダイズと似ている豆で、砂糖と塩を入れるとあんこが出来る。ユキツネがもち米で作った団子に掛けた物は最高だった。
お城で出ている料理の数々も、ヒ・イズル国の国民は大好きだ。城で食べた人が街でも再現して作っている。でもユキツネが直接教えている城の味には敵わない。
こうして食べ歩きをしていても、物足りなく感じてしまう。それにつけても。
「エンジュは食べ過ぎだよ。苦しくならないの?」
「えへへ。以前はいっつもお腹を空かせていたけど、今は好きなだけ食べられるし。お城ではお金も貯まったしね」
城で働くエンジュは食堂でご飯を食べる。一番お金をつぎ込んでいた食費が浮いて、貯金があるみたい。私もお店が大きくなって貯金が貯まっている。エルフの生活ではそんなにお金を使わないから、私もお金持ちになった。昔は金貨一枚で大騒ぎしていたのに。
でもこの調子で旅を続けると、エンジュはお金が無くなってしまうんじゃないだろうか。
「けっ、異民族が大きな面して歩いてやがる」
不意に男が絡んできた。三人組で厳つい見た目に、他の人はこそこそ逃げ出す。西の大陸は異民族に嫌悪感が少ないので、顔を隠して歩いていなかった。東の大陸ではトラブルを避けるため、常に顔を隠していたけど。でも何処にだって嫌な人はいるものだ。
「エルフと獣人かよ。珍しい取り合わせだな」
「はぐれ者どうし、気があったんだろう。しかも女二人とか」
「良いねえ。仲良くしてやるぜ?俺達優しいからよう」
下品な顔で道を塞ぐ。旅先で油断しすぎた。何時もは気をつけていたのに。
「はあ?!ぶっ細工は不細工どうしで仲良くなさい、です」
エンジュが煽るような発言をした。男たちは顔を赤くして怒りだした。
「こいつ!!痛い目見せてやる!」
エンジュに掴みかかった男の腕を、エンジュは引き寄せてなぎ倒す。男は簡単に地面に転がった。
「このアマ!」
後ろの男が襲いかかるが、エンジュはふわりと飛んで、回し蹴りをした。脇腹に当たり男は転がる。更にもう一人も襲いかかると、エンジュは男の腹に飛び込み、パンチを何発か繰り出す。男は腹を抱えてしゃがみ込む。騒ぎを聞き付けて警備兵がやって来た。
「こら!街中で暴れている奴は何処だ!」
するとエンジュはすかさず泣き真似をした。
「うぇーん、怖かったですぅ。男がいきなり襲いかかって来たんです」
「お前ら、こっちへ来い。じっくり話を聞いてやる」
「旦那、そりゃ無いぜ。その女が殴りかかって来たんですぜ」
「でたらめ言うな!他の市民からも通報があったんだ。今夜は留置場で頭を冷やせ」
男三人は引きずられていった。私は余りの出来事にポカンと立ち尽くしていた。
「エ、エンジュ凄いわ。私は何も出来なかったのに」
「女の子の旅は危険なので、これくらいは対処出来ないと、生きていけなかったの」
エンジュは以前は主に食費を稼ぐべく、一人で旅をしていた。色んな危険な目にも会ったらしい。私は常に目立たないように、旅先では息を潜めるのが精一杯だった。獣人は腕力が有るものね。
「エレノアは私が守ります。だって大切なお友達だもの」
ジンと胸が熱くなる。エルフの村に居なかった年の近い女の子。私にとってもエンジュは特別な存在だ。犬の獣人であるエンジュは、感情が素直に尻尾に出る。笑顔で尻尾をふる姿に偽りは無い。
「私もエンジュが困っていたら力になるわ。もっともあんまり役には立たないかも知れないけど」
「ううん。エレノアが居てくれるだけで心強いよ。知り合いのいない場所で、たった一人で暮らすのは最初は不安だったもの」
エンジュはお金を稼ぐ為に、獣人の村を飛び出したんだ。でも直ぐに行き詰まって倒れていたのよね。私も両親とはぐれてしまったけど、村の皆が一緒だったから寂しくはなかった。
私も嬉しい。こんな風に友達と旅をして、笑い会えるのが。それもこれもユキツネのお陰なのよね。ユキツネがいなかったら、私は今も生きていられるか分からなかった。エルフの皆はそう思っている。何時もは軽口を開いているけど、本当に感謝はしているの。
ユキツネの為に村の皆が協力して、転移の魔法やカバンを持たせるのも、私がユキツネを全力でサポート出来るように、皆が協力してこそだ。私達エルフが魔力が多くても、毎日転移の魔法を使うのは大変なのだ。けれどエルフの皆が感謝して、祈りを捧げてくれるから、転移門やカバンが何時でも使える。まあ流石に転移門は、此方にも出入口が必要なので頻繁には使えない。
私のお母さんも冒険者だった。だからきっとこの広い世界できっと冒険を楽しんでいるはず。昔話してくれたダンジョンやドラゴンの話。大半が信じられないものばかりだけど、旅をすると色んな出来事がある。村で生活していたら出会えなかったもの。
お母さん、お父さん。私は元気です。いつかこの広い大地で、再び出会えたら良いと祈っています。




