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2. トラブル・メーカー

 

 西の大陸。この世界グリフィルワーナは四つの大陸とその他の島々から出来ている。大きな東の大陸と西の大陸。その間の少し北の方にある北の大陸。少し離れて南の方にある南の大陸。南の大陸は距離があるのでたどり着く事さえ難しい。だが、ある冒険家が西の大陸にたどり着き、転移門を造る事に成功したので交流が始まった。まあその間にも人の住む場所があるかもしれないが、現在の大まかに解明されているのは四大陸の存在である。


 エレノアの話によれば南の大陸はごく最近存在が確認された大陸だ。遥か遠く海を渡り西の大陸にたどり着いた冒険家がいた。転移門の設置に成功し、僅かながらに交流があるそうだ。まあ俺は南の大陸に行くことは無いだろう。多分、きっと。


 今回の旅は西の大陸から北の大陸に渡るルートだ。旅の目的である「竜の涙」はそう簡単に発見されないものだ。それを手にいれた者は凄い力を得るらしい。カミルの言い分なので怪しいものだ。だがカミルが仲間から聞いた信憑性のある話だと主張する。西の大陸でも多くの冒険者が探し求めるお宝なんだと。


「でも竜の涙って大変なお宝なんだろう?俺達で見つけられるのか」


「ふふん、貴様にはドラゴンであるこのカミル様がついているのだ。普通の人間では無理かも知れんがな」


 自信満々のカミルだ。何時も得体の知れない自信に溢れているが、俺はカミルの活躍をまだ見たことがない。…… バッタ相手にちょっとは活躍したか。でも多勢に無勢で結果としては役には立っていなかった。俺にはテオがいるから護りはばっちりだし。


 西の大陸に設置した転移門から近い場所で竜車を借りた。御者と護衛三名が漏れなく付いてくる。正直護衛は不必要だが、これは御者の安全の為の最低限のセットだ。金はあるから心配は要らない。跳ねるように走る地竜の振動を打ち消す、魔法のかかった竜車は平原をひたすら進む。

 大きな街に向かう街道には必ずキャンプ場が備えてある。といっても井戸と釜戸にベンチ、テーブルがあるだけ。簡易テントを組み立て寝床を用意してくれる。護衛は交代で寝ずに番をする。


「腹ペコだよ。美味しいもの作ってよ」


「ううう、お腹と背中がくっついちゃいます。ユキツネ様」


 エンジュはずっと木の実を少しずつ食べていた。何せ旅をするのに大量の食料は持ち歩けない。少しは大食いを控えてもらわねば。テントの設置はやってくれるが食事の用意は自分達でする。美味しいものが食べたいなら料理人を雇わねばならない。だが、旅の間は俺の料理が期待されている。移動中なので簡単にベーコンとキャベツの炒めものとスープ。


 パンはエレノアが持つ袋に、エルフ村から毎日決まった時間に大量に送られてくる。転移門と同じ魔方陣が使われていて、リクエストすれば他のものも送ってくれる。パンは主にエンジュが食べるからだ。


 エルフの村からは秘密の転移門で、登録された場所に移動できるので、食料不足でも他国から小麦粉を仕入れて焼いてくれる。ヒ・イズル国でもエルフ村は特別で、他の種族はおいそれとは立ち入れない。俺は王様だから入れるけれども。エルフには秘密が一杯ある。


 ジュワっとベーコンが焼けると、キャベツと人参少々。砂糖、醤油、胡椒で味付けと至ってシンプルだ。しかし醤油の香りに護衛の三人の目が釘付けになる。固いパンと簡単なスープと干し肉が旅の友である彼等は、羨ましそうに眺める。


「よかったら食べるか?」


 御者のおっちゃんも呼んで各々が持っていた皿に、料理を分けてやった。


「うっめー!この肉なに?後この調味料」


「このパン何でこんなに柔らかいの?」


「やべえ、この味やべえよ」


 固いパンを囓っていた四人はすっかりエルフのパンが気に入った様子。エンジュは大量のパンとスープの鍋をキープしている。


「ユキツネの料理は美味いな」


 カミルはお腹を撫でて満足げである。全員が満足したので就寝。女性陣は馬車の中で俺とテオはテント。そうして大きな街にたどり着いた。街の名はゼルラド。この国の首都を目指すなら、殆どの者が立ち寄る場所だ。ここで滞在してから首都を目指す。この街から首都までは定期的に馬車が出ているので、予約をして馬車に乗る。個人で首都に入ると色々面倒だけど、この街で身分証やら表示しておいて馬車に乗れば、スムーズに首都に入れる。


 夕方に街につき、宿を取る。翌日は丸一日観光に当てる。エレノアとエンジュは二人で行動。俺とテオ、カミルは一緒になるわけだが。


「お前も来るのか」


「獣が。私はユキツネのペットだから当然ユキツネと一緒に行動するぞ」


 正直カミルには女子チームに混ざって欲しいが、そこはペットを強調する。テオと仲が悪いのだから、別行動が良いのではなかろうか。


 ふらふらと街を探索すると、カミルはあちこちの珍しい物に興味を示す。人間の街は面白い、と楽しそうだ。落ち着きの無いカミルの様子に、すっかり父親の様な気分だ。


「ユキツネ、これ買って」


「あーはいはい。少し落ち着け」


 エレノアには何時も面倒を見てもらう形だったが、カミルは見守ってやらねばならない。それはそれで悪くはないな、と思った。

 不意に背後から男がふらふら歩いて来て、カミルにぶつかった。


「いってえ!なにしやがんでえ小娘!!」


 勝手にぶつかって大袈裟によろける大男。どう見ても無理がありすぎる。


「この落とし前をどうやってつけるつもりだ?利き腕を痛めたじゃねえか」


「馬鹿者が!この可愛い私にケチをつけるな」


「おう、そこのあんちゃん。あんたがこの娘の関係者だろ。責任持って金払えや」


 言いがかりも甚だしい。カミルがいい服を着ているから、お嬢様だと思って吹っ掛けて来たのか。そしてそのお付きである俺が弱そうだ、と。納得は行かないが服装だけ見れば、格下の従者とでも思ったのか。


「ユキツネ、こいつぶったおしてもいいか?」


 カミルが物騒な物言いをする。見た目は少女でもカミルは相当な腕力がある。重い荷物をヒョイとメイドの目の前で、持ち上げた時は焦ったものだ。


「カミル待て。お前がやると洒落にならん」


 そう、俺の背後には無口で怖いお兄さんが控えているんだぞ。普段は気配を消しすぎて、同行者と思われないみたいだ。


「おるぁ!無視すんなや!」


 俺に掴みかかろうとした瞬間、ざっと割って入る影。胸ぐらを締め上げ、力を入れれば男はつま先立ちの格好になった。


「こいつに触るな」


 テオが力を入れて男を放り投げれば、地面をゴロゴロと転がった。流石だテオ。だけどやっぱりこいつ呼ばわりか。


「畜生、覚えていろ!」


 チンピラらしい決め台詞を吐き捨て去っていった。うむ、頼もしい用心棒である。それにしてもカミルが加わった事でトラブルが増えたような。


 旅の行く末が心配だ。




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