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1.初めの一歩

 

 荒野を駆けるのは一匹の地竜。ウサギのように立派な後ろ足。やや短い前足で地面を蹴って走る。後ろに繋がれた荷台には振動が余り伝わらない様に調節してあるらしい。


「やっぱり地竜は早いわね」


「以前に使ったのは歩くのが遅い種類だったけど、これは早いタイプだから」


 俺達は旅に出た。エレノアとエンジュ、テオとカミル。何でこのメンバーかって?エレノアとエンジュは冒険者に成りたかったからだ。特にエンジュはメイドとしては役立たずなのを気に病んでいた。だから冒険者に成りたかったのだ。


 だからと言って仲間もおらず経験もないから、いきなり冒険者にはなれなかった。そこに今回の旅の話が出た。エレノアは当然一緒に行くと言った。そしてエンジュも行きたいと手をあげた。


 長い旅になる。此方へ来てからの俺の人生は予想外だ。そもそもの始まりはカミルの発言だった。





 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽





「ユキツネは弱っちいから、もっと強くなった方がいいのだ」


「カミルは突然なんなんだ」


「だってユキツネが居なくなったら、私のペットとしての立場が危ういではないか。私はこの暮らしが気に入っているのだ」


 そもそも俺はカミルをペットだと認めてはいない。城の皆にペットだと触れ回るのは迷惑だ。外向きには訳あって家で暮らす事になったとしている。


「だからユキツネは強くなった方がいい。実はあっちの大陸に竜の涙と呼ばれる秘宝があるのだ」


「竜の涙?」


「それを手に入れればユキツネが強化されるぞ」


「竜の涙………… だったらカミルが泣いたら出てくるんじゃないのか」


「ばっ、馬鹿者。竜の涙は人間が付けた名称だ。とても綺麗な宝石らしいのだ」


 そんな面倒くさい真似はしたくない。不確かな宝石を探す旅とか何処ぞの冒険話だ。一体何ヵ月いや、何年かかるのだろう。


「興味深いな」


 おっと庭にいるテオが何故か食いついて来たぞ。


「だろう。そこの獣は多少強いかも知れんが、ユキツネは脆弱すぎる。油断したら直ぐに死んでしまうかも知れん」


 酷い言われようだ。確かに貧弱だが、これでも以前よりは体力が付いた。だがこれから寒くなる。寒い時期はおこたでみかんを食べていれば生きて行ける。


「まあまあ、カミルも此方に来てみかんでもどうだ?」


「う、うむ。みかんは美味しいな」


「煎餅も作ってみたんだ。餅米を潰してこねて乾かして。焼いて醤油で味付けしたんだ」


「うん、歯応えがあって美味しいな。甘くないお菓子か」


 テオは縁側で煎餅を食べる。ついでにエルフが作ってくれた緑茶もそれぞれ飲んでもらう。


「ペットとは良いものだな。何もせずともこんな生活が出来るなんて」


 まだ電源は入れていないが足元が暖かくなり、だんだんカミルは蕩けていった。


「そうだろう?冬は寒いからこうやってこたつでゴロゴロするのが一番なんだ」


 冬場は引きこもりの本領発揮だ。ネットやテレビが有ればもっと楽しめるのだが。


「おっと違うぞ、こんな事をしに来たのでは無いのだ。ユキツネを強くするのだ」


 ちっ、忘れていなかったか。俺は本来出不精なのだ。王様生活も面倒くさいが、わざわざ長旅をする必要はない。一応今は平穏だからこのままでいたい。


「ユキツネだって直ぐに死にたくはないだろう?旅の間は守ってやるのだ。心配するな」


「ユキツネを守るのは俺の仕事だ」


 テオが割って入って来た。前々から思っていたけど、この二人仲が悪いよね。そもそもテオが拾って来たのにさ。カミルが偉そうだから気に入らないのかな。まあ哺乳類と爬虫類だから大分違うな。………… そもそもテオは哺乳類ですら無いのか?そんなこんなでこの話は立ち消えになったと思っていたさ。




「ユキツネ、旅に出るのね?」


 翌朝エレノアが期待に満ちた眼で聞いてきた。そうだった。エレノアは旅に出たいんだった。はぐれた両親の情報を少しでも得るために。


「た、旅ですか。私も出たいです!」


 エンジュが参戦する。エレノアは兎も角エンジュが旅に?その理由を聞いてみた。


「私は今はメイドとして働かせてもらっていますが、本当は冒険者になりたいんです。でも一人では実績もなく出来ないですし、不安でもあります。皆さんと一緒なら安心ですし」


 ドジでそそっかしいエンジュは冒険者になりたい様だ。獣人は人よりは力が強く体力もあるので、体を動かす事が向いてるみたいだ。だがしかし。


「俺は穏やかに暮らしたいんだ」


「ユキツネ、ならば尚更旅に出るべきなのだ。今のままではそう遠くない未来にユキツネはくたばるだろう。私の飼い主が貧弱では困るのだ」


「そうね、ユキツネってば今まで見た男の中でもダントツに貧弱よね。よく今まで生きてこれたって思うわ」


 えらい言われようだ。しかし全く否定出来ない。何せ此方は文明が地球よりも発達していないから、一般人も割りと引き締まった体をしている。電車や車も無いから自分の肉体だけが頼りだ。エルフのちっちゃい子供だって遠くの村から自力で歩いて街へやって来る。俺は最初はヘトヘトになった道のりを。


 相談しようそうしよう。





「私は構いませんよ。陛下が今よりも丈夫になられるのでしたら、むしろ賛成します」


 カイラスに意見を聞いてみた。ああ、俺って肩書きだけの王様だもんな。しかしその肩書きこそが大事だって。俺がちょっとした事で居なくなると、エルフの皆が路頭に迷うかも知れない。それを避けるには俺の存在が大事なんだ。


「ほら、許可されたから早速行こう!早い方がいい」


「カミルは慌てすぎだ。そんなに急いでは行けないぞ」


「人間は寿命が短いくせにのんびりだな。そんなんじゃ気付いたら年寄りになってしまうぞ」


「浦島太郎じゃあるまいし」


「それが誰かは知らんが、さっさと支度するのだ」


 俺は全然気が乗らないのだが。カミルがやたら張り切っている。何とかこの話がうやむやにならないものだろうか。


 しかし翌日の朝にエレノアとエンジュも張り切って旅の準備をすると言ってきて、何時でもバッチリだと。俺以外のメンバーが全員乗り気だ。これから寒くなるんだぜ?家が一番だろ。

 そんな俺の気持ちを無視して旅支度は整った。まあ何時もの様にリュックに必要な物を詰めるだけだ。それ以上も以下もない。


「わくわくするよねえ。新しい土地に行くのって」


「エレノアは前向きだな。旅なんて疲れるだけだろう」


「ユキツネだって何だかんだで旅をしてるじゃないの?」


 俺のは旅ではない。現実逃避というものだ。王様なんて身の丈に合わない役職から逃げ回っていたいのだ。だから家のこたつでみかんを食べて、冬をやり過ごすのが正しい生き方なのだ。


 目指すは西の大陸。事前にエレノアにエルフの村で設置した出入口の付近に、城の地下に設置した転移門から出入りしやすい場所を設定してもらった。城から大陸を渡れる方が便利だからな。


 エルフの村は村人が魔力を貯めて渡るが、人間の方は魔術師が集まって渡る。魔術師を集める代わりに魔方陣を編み込んだ絨毯と、魔力をたっぷり込めた魔石が不可欠だ。エルフは皆が魔力がちょっぴり高めで、有志によって魔力が込められるので、費用がかからない。一方人間の方は魔術師が貴重で国が管理している。魔石も高いのでお金がかかるのだ。


 以前に俺が襲われた事件で大きな魔石が三つ手に入った。一回使うと魔力が減ってしまうのだが、何せ魔力が強いらしいテオが居るから、何度でも補充出来る。国費を減らさずに遠くに行ける。


 そんな訳で俺達は旅立った。近くの村で一番足の早い地竜を使える御者を雇い、一気に大きな街を目指す。王様って引きこもりしている姿が正しいと思うのだが。しかし俺以外はとっても乗り気だから仕方がない。


 王様ってなんだろう。






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